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「備えない防災」をもっと身近に。医学生デザイナーによる『いつもともしものふろしき』誕生秘話。

「備えない防災という概念を広めたい」
そんな想いを抱いた1人の医学生デザイナーが日常時でも災害時でも使える風呂敷の構想を描いたのは、2023年の夏のことでした。
それから約半年後の1月6日より、アナザー・カントウ展で『いつもともしものふろしき』を期間限定で販売いたします。
「新しい風呂敷の文化を群馬から日本へ発信したい」という信念のもと、『いつもともしものふろしき』の企画・デザインを行ったアナザー・カントウ展伴走デザイナー・群馬県高崎市出身の谷中晴香(たになかはるか)に話を聞きました。

【プロフィール】谷中 晴香(たになか はるか)
アナザー・ジャパン2期生
アナザー・カントウ/アナザー・チュウゴクシコク 伴走デザイナー
群馬県在住。群馬大学医学部医学科の4年生で、現在は医学実習に励みながらアナザー・ジャパンの活動をしている。大手教育企業のインターンでデザイナーとしての活動を始めて約2年になる。将来は「医師×デザイナー」として「群馬県の人々が健康に暮らせるような仕組みのデザイン」に携わりたいという夢がある。
好きな動物はビーバー。

医学生デザイナー谷中が風呂敷のデザインを作った理由

まず初めに、風呂敷のコラボデザイン商品を作成することになった理由を教えていただけますか?

谷中:きっかけは、群馬県の仕入れ担当・黒﨑が風呂敷を作る朝倉染布様の超撥水(はっすい)加工技術に惚れ込んだことでした。仕入れ出張を通じて育まれた繊維加工技術への偏愛を形にしてお客様に伝えるべく、コラボデザインを朝倉染布様と作りたいと感じたそうです。先方にコラボデザイン商品の製作を提案したところ、快諾いただきました。朝倉染布様には日頃より多大なるお力添えをいただき、感謝しております。

コラボデザインを提案されたのは黒﨑さんだったんですね。風呂敷のデザインはなかなか難しそうに感じます。黒﨑さんからコラボデザインの作成を依頼された時はどのように感じましたか?

谷中:「風呂敷」に対して古風な印象を持っていたため、正直アナザー・ジャパンらしい「ネオ・トラディショナル」なデザインを作るのは難しいのではないかと不安に感じていましたね(笑)。しかし、朝倉染布様の超撥水風呂敷の存在を知ってから風呂敷に対する価値観が大きく変わり、これならアナザー・ジャパンと親和性が高い商品を作れる!と希望を持ちました。

ー朝倉染布との出会いを通じて風呂敷の新たな可能性に気づいたというわけですね。超撥水風呂敷とはどういったものですか?

谷中:超撥水風呂敷は、「水を弾く=撥水(はっすい)」風呂敷なんです!超撥水とは、「水滴が面に対しておおよそ150°を超える接触角で接する現象」のことで、撥水よりも水滴が水玉に近くなるため転がりやすくなるのです。防水とは違い、織り目を塞いでいないため通気性が保たれるのでスカーフや膝掛けにしてもムレません。

風呂敷に撥水機能がつくと、カッパ、折りたたみ傘カバー、バケツ、汗で濡れたジム用品を入れる袋になるんです!まさに常識を覆す多機能な風呂敷です。
アナザー・ジャパンは、「新しい発見と懐かしさを届け、もうひとつの日本をつくる」というビジョンのもと、郷土愛を持った学生が地元の商品を仕入れて販売するセレクトショップです。朝倉染布様の超撥水風呂敷は今までにない、「アナザー」な風呂敷であり、アナザー・カントウ展になくてはならない商品だと確信しました。

ーお話をお伺いして、超撥水風呂敷はアナザー・ジャパンにピッタリな商品であることがわかりました。風呂敷を販売するのはアナザー・カントウ展ですが、谷中さんとカントウ地方との繋がりはありますか?

