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落とし物のノート:博士の普通の愛情

渋谷の仕事場近くの公園にノートが落ちていた。深夜、ベンチの上に置かれたそのノートは街灯に銀色のラメラメな表紙を照らされている。周りに誰もいないことを確認してから表紙をめくってみた。1ページ目には「メモ断片 Minox」と書かれ、次のページからは何かの脚本のアイデアのようなものが書き留められていた。罪悪感もあったが、風に吹かれたかのようにごまかしながらサッとページをめくっては周囲を見回し、Minoxという人が書いた文字を追っていった。

1:新宿の裏通りでカップルがキスをするシーンが出てくる映画。そこはムードも何もない汚い場所なんだけど、かえってそれが印象的に感じる。その映画を観たある女性が、映画監督にメールをした。

「あの新宿のロケ場所って、私たちが初めてキスした場所ですよね。もしかして、今でも私のことを思い出したりすることがあるんですか」

監督はそのメールをじっと眺めている。

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恋愛に関する、ごく普通の読み物です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。