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ままならず生きていく:Anizine

先に書いておきます。

この話の結論は、Anizine定期購読メンバーに向けてだけ書くので、メンバー以外からのご意見はエレガントに無視します。

電車で隣の人の新聞が読めないからと言って、買っていない人が「もっとこっちに向けろ」と要求できるでしょうか。そう言われて断るのは「情報にお金を払っていない人」への排除や差別をしているのではありません。正当な権利ではないからです。ここまではご理解いただけると思います。

というように、比喩や単純な例を持ち出すと、意図が理解できずに表面的な単語について怒り出す人がいます。「ネットと新聞は違うだろ」などと言うのです。新聞は「権利の比喩」であるにもかかわらず。

この原因はわかっています。「文学がわからない」のです。晴れた夜に散歩をしながらあなたとふたりで月を見上げることはうれしい。なぜならあなたのことが好きだからです。という文学性がわからない人は想像以上に多いのです。

完全に決めつけてしまいますけど、世界は整合性のある論理で動いているという考えの人はそうなりやすいものです。つまり月が綺麗であることと、となりにいるが好きだという命題に論理的な関連が見いだせない、と本気で思っている人です。こういう人は、自分が考える論理を元にして、他人の論理破綻を発見することにのみ命をかけています。

現実世界ではそういうつまらない人とはソーシャル・ディスタンスを保ってつきあわないようにすればいいだけなんですが、ソーシャルメディアの領域では、どこから彼らの矢が飛んでくるかわからないから怖いのです。ここでも「矢」という慣用表現を使ってしまいましたが、比喩ですよ。

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世界はコンピュータのプログラムのように整然とは動いてくれません。むしろロジックを踏み越えた破綻の方が優勢と言っていいかもしれません。理想の設計通りにすべてが動くなら、過去に戦争も環境破壊も政治腐敗も起こっていないはずだからです。民主主義の理想がこれだけ言われていても独裁はあるし、クーデターはある。ではなぜそれが防げないのか。それは世界が理想の論理ではなく、制御・予測不能のカオスでできているからです。

驚くべきことに、ギリシャ時代に民主主義の考え方が生まれたとき「民主主義は理想に近いが、大きな分断を作り出して人々の格差をより拡大することがありうる。さらに広く政治参加が可能になることによって衆愚政治が発生するだろう」というところまで、彼らは予言しています。民主主義も完璧ではなく、あらかじめ破綻を想定した上で生まれているのです。

このように、すべてのことはギャンブルのように結果が予想できないままに進んでいる。人生におけるギャンブルや予想や、それが外れたときの落胆を表現したのが文学です。

「ままならなさという破綻を認めて、生きていく」

これが真理です。でもプログラムコードを書く人(比喩)は、自分のコマンドで世界は論理的に動くと勘違いする幼稚さを基準に生きています。やるせないほどに厳然と存在するカオスを学んで認めてこなかったから、整合性優先の暴力的な正しさを他人にも強いるようになるのです。

さあ、ここからは賢明なる、定期購読メンバーとの対話です。

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。