谷中:実は、朝倉染布様がある群馬県は私の地元なんです。現在も群馬県に住みながらアナザー・ジャパンプロジェクトに参加しています。自分にとって初めての商品デザインを地元の商品で行うことができ、言葉にできないぐらい嬉しく思っています!
元々郷土愛は強い方だと自負していたのですが、コラボ商品や企画展を作るにあたって群馬県のまだ知らない魅力をたくさん知ることができ、さらに群馬愛が深まりました。自分にとって馴染みがなかった風呂敷も、今では毎日持ち歩くほど愛おしい存在になりましたね。
モノを包むだけで終わらない、まったく新しい超撥水風呂敷の素晴らしさを皆様にお届けし、群馬県から新しい風呂敷文化を日本に広げていきたいです!風呂敷の販売日(24年1月6日)が待ち遠しくてたまりません!

谷中の想いが詰まった『いつもともしものふろしき』

ー今回デザインされた風呂敷について、詳しくお聞きしたいと思います。コラボオリジナル風呂敷の名前は『いつもともしものふろしき』ですが、これはどういった意味があるのですか?

谷中:「いつも」は日常時、「もしも」は災害時を表しています。超撥水風呂敷は、モノを包むだけではなく水を入れるバケツ、カッパ、負傷した傷口を覆う包帯、骨折した腕を吊るすバンドなどにもなります。

ー風呂敷から災害時での活用方法を思いつくのはなかなか凄い発想ですね。災害に対して普段から興味があるのですか?

谷中:実は、私は地元・群馬大学の現役医学部生なんです。将来は、育った群馬県に恩返しをするために群馬県の医師として働きたいと考えています。さまざまな医療の分野の中でも、県民の疾病の予防や健康の保持増進を行い「個人・社会を健康にする」仕組みづくりに携わりたいと思っています。

風呂敷のデザインを依頼される前に、救急科の授業で災害時における医療の難しさについて学習していたことと、災害時医療に関連する公衆衛生の分野に興味を持っていたこともあり、多機能な風呂敷と災害時医療との繋がりを見出すことができました。
アナザー・ジャパンに入ってから医学部生という属性に興味を持っていただくことが多く、医学部生の自分にしか発揮できない価値を産み出したいとずっと考えていたのですが、なかなか発揮できずもどかしい気持ちを抱えていました。今回、災害時医療に関係する風呂敷の案を思いついた時は「これだ!」と気持ちが高まりましたね(笑)。

ー見事、医学生である谷中さんにしかできない発想と、朝倉染布の超撥水風呂敷の機能性がマッチしたわけですね。

谷中:そうですね。ただ、リサーチの中ですでに朝倉染布様が「防災風呂敷」を過去に制作されていることを知りました。今回私が提案する『いつもともしものふろしき』は、既存の「防災風呂敷」と機能面では変わりはありません。しかし、アナザー・ジャパンを通じて、災害時医療の知見もある医学生の私がデザインを務めることで、より多くの人が風呂敷を手に取ってくださり、朝倉染布様の高い技術力だけでなく“備えない防災”という考え方も伝えていけるのではないかと期待しています。
「繊維製品に新たな機能を加え、人々の豊かな暮らしをつくりたい」という朝倉染布様の想いと、「地域社会の人々が健康に暮らせるような仕組みをデザインしたい」というアナザー・ジャパンの医学生デザイナーである私の想いを掛け合わせ、唯一無二の価値を持った風呂敷を作ることができたと自負しています。

商品デザインに対する熱すぎるこだわり

ー医学生デザイナーとしての想いが詰まった『いつもともしものふろしき』ですが、デザインへのこだわりについて聞かせてください。

谷中:風呂敷のコンセプトである「日常時でも災害時でも使える」点にとことんこだわりました。

実は、デザインを始めた当初は災害時に使えることのみを打ち出そうとしており、「防災風呂敷」と称して災害時の用途に特化するデザインを考えていたんです。例えば、風呂敷の便利な使用方法を風呂敷一面に書いたり、災害時に目立つ蛍光色にしたりするデザイン案を考えていました。

最初の案

ー『いつもともしものふろしき』よりだいぶ印象が違いますね。「非常時用のふろしき」といった印象です。なぜ「いつも」という要素を加えたのですか?

