見出し画像

魚谷プロが九蓮宝燈を和了できる確率はどのくらいあったのだろうか?


1. はじめに

2月14日 (月)Mリーグ第1試合南1局1本場6巡目、東家のフェニックス魚谷侑未プロの手はこうなりました。

(以下、対局の画像出典はABEMA TV)

一通出来合いの平和テンパイ。待ちはの69m待ちと絶好。

ここで、解説の土田浩翔プロは「こっちかー。こっちだとリーチなんだよなー」と(土田さん、ふつうのこと言えるじゃんw)

しかし、

ここで

テンパイとらず!

7mを切って

最高で九蓮宝燈が望める筒子染めに舵を切ります。九蓮宝燈の可能性のあるリャンシャンテンにとったわけです。

この選択が賛否両論を巻き起こしました。

中には、悪意に満ちたものもあったみたい。魚谷プロも腹に据えかねたみたい。


そういう輩は放っておくとして、本局に関する記事をあげると、東川さんの公式の観戦記

連盟の黒木プロのnote

ゆうせーさんの動画

などがあります。

ツィッター等では、賛否両論ありました。「期待値で見て損では?」という主張です。

魚谷プロは、九蓮宝燈はもちろん意識したもののインパチ、バイマンに伸びる可能性を探っていたということでした。ご本人がスペースで語ってくれています。


2. 九蓮宝燈は別格


故小島武夫プロの九蓮宝燈、この動画を見た人も多いのではないでしょうか。

やっぱり九蓮宝燈は特別です。

Mリーグという晴れ舞台で、もしかして初の九蓮宝燈が出るかも!?

みんなの関心は期待値で見てどうかに集まっているし、魚谷プロ本人は九蓮宝燈だけでなくメンチンも見ているわけですが、私は九蓮宝燈テンパイ・和了の可能性はあったのかがすごく気になりました。

それがnoteを書いてみようというモチベーションです。


3.状況整理

状況を整理すると、南1局1本場6巡目、東家、ドラ9s、点数状況とテンパイとらずで7m切った直後の手牌は下の画面の通りです。

トップ目の松ヶ瀬プロまで23500点差。松ヶ瀬プロからの親マン直撃、脇からの倍満出和了り、ハネ自摸でトップになります。

魚谷プロ視点で、7mを切った直後の既知の牌は、
自分の手牌 13枚
各家の捨牌 6+5+5+5=21枚
ドラ表示牌 1枚
の合計35枚です。

従って、未知の牌(他家の手牌+山牌)は136-35=101枚です。
未知牌101枚のうち、九蓮宝燈に関係する筒子の残り枚数は
1p 1枚
2p~8p 各3枚
9p 3枚
の合計25枚になっています。関係ない牌(萬子、索子、字牌)は101-25=76枚です。


4.ストレート九蓮宝燈テンパイの確率は

改めて牌姿を確認しておきましょう。
テンパイとらずで、6巡目7mを切って手牌はこうなっています。

 7巡目と8巡目に9pを2枚続けて引いたら・・・

なんと純正九蓮宝燈のテンパイです!

9pを2枚続けて引く確率は、確率の問題に翻訳すれば、白玉が98個、赤玉が3個、合計101個の玉が入った壺に手を入れて、

上の壺から2回連続で赤玉を取り出せる確率です。

$$
\frac{3}{101} \frac{2}{100}=0.000594059
$$

です。ZEROさんの『麻雀手役大全』によれば、九蓮宝燈の出現率は0.0002%です。

上の数字を%に直せば、0.0594059%です。一般的な状況での九蓮宝燈の出現率0.0002%を超えています。

0.0594059%の確率ということは、上の手は1万回中約6回は純正九蓮宝燈をストレートテンパイできるということわけです。

小さすぎって!? でも、純正九蓮宝燈ですよ!


5.待ち当てクイズ


ここで一つ悩ましいことは、九蓮宝燈をテンパイしても、9p2枚引き以外のケースでは九蓮宝燈以外の待ちも生じることです。

冒頭のピンフ・一通のテンパイとらずはあり得ても、九蓮宝燈テンパイで九蓮宝燈にならない和了牌が出て見逃しはあり得ないでしょう

高目で九蓮宝燈テンパイしても、九蓮宝燈にならない待ちってどのくらいあるのか確認するために、唐突ですがクイズです!

