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横浜と横浜と福島。

俺は横浜で生まれ育ったんだけど、小学生の頃に両親が離婚して後任の父親が福島県の出身だった。それまで「カブトムシはデパートで買うモノ」と思っていたレベルの都会っ子だった俺が、父親の故郷・福島を初めて訪ねた。

夏休みに父の実家にクルマで向かう。前任者の父親の祖父母も横浜に住んでいたから、そもそも「帰省」というのが初体験なのだ。山下公園や横浜スタジアムの近所で育った俺には一面の畑とか、山とか、何もない風景が衝撃的だった。

面識のない親戚に紹介され「明日の朝、クワガタ採りに行くか」と言われた。「そんなに簡単に捕まるのかよ」と思ったが、翌朝玄関を開けると、扉についていたらしいクワガタが目の前にポトリと落ちた。田舎、恐るべし。

それを拾おうとしたら「そんなの、ほっとけ」と言われ、近くの桃畑に行くと桃が黒かった。ビッシリとクワガタやカブトムシがくっついているのを見て頭がクラクラした。苦もなく、大きな段ボール箱一杯、捕まえた。これを横浜に持って帰ったら俺はヒーローになれる、と確信しながら。

父親は若い頃から東京に出てきていたので、福島の様子が変わったことを嘆いていた。「なんであんなところに高速道路を作るんだろう。風景がぶち壊しだな」などと言うが、俺にとってはたった一本の高速道路はまるで目に入らず「カウアイ島かよ」と思うくらいの大自然に見えた。

その父親はもうずっと前に亡くなってしまって現在もなお死亡中だが、東日本の震災や福島の原発事故を見なくてよかったと俺は思っている。

高速道路が一本できただけであんなことを言っていたんだから、故郷である福島に「人間が住めない街ができた」なんて悲しいことを体験したらどれほど落胆したかと思う。

東北と聞くと、山形でも福島でも、なんだか父親のDNAが反応するのを感じる。DNAというのは血液じゃなくて、感情が繋いで運んでいく。横浜と横浜と福島が俺の故郷であります。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。