正しい画を求めて⑤ 私、グレースケールくらい色差⊿E2未満にしろっていったよね?

ここまでモニタの色を測るとはなんぞや、を見てきた。
なるほど本気でやるの超大変、機材だけ良くても全く無価値。。というのもわかったところで、genuine hdr colourで採用している校正ワークフローと一般的なワークフローとして、ハードウェアキャリブレーションに代表されるLUTを用いるワークフローとiccを使ったワークフローを見てみよう。

そもそも一般に校正と言われている工程は2つに大別できる。
一つはlutを使用する方法で、これが本来の校正、キャリブレーションだ。もう一つはiccによるもので、これはプロファイリングやカラーマネジメントと呼ぶべきである。

lutを使った校正では目的のカラースペースを指定し、測定した結果から各座標ごとの色差を補正するよう、出力にズレの逆の歪みを与える。
50kgのものを55kgと表示するならば50kgと表示させたい場合には予め5kg引けば良い、という考えだ。
rgbそれぞれ三原色の0から100%までに測定値の逆の歪みを与えることで、結果的に正しい出力を得る。
この方法は1d lutと呼ばれ、利点はとにかく早いことと、rgbおよび白の明るさの変化と、無彩色の色差の補正が高精度に行えることにある。
pcであればvbgt、一部のハードウェアキャリブレーション対応機は1d lutを入力出来る。

しかしこの方法には限界もあり、色相や彩度の補正はこれでは行えない。
色相、彩度補正には3d lutと呼ばれるものが必要で、これは対象とする色空間が出力しうるすべての表色を、rgbを三軸とする立方として考える。
立方の中央を貫くラインが無彩色、すなわちグレースケールになり、各三辺は黒または最大輝度の白からrgbそれぞれへ、rgbから2辺、たとえばrとgを2辺とする平面の対角は黒や白からyへの変化を示す。

この方法の利点はあらゆる色も明るさも補正できることにある。1d lutの機能に相当する補正も3d lutで実現可能だ。
デメリットとしては1dのほうが精度をだせることだ。この方法はありとあらゆる色を測り、lutに補正情報を組み込めば理想的な校正となるが、それではlutサイズが膨大になるため通常はrgb各辺を17や33、最大でも65ポイントに区切った補正情報になる。
実際のモニタのlutは17や33ポイントにとどまることが多いのが幻日・・・もとい現実だ。
とはいえ、これでも十分な精度は実現でき、実用において問題とはされていない。
加えて測定時間の長さだ。3d lutを十分な精度で作るには測定点数が多くなり、測定時間がどうしても長くなる。
しかし先述のとおり機能に優れるこの方式は、色の正確さを求められるリファレンスモニタでは当たり前の方式である。
モニタやテレビを特定のカラースペースで正しく表示させたい、ならば基本的にこの方式が用いられる。

本来であればledの出力特性や液晶の駆動が直されるべきではある。がそれは莫大なコストをかけても実現は困難であり、かつモニタの表示自体も経時的に変化することからコストに見合うものではない。
かつてのアナログCRTの補正はまさにこの思想であり、その校正は難度を極め、非常にコストの高い存在であった。
構造上デジタル補正を行わなければ彩度にマッピングをかけることもなく、逆に彩度が動くようなこともなかったであろうことはまだ校正作業を現実的にしていたのではないかと想像できる。
とはいえ蛍光体の特性から色相がずれるようなことはあったであろうと想像する。
もはや化石以外の表現はないが、この時代の機器を今も愛用する人は苦労しているだろうと労う他ない。

さて、ここまでがLUTによる校正の中身となることだ。
モニタの今の出力特性を把握し、対象となるカラースペースの表示へと合わせこむ。
Windows PCであればそれは通常sRGBであるし、映像編集であればbt.1886が基本となる。Genuine HDR colourが扱うHDRの場合はこれらにGamut、Luminanceのマッピングも加わるとはいえ、基本は変わらない。

もう一つの方法はICCによるものだ。Genuine HDR colourとしてはこれはキャリブレーションと呼ぶべきではないと考えている。
プロファイリング、カラーマネジメントと呼ぶべきものであり、ではなぜそう呼ぶべきかを見てみよう。

ICCはモニタの特性を把握し、必要に応じてアプリケーション(ただしMac OSはOSがICCに対応する)に特性を伝える仕組みである。
3D LUTと似たようなものでは、と思うかもしれないが、3D LUTは対象とする色空間にモニタの出力を合わせるための補正情報そのものである。
P3ネイティブなモニタであっても、3D LUTによって色は減衰され、sRGBの表示をさせることができる。
これに対し、ICCはたとえP3ネイティブなモニタをsRGBで表示したいと思っていてもICCが直接介入することはない。
ICCに対応したアプリケーションにこのモニタはP3の色が出る、明るさはこれくらいある、と伝えるのみで、実際に補正の処理を行うのはICCを使用するアプリケーション側に委ねられる。

これは校正の観点から見ると不十分であり、3D LUTで行うような高精度な彩度管理、色相補正は到底望めない。
また、目標とするカラースペースのプライマリがモニタよりも広い場合の処理も、3D LUTであればどのように設計するか(レンダリングインテントという)を校正時のLUT設計で調整する事ができるが、ICCの場合はアプリケーションの処理に委ねられてしまう。

その結果ICCで色管理をするアプリケーション、具体的にはPhotoshopなどがそうであるが、その色再現性など極めて怪しいというほか無い。
勿論3D LUTと併用し、正しくAdobeRGBやP3といった標準規格に校正されたモニタをICCでプロファイリングする、ということであれば問題はない。
プロファイリングとは以前の測りの例で言えば、例えば長さを測定するメジャーがm単位だと思ったらヤードだった、というようなものだ。
ヤード単位であることを知らねば正しく使えないのはもちろんだが、いかにそれを把握できたところで、その中身となるスケールの精度があっているかどうかは誰も保証していないのだ。
これがICCにおける問題点であり、Genuine HDR colourはICCを校正とは呼べないと判断する理由である。

余談だがICCは校正情報を持たないのが本来であるが、例外としてVCGTを内包することができる。
WindowsでもICCを当てて色味が変わることがあるが、これはVCGTを含むICCを当てることでVCGT補正がかかるからである。
ならばグレースケールだけでも校正と呼べないかと思うかもしれない。が、これも否である。
1D LUTの補正を十分な精度で行うにはLUTの適用と測定を繰り返し行う必要がある。
例えばDispCalやX-rite標準のソフトで測定をする場合、都度VCGTがリセットされた状態でグレースケールを取ることになり、1Dの補正はその情報のみで行う。
十分な1D補正は少なくとも2~3度は繰り返さないと不十分であり、たった1度ではグレースケールであっても色差⊿Eは2以上の箇所は散見されてしまい、到底満足な校正とは呼べないのである。

ここまででモニタの色を測るということ、どういった機器を用い、どんな仕組みで補正をするかの基礎を知ったはずだ。
次は実際にDispCalとmadVRを用い、HDRモニタの校正を行うフローを見てみよう。
HDRであっても彩度や輝度のマッピングをどう考えるか、が加わるのみであり、基本の校正手法はSDRと変わらないので、SDRしか扱わない場合も参考になるはずだ。

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