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0213_真緑くん

「本当は嘘だったんだ」
 しゃがんだまま、落ちている小石を指でいじくりながらポツリと言った。背後の夕焼けが、虹色のグラデーションのようで美しい。そのまま、静かにカエルが続けた。
「彼女があまりにも嬉しそうに吉川のコトを話すものだから、つい、ね」
 バツの悪そうな表情を見せ、カエルはちろりと舌なめずりをした。
『真緑(まみどり)』と言う彼の名字と、大きなその両目、笑うとにぃっと横に長く唇が一文字になるので、カエルに似ていると言われそのままあだ名になったらしい。爬虫類全般が好きだからとても嬉しいとカエルは以前に言っていた。
 
 カエルは今、恋をしている。

「吉川も多分、彼女のこと少しは気になっているんじゃないかなぁ。うん、多分、ね」
 自信がないとき、彼は「うん」とか「ね」とか、すぐにつける。同調と正誤確認を求めているのだろうと私はいつも密かに思う。
 恋をした相手が嬉しそうに別の友人である吉川の話をしていたことで、カエルは感づいてしまった。彼女は吉川が好きなのだと。そうしてカエルは自分を引いて、吉川を表に出した。吉川も君のことが気になると言っていたよ、と。そんなこと、吉川は言っていない。
 カエルは少し悲しそうな顔をした。
「吉川に伝えよう。うまく行ったらいいなぁ。俺じゃなくても彼女が喜んでいるならそれでもう、十分だよ、ね」
 私に同意を求め、私もうんとうなずいておく。嘘に嘘を重ねた。私はカエルに尋ねてみる。
「彼女のどこが好きだったの」
 私の不意な質問に、顔を赤らめて視線をきょろきょろ、小石をコロコロしながらまたポツリと答える。
「真緑くんって呼んでくれるんだ」
 続けて、俺はカエルって呼ばれるのも気に入っているんだけどね、とも言う。私も口を開いて見た。
「真緑くん」
 私が言うと、カエルが笑う。照れるじゃんかと小石を飛ばした。小石は私の靴に当たって止まり、その上に水玉が落ちる。
 カエルには、悲しまないで欲しかった。いつだって、好きなように笑って欲しいのだと、今になって気づいた。私はいつも、カエルが好きだった。

 真緑くん
 真緑くん
 真緑くん

 呼べば、私に恋をしてくれるだろうか。

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