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舞台「パンドラの鐘」

先日、見に行ってきました。自分が見たときは、緊急事態宣言が出たタイミングだったので、この公演は東京では翌日が千穐楽だったのですが、急遽、自分が見た公演が東京の最終になってしまい、役者さんたちも心境複雑だろうなあ、、、、と思いながらの池袋です。

この作品は以前、野田秀樹さんがNODAMAPで公演したのと合わせて、同じ戯曲を違う演出家で上演するという試みを試して、違うキャストで蜷川幸雄さんが演出されています。当時の試みとしては非常に面白いものでした。個人的には野田秀樹版の天海祐希さんがすごく凛々しかったので、ラストシーンでの王女としての気高さみたいなものが素晴らしかったのを覚えています。

今回は、演出が熊林弘高さんで、シアターイーストで上演となりましたが、久々にこの戯曲の面白さを味わいました。

ストーリーとしては

『物語の舞台は、大平洋戦争開戦前夜の長崎。歴史の謎に惹かれ、考古学者たちが掘り出したのは、土深く埋もれた巨大な古代の鐘。その鐘の姿から、歴史から遠く忘れ去られた古代王国と、鐘と一緒に葬られた古代の秘密が浮かび上がる。決して覗いてはならなかった「パンドラの鐘」に記された王国滅亡の謎とは?そして、古代の光の中に浮かび上がった<未来>の行方とは・・・?』(野田地図・公式HPから)

ということで、実際にはその地で起こった王位をめぐる争いと、その国で起こる破滅的な出来事に対する王(王女)の殉死、そしてその出来事を原爆投下になぞらえて、野田さんが戯曲を作り上げています。今回、この作品を上演するにあたって、どういう演出になるかな?と思いながら見ていましたが、熊林さんは派手な場面はあえて「野田さんの語り」という手法を使いつつ、真っ暗にする演出を使いながら、劇場の観客にその場面の重さを伝えるという流れになっていました。これはやはり「劇場でみるからこそ」の感覚なので、個人的には見たあとの余韻の残り方も含めて、非常に良かったです。

この話の主人公であるヒメ女の国は盗人の国で、略奪をすることで国が栄えてきている。兄がいたが、その兄は狂人となってしまい、その兄は亡くなったことにして、妹が正式に王位を次ぐということを画策する。そのときに死んだことにされた兄の棺の中にあった身代わりの猫の死骸に気がついた葬儀屋の一人に、王女は興味を持ち、死罪のところを助けるところから話が動いていく、そしてあるとき巨大な鐘を略奪してくるが、これが長崎に落とされた原爆と符合していく。そこから王位を巡る話、そして現代における考古学の発掘隊との時間を超えたストーリーが動いていく。

このストーリー、決して難しいものではないが、現代の発掘現場における状況以上に、古代の国から現代に向けて、鐘の中に入っていくヒメ女の殉死が、未来への希望になるはずが、実際にはならなかった事実(原爆の投下)とのギャップに余計に寂しさを感じます。そしてその死んだヒメ女を鐘と一緒に埋めるミズヲの思い。そして最初のミズヲのセリフが、原爆が投下されたあとの焼け野原に死んでいく人々の風景に重なっていく、、、、この野田さんの作るセリフがこの作品では、現実を知っている自分たちにはどんどん迫ってくる。古代からの希望はとどくことはなかった。こういう事実と舞台上での言葉がシンクロするところに、この芝居の醸し出す悲しさが一気に伝わってきます。

時系列は、トントン拍子に変化していきますが、決して難解ではないです。これは役者さんのうまさも大きいと思います。今回ヒメ女を演じた門脇麦さんは良かったです。婚約者を裏切って、教授とくっつくタマキという役での小悪魔な雰囲気、ヒメ女としての気高さがどちらも感じられる演技。そしてその二役でのバランス感覚が非常にうまい。門脇麦さんならではの良さだったと思います。葬儀屋のミズヲ役の金子大地さん、オズのときのひ弱さとミズヲのときの威勢の良さ、どちらもうまく使い分けていたと思います。個人的にはミズヲのときの演技で「この目に入るすべての死体は俺が葬る」という野心みたいな部分、すごくにじみ出ていたと思います。

個人的には緒川たまきさん、やはり美しい、、、、、ということはもちろんのことですが、古代の国でのヒイバアを演じるときのエロさだったり、野心家な部分とか、もう緒川たまきさんの女性としての魅力全開で、昔からずっとファンなので嬉しさしかなかったです。ハンニバル役の松下優也さん、緒川たまきさんとの絡み含めて面白かったです。特にアドリブでのシーンは、客席爆笑でした。そのシーンと冷酷さのギャップが良かったです。柾木玲弥さん、ドラマなどでもお見かけすることが多いなと思いますが、舞台での演技、爽やかな感じが印象に残ります。もっといろいろな役、演じられるのを楽しみにしたい俳優さんでしょう。

個人的に、この作品は舞台装置も派手だった記憶があるので、今回シアターイーストでどういうふうに作っていくのか?に非常に興味がありました。特にヒメ女が殉死していくシーンなどはどうするのかな?と思いましたが、そこをあえて、野田さんのナレーションと完全な暗転にした演出はうまいと思います。他にもいくつか野田さんの語りで、話が動いていく部分がありますが、少ない人数でのテンポ良い演出という部分では、個人的にはいい組み立てだなと感じました。一人二役もリズムもよく切り替えられていて、個人的にこの作品って結構大掛かりなイメージが有りましたが、この箱・人数でこういう見せ方するのは面白いなあと。もう一回見たかったです。

野田さんの作品は、もっといろいろな人がいろいろな形で演出してくれると良いと思います。前回、コロナ禍で休演になってしまった「カノン」もそうですが、新しい感覚の演出家がどんどん手を伸ばしてほしい。特に野田地図初期というか夢の遊眠社時代の作品含めて、アレンジしていくと新しい客層が広がると思います。野田さんがいつまで池袋の東京芸術劇場のメインを務めるかはわかりませんが、そのポジションでいる間に新しい人が、新しいキャストでどんどんみたいなあと。個人的には夢の遊眠社時代の作品は、箱が大きくなくてもできるものが多いので「ゼンダ城の虜」とかどうでしょうと。

野田さんは戦争に関する記憶関連は、やや叙情的になってきているので、個人的にはそういう作風ではない時期の作品にチャレンジしてほしい。野田さんのそういう作品(エッグ、逆鱗など)が悪いというわけではなく、そういう作品は世代的な受け止め方の差が大きいと思う。若い人が演出にチャレンジするなら、野田さんが30代とかまでに書いたものをアレンジしてもらうほうが、違った味が出ると思っている。

今回の「パンドラの鐘」は、個人的には箱・人を考えて、演出の面白さが光った作品だと思います。


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