谷中:災害時医療についての学習の中で、「フェーズフリー」という概念を新たに学んだことがきっかけです。身のまわりにあるモノやサービスを、日常時はもちろん、非常時にも役立つようにデザインしようという考え方、それが「フェーズフリー」です。わかりやすく言い換えると「備えない防災」になると思います。
大きな災害の発生直後は防災意識が高いですが、いつしか薄れていってしまいますよね。“備える防災“はとても難しいのです。そこで生まれた概念が、いつもの暮らしがある「日常時」と、災害が起きた「非常時」という2 つの時間「フェーズ」を分けることをやめる、「フェーズフリー=備えない防災」なんです。

フェーズフリーについて学び、これは災害大国日本を生きる日本人にとって必要な考え方だと感じました。防災は備えるものだという固定概念を取り払い、備えなくとも災害に対処できる力を持つことは、これからの日本人が携えるべき生きる術なのではないでしょうか。

ーフェーズフリーは新しい防災のスタンダードになりそうですね。

谷中:そうですね。もうひとつの日本をつくるアナザー・ジャパンが、新しい防災のあり方を発信していく。これはまさに、私たちが風呂敷を通じて果たしていくべき目標にふさわしいのではないかと思っています。
何よりフェーズフリーは超撥水風呂敷にピッタリな概念であるため、『いつもともしものふろしき』を知っていただいた皆様にこの概念をお伝えしていきたいと思っています。

ー谷中さんが「日常時でも使える」という点にこだわったきっかけがよくわかりました。風呂敷はチェック柄を使ったシンプルなデザインになっていますが、それは日常使いのしやすさを意識されているのですか?

谷中:まさにその通りです!流行に左右されないシンプルなデザインを目指したかったのでチェック柄を採用しました。チェック柄は目盛りにもなります。
チェックの周りを囲む円形にもこだわりがあります!風呂敷の四隅をまとめて持ち手を作るように包むと、持ち手の部分は水色に(円の外側の部分)、本体の部分はチェック柄に(円の部分)綺麗に分かれるんです!物を包む風呂敷ならではの楽しさを感じていただけるデザインになったのではないかと思います。

ーなるほど!包むと2種類の柄のようになって面白いデザインですね。このデザインは谷中さんが思いついたのですか?

谷中:これは、朝倉染布様の「テント」という風呂敷を見た時に着想しました。黒と紅白の柄が綺麗に分かれていて、一目惚れしてしまいました。

そういうわけで円形のデザインを採用した訳なのですが、実はこのデザインに対しては賛否両論がありました。
アナザー・ジャパンプロジェクトにはプロのデザイナーの方がサポート役として参加してくださっています。プロのデザイナーの方に作成したデザインを見せた際、円形のデザインはものを包むときの見え方を重視し過ぎているので、日常で使うというコンセプトから離れているのではないかという意見をいただきました。
その意見を参考に、円形をなくした柄を数パターン考えてみました。

ー今とはまた違ったデザインですね。なぜ元の円形のデザインを採用することになったのですか?

谷中:日常時での風呂敷の使い方はものを包む形が多いと予想されたため、円形を取り入れたデザインでも日常時に問題なく使用できると判断したからです。もともと円形のデザインを気に入っていたこともあり、円形を採用して色を調整しました。

ー色も当初から変更して水色になっていますね。こちらはなぜ変更したのですか?

谷中:当初はパステルカラーとシックなカラーの2色展開を想定していましたが、途中でデザインは1つに絞ることになったため明るい水色をベース色にしました。
色彩心理学では、水色は集中力を高めたり、心を落ち着けたり、解放感を得られたりするなどの効果を持ちます。風呂敷を使う方が日常時でも災害時でも安らぎや自由を感じてほしいいう想いのもと、水色に決めました。

アナザー・ジャパンのブランドカラーである赤も差し色として使用し、アナザー・ジャパンで購入した風呂敷であることが思い出せるようにしています。普段と変わらない日常がずっと続くことが理想ですが、万が一災害に見舞われた際に、風呂敷のアナザー・ジャパンカラーを見て防災用品として使ってもらえるようにしたいですね。
最終的な配色は、AIの力を借りながらカラーパターンを出してしっくりくる色を選びました。

ー端に松のモチーフが見えますが、こちらはどういった意図でデザインされたのですか?

