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特許事務という仕事

転職を繰り返してきた中で、特許事務に出会ったのはいつ頃であっただろう。

それまで接客業中心にキャリアを築いてきたのではあるが、対面の仕事に疲れてきていたので、良いタイミングではあったかもしれない。

当時、父が特許の翻訳をしていたので、特許という分野に興味を持った。特許って何だろう?というところから調べてみて、発明を保護する権利ということを知った。全く未知の世界ではあったが、英語を使う仕事をしたかったので、特許事務(外国)をやってみようと思った。

ネットで募集がある会社を調べて、会社訪問を経て面接を受けた。しかし、結果は惨敗。未経験可、とはあったが、結局経験者がいれば経験者を取るものだ。

業界的に未経験は入りにくいということがわかり、早く仕事を決めたいと言うのもあったので、一旦特許事務を諦め、派遣の貿易事務を受けることにした。右も左もわからないながら、貿易事務では先輩方に恵まれ、一人前に仕事ができるようになった。仕事をしながら貿易実務検定の勉強も同時並行で頑張り、B級まで取得した。

特許業界にも検定があると知り、あるのとないのとでは未経験でも違うだろう、と思い、貿易事務をしながら知的財産管理技能士の資格を取るために勉強を始めた。国家資格だし持ってて損はないだろうと思ったからだ。

参考書片手に、毎日仕事終わりに2時間程、ファミレスに通って勉強した。自宅では勉強できないタイプだからだ。勉強をはじめて驚いたのが、試験問題の日本語が難しいという事だった。問題に慣れるまでに時間がかかった。

試験は筆記問題と、実技問題。実技問題といっても、筆記での実技問題だ。余り違いがわからなかった。3級から受けたのだが、3級はなんなく受かった。しかし2級は結構手こずった。筆記も実技も落ちたり、筆記だけ受かり、実技が落ちたりで、確か3回くらい受けたと思う。

晴れて2級を取って、貿易事務を辞めたあと、そのまま派遣で特許事務にチャレンジすることにした。でもやはり未経験は敬遠されがちである。が、運良く取ってもらえた会社があった。未経験は基本取ってないんだけど、資格をとって頑張ろうという姿勢が良かったから採用した、と言われた。ダメだから諦める、ではなく、努力を見える形にした結果が認められた気がして、嬉しかった。

働いてみてからわかったのだが、わたしは外国特許事務をやっている為、国内特許にはほぼ関わらず、資格は持っていてもなんの役にも立たない。そもそもこの資格は国家資格とは言え、職業に直結するものではないので取っても意味がないと言われている資格である、と後々に知った。そうではあるが、特許について無知だったわたしが特許とは何ぞや、を知るきっかけになったのでこれはこれで良しとしよう。

特許業界には、国内(日日や内内と言ったりもする)、内外(国内から外国に出す)、外内事務(外国から日本に出す)と、意匠、商標事務を分業でやっているところ、特許の段階ごとに分業しているところ、例えば出願だけ、中間だけ、登録だけと専門に細分化している事務所と色々ある。わたしはずっと内外を専門にしており、段階にわけてはやらずに出願から登録まで全て扱っている。

世の中には星の数ほどの発明があり、これが認められて登録されたり、認められず拒絶されたり色々ある。新しいものが好きなわたしは、たまに明細書(出願の時に出す発明の説明書みたいなもの)を読むのが好きだ。とは言っても、仕事の途中にそんな余裕がある時の方が珍しくもあるが。

特に忙しい時期というのはないが、年末や年度末は少し増えるかなと言った感じである。主に海外事務所とのやりとりが多いので、外国の祝日は何となくわかるようになった。1番大変なのが中国の新年の時期と国慶節の時期だ。1週間ほど休みになるので、期限のコントロールが大事である。

主に特許事務の仕事は、書類を準備して現地に送ったり、現地からの書類を受けたり、期限管理をしたりすることだ。1番大事なのが期限管理。2ヶ月や3ヶ月ペースで案件が動いていくので、今日明日事ではない分なかなか大変である。自分が持っている案件の期限を把握しておかねば、庁期限(特許庁に提出できる期限)を徒過すると、お客様の損害になりかねないからだ。基本メールベースのやり取りなので、出社したらまずメールチェックをし、メールはダブルチェックが行われるのが殆どである。見逃したまま放置すると、放棄になりかねないからだ。

出願したあとは特許庁により、新規性(新しい発明か)や進歩性(同業者が、容易に発明することができないものであるか)が精査され、それが認められないときはオフィスアクション(拒絶理由通知等)というものが発行され、こういう部分が認められませんよ、と記載された書類が期限2ヶ月から3ヶ月(国によるが、日本国内は2ヶ月、海外に出した場合は3ヶ月のものが多い)のものが発行される。出願人はそれに対して、審査員が認めてくれるように説明(応答)することで、特許査定(登録の予告)になることを目指す。特許査定になった後は、それにかかる費用を支払うことで特許を取得することができる。特許は20年(出願日から20年、審査の日数は含まれない)の独占権が与えられるものなので、それに対し費用(年金)を払い続けるのも特許権者の仕事である。20年に近づくにつれて費用が上がる。これを支払わないと、権利が放棄されたと見做されるため、権利を失う。

簡単にではあるが、上記のような流れが一般的だ。これに関する事務を負うのが特許事務の仕事である。ほぼパソコン上での仕事で、電話対応であったり来客対応であったりもする事がある。明細書に対して、特許庁から指摘された事項に対し、出願人にここをこうしたら良いですよ、と説明し、特許が登録されるようにサポートするのが弁理士の仕事である。その弁理士の業務の中で、事務の部分を請け負っている。弁理士は国家資格の中でも独占業務なので、弁理士の資格を持っていないと名乗れない職業だ。余談だが、一瞬勉強してみようかと思った事がある。しかし、それこそ大学で専門的に勉強していないとなれないので、すぐに断念した。理数系で賢くないと無理だ。いつも先生方のことを尊敬している。

そんなこんなで、私自身は特許業界に身を置いて5年くらいになる。事務所は3社目。経験さえあれば、転職はしやすい。派遣で働き、今の職場に来てから1年で正社員になった。今の職場は人間関係も良好だし、仕事がとてもしやすい環境である。もう40代になるし、ここで長く働こうかな、とプランしている。自分ごとながら、先のことはいつも考えていないことが多いので、結果どうなるかはわからないが、今のところこの仕事は向いていると思っている。

近い将来、著作権の勉強もしたいなと思っているところだ。

04.18追記
先週から知的財産に関するドラマがスタートしたので、知財に興味を持たれた方は毎週水曜日22時からの「それってパクりじゃないですか?」をオススメする。とてもわかりやすく描かれていたので、知財って何だろう?と思う方にも観て欲しい。余談であるが、このドラマこそ役者やってて知財の仕事をしている私にピッタリでは?と、出演したいなと思っているが、東京制作だろうから残念ながら出演は難しいだろう。

Anne

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