下の1~9は9pと1~9pの各1枚をツモってテンパイした手牌を示しています。それぞれ待ちは何になりますか?

手元の紙などに書いて、考えてみてください(^^)/



答えは、こうです。

せっかく九蓮宝燈テンパイしても、純正の9以外は、安目だと九蓮宝燈にならなくて、しかも安目が九蓮宝燈の待ち枚数より多いか同じなのです。

例えば、上の1とか4だと369p待ちでふつうだったら、すごくうれしいはずなのに、一番枚数が少ない9pで和了らないと九蓮宝燈になりません。

和了牌の枚数を図にするとこうなります。

純正以外では、残り2枚の9pで和了らないと九蓮宝燈になりません。

やっぱり九蓮宝燈って難しい!



6.九蓮宝燈テンパイの確率は?

さすがにストレートテンパイの確率は小さすぎるので、残りのツモでテンパイする確率を考えましょう。

いま東家で6巡目の捨牌を捨てた直後なので、残りのツモは12回あります。

上の手で、九蓮宝燈をテンパイするためには、少なくとも1枚の9pと1~9pのどれか1枚を引く必要があります。

1~9pのどれか1枚の方が、9pだと純正九蓮宝燈、9p以外だと純正でない九蓮宝燈のテンパイになりますね。

7.くじのイメージ

麻雀の戦術はしばしばくじのイメージで語られます。

今回の局面は、赤玉が3個、青玉が22個、白玉が76個の合計101個のボールが入った壺から魚谷さんが12回ボールを取り出すイメージです。

このとき、いったん取り出したボールは壺に戻さないことにします(組み合わせ論で非復元抽出といいいます)。

赤玉1個以上&青玉1個以上引くとテンパイ、赤玉2個以上&青玉1個以上引くと和了というイメージです。

上の壺のイメージで考えれば、九蓮宝燈のテンパイ・和了確率を求める問題は、数学の確率の問題に”翻訳”して解くことができるというわけです。

なお、白玉を引かずに青玉を引く前に赤玉を2個以上引くと純正になりますが、これは計算がややこしいので割愛します。

確認したわけではありませんが、青玉を2個引くと、ほとんどすべてのケースでメンチンのテンパイになると思われます。

上述のスペースの会話から、魚谷プロ本人は九蓮宝燈も意識した上でメンチンの可能性を、赤玉と青玉を2個以上引くことを考えていたのかなと思います。

8.九蓮宝燈のテンパイと和了の確率は?

本稿のメイン部分です。

他家のポン・チー・カン・和了・放銃がないという仮定の下で最大12回ツモった場合、九蓮宝燈をテンパイできる確率は下の図の通りです。

18巡目までツモった場合には、0.304134475の確率で九蓮宝燈をテンパイできると考えられます。

ただし、計算の都合上、九蓮宝燈テンパイの前に九蓮宝燈以外のメンチンを和了してしまっているケースと各巡目までに九蓮宝燈を和了しているケースを含んでいます。

この手が12回のツモでテンパイする確率を求めるには、1から「九蓮宝燈をテンパイしない確率」を引く方が早いです。

テンパイしないのは「9pを1枚も引かない(赤玉ゼロ)=12回のツモが全部9p以外」の98C12通りと「9pを1枚引いただけ(赤玉1個)でほかに筒子は引かない(青玉ゼロ)」の3C1×76C11通り、「9pを2枚引くが(赤玉2個)1ー8pを1枚も引かない(青玉ゼロ)」の76C10×3C2の3パターン。

ただし、nCmは総数nからm抜き取るときの組み合わせを表します。

101枚から12枚取り出す組み合わせは101C12通りなので、テンパイしない確率は

$$
\frac {_{98}C_{12}+_{3}C_{1}\times {_{76}}C_{11}+_{76}C_{10}\times{_{3}C_{2}} } {_{101}C_{12}}=0.695866
$$

となります(余談ですが、noteに数式表示が実装されて上のようにきれいに数式を示せるようになりました。牌のフォントも実装してほしいものです)。

従って、テンパイする確率は

$$
1-\frac {_{98}C_{12}+_{3}C_{1}\times {_{76}}C_{11}+_{76}C_{10}\times{_{3}C_{2}} } {_{101}C_{12}}=1-0.695866=0.30413448
$$

