見出し画像

スト6CRカップに見る 結果論とプロセス論

どうもこんにちは、セカストです。今日は気分を変えてゲームとそれに纏わる日本と西洋の違いについてダラダラと書きます。

先日ゲームの展示イベントTGSにてストリートファイター6の大会「Crazy Raccoon Cup」(以下CRカップ)が開催されました。

実を言うとセカストはもう10年ぐらい格ゲーマーで、スト6も勿論プレイしています。最近は本田とマノンでマスターランクに到達しました。

さて、そんなCRカップを巡って実はアメリカのX(旧Twitter)ではこんな議論が起こっています。
「アメリカでもCRカップのようなイベントを行なってプレイ人口の拡大を図るべきだ」

この提案を皮切りに非常に多くの議論が現在でも交わされています。「アメリカは日本と違って個人主義だから難しい」「アメリカではCrazy Raccoonのような大きな組織の協力を得るのは難しい」など、さまざまな意見が見られます。

このように海を超えても注目されたCRカップについて、「なぜここまで支持されるイベントになったのか?」「アメリカのような海外では本当にこのようなイベントは難しいのか?」について、私なりの意見を勝手に述べたいと思います。よければ読んでってくださいね。

なぜCRカップはここまで人気になったのか?

CRカップはチーム招待制の大会であり、格闘ゲームの有名なプロプレイヤーのみならず、主に有名なゲーム配信者やVtuberなども招待したことで、今まで格闘ゲームに縁のない多くの視聴者の興味を引きました。それが人気の一つであることは、わざわざ私が書くまでもありません。

しかし敢えて言うなら、ただ単に「人気の配信者を起用した」というだけであればあそこまで爆発的なイベントにならなかったと思うのです。

CRカップでむしろ大きく注目すべきなのは、「大会で試合に挑むまでのプロセスまでもパッケージで売り出した」という点にあると思います。

どういうことかと言うと、今回のCRカップは計20人全4チームで開催されたわけですが、それぞれのチームが初めて顔合わせ(といってもネット通話ですが)するところから、みんなで一緒になって練習するところ、そして休憩の合間のちょっとした会話まで、その「プロセス」を全て配信で見ることが出来る、ということです。

このプロセスを各配信者のファンは全て(または一部でも)見ているので、本番である大会の試合もまるで親のような気持ちでファンは見ています。ただ単に試合だけを見るよりも、より感情移入して試合に見入ることが出来るのがCRカップの魅力なのです。

普段であればお目当ての選手のみばかりに注目することもあると思いますが、大会前の練習を見ているとお目当ての配信者を長い間見てる分、他のチームメイトとの絡みも当然見ることになります。するとどうなるか?自然とそのチームメイトの事も気になり出す人も多くなり、お互いのファンがお互いの配信者を好きになったりファンになったりするという相乗効果もありました。やはりこれも練習風景であるプロセスを積極的に配信してきた効果だと思うのです。

私個人の意見として、これからの時代にこういったプロセスを売り出していくことは重要だと思っています。
というのも、ジャンルにもよると思いますが、昨今AIなどの技術発展により、「結果」を出すことが非常に簡単になってきたと感じるからです。

簡単な例の一つがAIによる「イラストの生成」であると思います。最近では「AI絵師」と名乗る人がSNS上で増え、「わざわざ多くの時間を割いて絵を描くなんて非効率的だ」という意見まで目にした事もあります。
確かに商業的な面で効率を大事にすることは非常に重要だと思います。「生産性」を今まで軽視しがちだった日本であるからこそ尚更思うところもあります。
しかし、「絵を描く」という行為は必ずしも「お金を稼ぐ」ことだけが目的では無いはずです。
下絵を描いて構図も考え、ようやくペン入れをして色も入れる。色はコピックで塗るか、それとも水彩にするか、はたまたデジタルにするか……などなどそういったクリエイティブなプロセスが好きで絵を描いている人も多いはずです。
AIはクオリティの良し悪しはあれど、「結果を出力」することに関しては優秀かと思いますが、その過程を人に伝えることは難しいと思うのです。仮に伝えられたとしても「このプロンプトで出力しました」と人に伝えて、それで心が大きく動く人は少数派でしょう。そこに人間の想像力を沸き立てるストーリーが欠けているからです。

