SDRとHDR。そもそも何が違う?

映像表現をより高めるため、HDRという映像規格が登場して既に5年になろうとしている。

そもそもSDRやHDRとはなんだろうか?
一般にSDRはStandard Dynamic Range、HDRはHigh Dynamic Rangeの略称である。一般的な理解ではコントラストを過剰に強調した写真の表現手法や、映像を多少見るものであれば明るい映像のことだと思っているかも知れない。

映像表現に関して言えばこの何れも間違いである。写真でHDRと言っているものはHDR合成写真といったものであり、本来はセンサーの能力を超えたダイナミックレンジを仮想的に実現する技術であるが、近年では異常なコントラストを付けることで破綻した画を作るために使う者が多い。
映像を明るくすることも、これもまた本質的には関係していない。HDR映像と言っても決して明るいことを意味しないからである。

映像規格として考えると、SDRは例えば以下の規格が相当する。
sRGB、bt.709、bt.1886、bt.2020、SMPTE ST428-1が代表的と言えよう。
一方HDRはbt.2100に代表される。

ではこれらは何が異なるのであろうか。
技術的に言えば、ガンマ特性と想定する輝度レンジ、加えてカバーする色域が異る。

SDRに関して言えば、前者4つは一般にガンマ1.8から2.4を想定しており、ST428-1では2.6を定めている。
加えて、想定する色域が異なり、前者3つはrec.709またはsRGB(sRGBはrec.709に近似)を採用している。
過去の例を言えばSMPTE ST 170M、いわゆるNTSCではAdobe RGBに近い色域を想定していた。
bt.2020は近年の広色域パネルを想定したものであり、ガンマは通常のSDRであるが色域はrec.2020を採用している。
SMPTE ST428-1はいわゆるDCI規格であり、ガンマ2.6 P3(DCI)を採用した規格である。
*DCIで用いる規格そのものはCIE-XYZであることに注意したい。

HDR、つまりbt.2100では二種類のガンマに大別することが出来る。SMPTE st2084とARIB STD-B67とも呼ばれるHLGである。色域は何れの規格もrec.2020を採用している。
*HDRでも劇場用規格はP3領域を使ったCIE-XYZの筈である。

なお、実際のHDR映像においては、色域は2020であるが実際に使用する領域はP3とすることが多い。
シネマの規格がそれである、ということもあるが、現在のディスプレイではP3程度までしか表示することが出来ず、2020を完全にカバーする製品は存在しない。
4K HDR anime channelではリファレンスモニタとしてASUSのPA32UCXを採用している。本機は量子ドットによりrec.2020の90%という超広色域をカバーしているが、これでもrec.2020の全てを満たすことはない。
rec.2020が表現しうる最大の色はほぼRGBレーザーの色であり、現状でそれを表現可能であるのはRGBレーザーバックライトを採用するLCDやRGBレーザープロジェクターに限られ、民生機には存在しない。
映像制作において表示できない領域を使用することは品質保証の観点から推奨されず、また必要な色の表現はP3で十分可能であることから、使用する色をP3に制限することは非常に理にかなった判断と言える。
*ネットフリックスの様にP3制作を指定し、納品にP3であることを要求するプラットフォームもある

色域の違いはまさに表示される色の違いに直結するが、ガンマの違いは何を意味するのであろうか?
この理解にはSDRとHDRで想定する輝度レンジが大きく異ることを知る必要がある。
この辺りは次の機会に譲るとして、先ずは表現として想定する色や輝度のレンジが違うのだ、という理解をしていればよいだろう。


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