となります。


12回ツモれば約3割の確率で高目九蓮宝燈のテンパイになる計算です(厳密には、上の計算でメンチンをツモ和了ってしまっているケースも含まれてちゃっています。それを除外するのはかなり面倒なので)。

n回(2≦n≦12)のツモ各ケースについて、テンパイ確率を

$$
1-\frac {_{98}C_{n}+_{3}C_{1}\times {_{76}}C_{n-1}+_{76}C_{n-2}\times{_{3}C_{2}} } {_{101}C_{n}}
$$

で計算することができます。


もちろん、点棒がない村上プロと松本プロは和了りにかけてくるでしょうし、松ヶ瀬プロも軽く流せる手が入っていれば流しにかかるので18巡目までツモれるかどうかはわかりませんが、けっこう大きな確率ではないでしょうか。

では、和了の確率はどうでしょうか?

他家がどう切るかは計算できませんので、ツモ和了のみを考えます。筒子が高い場なので(というか6巡目までに1枚も切られていません)、そうそう筒子が出ないことを考慮すればツモ和了のみを考えてもあながち間違いではないと思われます。

結果は、以下の図のようになります。

(高め)九蓮宝燈でテンパイしてかつツモ和了する確率は、18巡目までツモったとして、0.01320です。

九蓮宝燈でなく、メンチンとして和了する確率の方が大きくて0.02096です。

テンパイするまでが超無理ゲーなのに、せっかくテンパイしても純正以外ではメンチンで和了してしまう確率の方が大きいという落とし穴があります!

うーん、九蓮宝燈はやっぱり難しい!

なお、計算の理屈は、上掲の和了牌枚数の図で得られた九蓮宝燈/非九蓮宝燈の枚数と1p~9pの残り枚数から計算した加重平均を使っています。


9.期待値について


蛇足です。期待値について賛否両論があります。

他家のポン・チー・カン・和了・放銃がないという仮定の下で18巡目までツモった場合、東家6巡目で7枚残りなのでツモ和了の確率は0.599です。

なぜ、0.599なのかは下記の拙稿をご参照ください。

0.599という数字から期待値を論じることも可能ですが、議論はここまでにしたいと思います。


個人的にはフェニックスは右脳(感性)のチームなので、あの瞬間に魚谷さんがテンパイとらずが正解と判断したならそれが正解でいいと思います。

下記の拙稿のように、同じフェニックスの近藤誠一プロが倍満をツモって大逆転した名勝負もあります。

確率や期待値の議論も重要だし、自分はそういうのが好きですが、それとその試合が名勝負かどうかはまたちょっと違う話かなと思います。

もともとこの記事も期待値を論じたいわけではなく、九蓮宝燈が和了れていた確率がどのくらいあったのかなというのが動機です。

期待値の話は、まだ別な機会に、役満が絡まない手で語りたいと思います。

10.まとめ

2月14日 (月)Mリーグ第1試合南1局1本場6巡目、東家のフェニックス魚谷侑未プロは

でピンフ・一通のテンパイにはとらず、筒子手を目指して7mを外していきました。

このとき、他家のポン・チー・カン・和了・放銃がないという仮定の下で18巡目までツモった場合、各ケースの確率は

九蓮宝燈をテンパイ 0.304134475
九蓮宝燈でテンパイしてかつ九蓮宝燈としてツモ和了0.0132
九蓮宝燈でテンパイするが九蓮宝燈でなくてメンチンとして和了0.02096

でした。九蓮宝燈はやっぱり難しい!

この局は残念ながら九蓮宝燈は和了れませんでしたが、幻の役満にかなり肉薄したのは事実です。

Mリーグで、次の九蓮宝燈チャンスはいつ?誰が?

そして、九蓮宝燈第1号はいつ、だれが達成するのでしょうか?

魚谷プロの次の九蓮宝燈チャレンジが成功することを祈念して今回の記事を終えます。


最後まで、お読みいただきまして有り難うございます。


「いいね」を押すと、ランダムに1筒~5筒が出ます。

「いいね」を押して下の手牌を和了れるかぜひチャレンジをw



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?