話をCRカップに戻します。CRカップはまさにそのプロセスを視聴者を含む皆が共有していたからこそ、あそこまで人の心を動かすイベントになったのだと思います。私も格闘ゲームをそれなりにやって来たので、正直言うと私から見ても技術的にはかなりお粗末な試合もあの大会ではありました。しかし、今までのプロセスを見て来た視聴者としては、そんな事は重要ではありません。
「ちゃんと今まで練習して来たことができているか」「今までの努力が実る、悔いのない試合が出来ているか」……そういうところを見ているのです。繰り返しになりますが私たち視聴者はもう親の気持ちです。言い方は悪いですが、応援している選手の技術レベルが低ければその気持ちも強まります。
良いか悪いかはともかくとして、日本には「頑張っている人を応援する」という土壌が、文化的あるいは習慣として根付いています。

ひとつ例を挙げるとすると高校野球がいい例かと思います。選手や学校によって、プロでも活躍が注目される上手い選手もいれば、お世辞にも上手いとは言えない選手まで様々だと思います。
私は高校野球はあまり詳しくありませんが、近所のおじちゃんおばちゃんや、学校近くの飲食店の人まで多くの人が応援に行くそうです。
おそらくそういった人たちは、練習風景なり、食事での和気藹々とした会話など、一部なりでも大会までのプロセスを見ているからこそ、その選手たちに愛着が湧いているのだと思います。そうなれば「いっちょ試合でも見に行ってみるか」となるのも不思議ではありません。
そこには「高レベルな野球が見たいから」とか、「あの子たちは将来プロになるから」という打算は……ないとは言い切れませんが(笑)、それだけで片付けられない親しみの上で応援に行っているのだと想像します。

恐らくCRカップにも似たような心理が多くの視聴者や観覧者にあった事でしょう。そういった観点からもCRカップは「日本で支持を得るための仕掛け」をいくつも作っていたと言えると思います。

CRカップのようなイベントは英語圏でも成功できるか?

前段落でわざわざ「日本で支持を得る」という表現を使いました。これからCRカップのようなイベントが海外(あるいは英語圏)で支持を得られるかどうかを書いていくわけですが、私個人の結論を言うと難しいのではないかと思います。

前述したように日本には「頑張っている人を応援する」という土壌があります。アメリカなどの英語圏にもそういった事が全く無いとは言いませんが、結果に至るまでのプロセスは日本よりも重要視されない傾向があります。

これは決して悪い意味で言っておりません。どんなことにも両面があるように、この結果重視の考え方もいい面と悪い面があるのです。
例えば私が知る限りアメリカでは目標さえ達成できればその間に何をやっていようがオーケーだという場合が多いです。例えば目標達成の間に寝坊しようが遅刻しようが、ゲームしてようがお酒を飲んでいようが、目標を達成できれば問題ないだろうという考え方の人が多いと思います。結果こそが評価の基準だと言えます。
しかし日本ではその過程さえも評価の基準に入れられることも少なくありません。例えば同じような結果を出したとしても上記のような行動をしていたのならば、結果が帳消しになると言っていいぐらい評価されないことも珍しくありません。
勿論、先述したように日本では労働生産性の問題が取りざたされることも多くなり、このような考え方を見直そうとする動きも出てきています。一生懸命働いているはずなのに出した結果が、途中でゲームをしたり酒を飲んだりしている人と同じでは、明らかに働き方を見直す必要があります。逆に言えばゲームをしながら同じ成果を上げたその人の労働効率を見習うべきなのです。
日本でも少しずつこう言った議論が進んできてはいますが、今だに「どのようなプロセスを経たか」は重視される風潮は強いです。相変わらず(サービス)残業が減らないのはこの「プロセス重視」が根強いのも要因でしょう。言い方は悪いですが、日本は出した結果に関わらず「なんか頑張っている人」をより良く評価しがちなのです。

