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緊急事態発生(自宅待機 6)

 九段坂病院を退院するとき、N先生が中井先生の外来予約を25日に取ってくれた。
 ところが、11日に虎の門病院の脳外科を受診したら、すぐにでも手術しなければならないほど脳腫瘍が進行していることがわかったので、首のカラーを外してもいいかどうか中井先生に早急にお伺いを立てなければならなくなった。

 以前は寝ていて起き上がったときに頭痛がしていたのが、寝ている間も後頭部が痛くて気になるようになっていた。
 痛み止めのロキソニンを出してもらっているので1日3回飲んでいたが、効いているのかいないのか、痛みの程度に変化はあってもほとんど常に頭痛がしていた。
 やはり脳腫瘍のせいで脳が圧迫されているのだろうか。早く手術してしまいたい。

 1月13日(木)、午後、外来の予約を変更するために九段坂病院に電話した。
 整形外来の受付が出たのでわけを話すと、18日に予約を変更してくれた。
「N先生にもよろしくお伝えください」
 そう言って電話を切ろうとしたら、受付の人が、
「緊急手術が入っていなければ、今は比較的自由な時間だから、N先生につなぎましょうか。先生に直接聞いてみてください」
 と言った。

 しばらく待っているとN先生が電話口に出てきたが、風邪を引いたらしく喉が痛そうな声だった。
「虎の門病院から手紙が来ましたよ。カラーが外れたらすぐに手術するそうですね」
 臼井先生はどんなふうに手紙に書いたのか、N先生は悠長に構えている。
「緊急事態発生なんです」
 脳がむくんでいると言われたこと、すぐに手術しないと危ないような言い方をされたことなどを話した。
「なんだか急に不安になっちゃって」
「そうですよね」
 相変わらずN先生は優しいが、申し訳なさそうに、
「カラーを外してもいいかどうか、ぼくには判断できないので、中井先生の外来に来て話してください」
 と言った。
 N先生にカラーのことを聞こうと思ったわけではなく、受付の人がつなぐと言ってくれたことでもあるし、先生にも脳外科受診の報告をしたかったのでつないでもらったのだが、かえって悪いことをしてしまった。

 1月18日(火)、九段坂病院の外来受診。
 レントゲンを撮ったが首のワイヤーは異常なし。
 中井先生に、脳外科で意識障害になるかもしれないと言われたと話すと、
「だって小脳だろう? 平気だよ」
 という返事。
「腫瘍が首のより大きくて5センチもあるんですよ」
「だって小脳だから」
「脳がむくんでいるって言われました」
「そりゃ腫瘍で押されているんだから、むくみはあるだろうけど」
 先生は少しも動じない。

「ひと月やふた月は大丈夫だろう。そんなに急に腫瘍が大きくなったりはしないから」
「でも、臼井先生に『2月15日(次回の診察日)まで何も起こらないことを祈ります』って言われたんですよ。怖いでしょ?」
 そう言うと、中井先生はケラケラ笑い出した。
「脳外科の先生に脅かされたな」

 先生は、脳腫瘍の手術時の様子……うつ伏せで頭(首)に上から力が加えられる様子……をジェスチャーでやって見せた。
「こうやってガンガンやられるわけだから。とにかく2月末までカラーははめておいて欲しい。脳外科の先生に手紙を書くから」

 先生は手紙を書きながら声を出して読み上げた。
「……本人は早急に手術を希望しているが」
「えっ、希望していません」
 あわてて打ち消すと、
「じゃあ、『恐怖で』って付け加えておこう」
 と、本当にそう書き加えてしまった。

 中井先生は、頭痛は髄液とは関係ないが、髄液漏れが気になるので、脳腫瘍の手術をする前にもう1度MRIを撮りに来るようにと言われた。

 頭痛の話が出たのに、臼井先生から「頭痛と吐き気は脳腫瘍の影響だろう」と言われたことを話すのを忘れてしまった。
 中井先生と話していると、大したことはないという気にさせられる。
 もう1度虎の門病院へ行って、臼井先生によく聞いてこなくては。


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