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120単語でVRの世界をつなぐ ー トキポナのちいさな挑戦

まとめ

  • VRChatの魅力のひとつ「会話を楽しむ」ことは、言語の壁により全人類と楽しむまでには至っていない

  • シンプルな言語「トキポナ」でその壁を越えたり(あるいはハードルをくぐったり?)して遊んでいるグループがある

  • 言葉が通じる、意味が伝わるというponaな喜びをトキポナはVRの世界に広めつつある

はじめに

VRChatの楽しみのひとつに「いろいろな人と話す」というコミュニケーション要素があることに異論のある人は少ないかと思います (VR"Chat"ですしね)。
一方で、ありとあらゆる人と会話できるとは限りません。
とくに、その人が話している言葉が分からないという言語の壁は高く厚く、会話の範囲を大きく限定してしまいます。とはいえ、新しい言語を覚えるのは大変な労力です。
会話能力を向上するには「その言語を話せる人と会話のトライアンドエラーを繰り返す」ことが大切です。しかし、話し相手のモチベーションや時差、そもそも会話を試すために必要な会話能力をどうやって身につければいいのかという問題もありそう簡単にはいきません。
会話しなければ会話能力は身につかないのに、会話するための会話能力はない……まるで鶏と卵のような問題にぶち当たっている人は多いと思います。

ではもし「簡単な言語」というものがあったら、この問題を解決してより多くの人と会話を楽しめるようになるのでしょうか? これをバーチャルの世界で試している人たちがいます。今回は計画言語「トキポナ」を使ってバーチャルの世界をささやかながら繋ごうとする試みを紹介したいと思います。

かんたんなコミュニケーションをかんたんな言語で

プロイェクトバベルのワールド「だべりの棟」にあるトキポナ「全単語」のリスト。

トキポナは2001年にソーニャ・ラング氏によって作られた言語です(※1)。いちばんの特長はその極端なまでのシンプルさです。単語数はわずか120語(※2)、文法も文型1つのみ(※3)という研ぎ澄まされた単純さは、他の言語にはない際だったものです。「かんたんに表現できるものはなるべくかんたんに」という設計思想があり、複雑な文をつくるというよりは単純なコミュニケーションや思考を行うことに力点が置かれています(※4)。

このような特長から、単語や文法を覚えるための長いプロセスをなるべく短くして会話にチャレンジできるため、会話練習までのハードルが比較的低いこともうれしいところです。これを利用して、VRChatでトキポナを使って楽しむ試みがいろいろ行われています。

VRChatでのトキポナ

ma toki pona VR

月例の日米コラボイベント「monthly toki pona meetup」の集合写真

英語圏でトキポナ会話をVRChat上で実践しているグループがma toki pona VRです。Discord上では150人以上が集まり、トキポナの質問やイベント情報の共有を行っています。
また、毎週日本時間の日曜早朝に定期イベントを行っています。トキポナの初心者向け講座や、トキポナ会話にチャレンジしながらゲームワールドで遊んだりすることでトキポナに親しむことのできるイベントです。毎回2-30人が参加するので、言語交流系イベントではなかなかの規模です。
英語圏のイベントのため日本時間の朝4時と参加が厳しいですが、毎月初めのイベントでは日本の参加者に配慮して日本時間朝6時から開催してくれています。

イベントではわかりやすいトキポナ講座も開かれている

参加者はアメリカ、ヨーロッパを中心に、英語話者だけでなく色々な母語の方が来ています。参加者のトキポナ会話能力はかなりの差がありますが、「トキポナで会話したい」という思いは共通なので、つたない会話でもちゃんと聞いてくれます。また、トキポナそのものが単純な表現をよしとする言葉なので、ゲームワールドで遊んでいて、"pona!" (いいね!)や"pakala!" (くっそー!)などの単純なものでもなんとなくコミュニケーションが取れた気になるのもよいところです。

Projekto Babel (プロイェクトバベル)

プロイェクトバベルの本拠地「だべりの棟」ではほぼ毎日なにかしらやっている

日本語圏を中心にいろいろな言語で楽しむ多言語交流グループです。トキポナでもいろいろと遊んでいて、毎月6の倍数の日にトキポナを使ったイベントを行っています。内容はトキポナ講座だったり、トキポナを使ったゲームだったりとさまざまで、参加者の構成によっても柔軟に変えています。
先述のma toki pona VRとも密接な関わりがあり、お互いがお互いのイベントに参加しあうなど交流も盛んです。トキポナで会話を試しつつ、分からないところは日本語で聞くことができるのも日本語話者としてはうれしいところです。もちろんtoki pona taso (トキポナだけ)のイベントもあり、初心者から上級者まで幅広く対応しています。

6の倍数の日にトキポナ講座があり、はじめての人は一から教えてもらえる

日本語話者が多いので、「言葉がわからない人とトキポナなら伝わる」という喜びは体感しづらいかもしれませんが、トキポナに初めから触れるにはとてもよい機会だと思います。

トキポナはバーチャル世界をつなげるか

トキポナ話者はVRChatではほんの200人に満たない小さなコミュニティです。VRChat全体で言葉の壁を越えるほどのものではまったくありません。しかし、トキポナは母語の異なる人々と手軽に会話できるチャンスを確実に広げています。言葉の通じなかった人と通じあえるようになる喜びを手軽に共有できるトキポナに、あなたもチャレンジしてみませんか?

※1 公式サイトhttps://tokipona.org/
※2 公式文法書"Toki Pona, The Language of Good"に掲載されているもの
※3 トキポナでは「主語 li/o 動詞 (e 目的語)」のみが文として成立しているという意味で文型1つのみと説明しましたが、"pona!" (いいね!)や"toki!" (こんにちは!)といった一語文もよく用いられています
※4 複雑な概念を伝えられないわけではなく、トキポナで非ユークリッド幾何学を解説しているかたもいます(https://youtu.be/tL1WBUOqE48)

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