またCRカップに話を戻します。CRカップは初心者の選手もいるので、技術面だけ見れば「クオリティが低い」と評価されてしまうような試合もあります。しかし日本人はプロセスをしっかりと見た上で結果を評価します。出した結果(この場合は試合内容)がお粗末だろうが、一生懸命頑張った上で真剣に試合に臨む姿が尊ければそれで良いのです。労働においてはこれが必ずしもプラスにならないことは前述した通りです。
しかしCRカップではこれが見事に良い方向に働きました。視聴者は選手が一生懸命練習した風景を見て、その成果が発揮されたりされなかったり、勝った時の嬉し涙や負けた時の号泣までも共感して楽しんでいます。

これ何かに似てるなと思ったら、日本のアイドル活動に通じるものがあると思います。私もアイドルのコンサートに何回か足を運んだことがありますが、彼らがライブ中に発する歓声やコーレスは、演者のパフォーマンスへの感嘆というよりは推しのアイドルへの「応援」の意味合いが強いと私は感じました。
そういえば本当かどうかは知りませんが、あの松田聖子さんはあまりにも歌が上手いため下手に歌うように指示されたことがあるそうです。その真意は定かではありませんが、想像するに歌が上手いとファンが応援する余地がなくなるからかも知れません。やはり日本人は応援することが好きなのでしょうか。

さて、こういった「応援文化」が英語圏ではどうかというと、全くないとは言い切れませんがやはり日本よりは歓迎されていないように思います。向こうは結局最終的に出したものの良し悪しで評価される傾向にあります。アイドルがいくら一生懸命頑張ろうが、結局ステージでのパフォーマンスが悪ければブーイングされるのは珍しくないと思います。

勿論これまで私が書いてきたことはあくまで一般論だったり、私の偏見も多分にあります。蓋を開けて見るまで分からないこともありますが、予想を立てるのであればCRカップのようなイベントを英語圏で行い、技術レベルがほぼ初心者のプレイヤーが賞賛されるかというと微妙ではないか……というのが私の予想です。

私が知る限りFGC(格闘ゲームコミュニティの通称)は基本的には優しい人たちが多いですが、一方で保守的な人も多いと聞きます。スト6で導入された必殺技のコマンド入力が従来よりも簡単な「モダン操作」も、一部海外では「こんなものを使うのは初心者だけだ」と敬遠されがちだと聞きます。そういった話を聞くと、日本よりも未経験の人が格闘ゲームを始める精神的ハードルが高いのだと感じます。

CRカップは反響も大きく、開催後にはストリートファイター6の日本での売り上げが上がったと聞いています。プロモーションとしては大成功なのは間違いありません。
この成功を引き合いにして一部海外プレイヤーが「日本でのこの成功を見習うべきだ」と議論を起こしています。実際にアメリカのイベント主催者がこの件について発言。「このようなイベントを行おうと試みたこともあったが、難色を示された」とSNS上で投稿しています。

思わぬところで日本と英語圏の違いを見ることができました。勿論どちらの国が良いとか悪いとかそういうことではありません。「プロセス重視」は良い方向にも悪い方向にも働くことは先ほども書いた通りです。
プロモーションイベントを行う際には、その国や地域に根付いた考え方や習慣をしっかりと理解することが大事です。もし海外でCRカップのようなイベントが行われたなら、その地域なりのチューニングが必要かと思います。その際にはどのようなイベントになるのか、どのような盛り上がりを見せるのか、非常に楽しみですね。

※この記事はここで終わりです。
この記事が面白いと思ったら、この記事を投げ銭として購入して応援していただければ幸いです。

ここから先は

13字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?