谷中:このモチーフは「クロマツ」です。クロマツは群馬県の県木に指定されているので、県民にとって馴染みのある木です。群馬県出身である私が、群馬県の事業所様と共に歩んでいく証として群馬県らしいモチーフを入れてみました。
かつてはヤマドリという群馬県の鳥をデザインに組み込む案もありました。自分で書いたお気に入りのヤマドリでしたが、クロマツの方が県民にとっては馴染みがあったのと、変更後の色に合うことからヤマドリはボツになってしまいましたね(笑)。

カントウチームのセトラーにも意見をもらいながら、私自身としてもチームとしても納得のいくデザインになりました。アナザー・カントウのコラボ商品であるにも関わらず谷中色を出しすぎて怒られるのではないかとやや恐れていましたが、「谷中らしくて良いね!」と言ってもらえて安心しました(笑)。

超撥水加工技術が繋ぐ、「いつも」と「もしも」

ーたくさんの熱い制作秘話を聞き、実物の風呂敷を手に取ってみたくなってきました。日常時でも災害時でも使える『いつもともしものふろしき』ですが、改めてどのようなシーンで使えるか教えてもらえますか?

谷中:もちろんです!おすすめの使い方をご紹介します!

「いつも」のふろしきの使い方10選
1. お買い物時のエコバック(買い物カゴに敷いておくと包むのが便利!)
2. 濡れた折りたたみ傘入れ
3. 汗で濡れたジム用品入れ
4. 不定形で大きなものを運ぶバッグ(ヨガマットなど!)
5. 雨の日のバッグカバー
6. 濡れたスキー/スノー用品入れ
7. 洗った靴を運ぶ入れもの
8. ギフト用の花束包み
9. レジャーシート
10. タペストリー

「もしも」のふろしき使い方10選
1. 水を運ぶバケツ
2.シャワー(防水ではなく撥水のため、水を入れた風呂敷を絞ると水がシャワーのように出てきます!)
3. 避難所でのパーテーション
4. 傷口を覆う包帯
5. 骨折した腕を吊るすバンド
6. 口と鼻を覆う頭巾
7. 授乳ケープ
8. 赤ちゃんのおくるみ
9. 手持ち品を入れるリュック
10. 雨から身を守るカッパ

上記の使い方以外にもたくさんの使い方ができます!もし新しい風呂敷の使い方を思いついたら、SNS等にあげて教えてくださいね!

1枚の風呂敷から始まる繋がり

ー風呂敷は自分用だけではなく、大切な人への贈り物としても良さそうですね!

谷中:そうですね!実は、この風呂敷には「想いと想いが繋がる」という裏テーマもあるんです。アナザー・カントウ展のエリアコンセプト「みちで繋がるカントウ」に繋がっています。

この風呂敷を送ることで、いつもともしもの時に安全でいてほしいという想いを届けることができます。私が込めた「備えない防災のために風呂敷を活用してほしい」という想いが、誰かの「大切な人を守りたい」という想いに繋がってくれたら嬉しい限りです。
自分のための防災となるとなかなか重い腰があがりませんが、大切な人のためなら…と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか?
「いつもともしものふろしき」を包むのにぴったりなギフトラッピングをご用意しておりますので、お気軽に店舗スタッフにお声がけくださいませ。ご購入された方には、『いつもともしものふろしき』に込められた想いを記した限定リーフレットや、風呂敷を贈る相手にメッセージを書けるカードもプレゼントさせていただきます!

1/6(土)『いつもともしものふろしき』が数量限定でアナザー・ジャパンにて販売開始!

谷中:私がこだわり抜いて作成した『いつもともしものふろしき』。店舗でも風呂敷に込めた想いをお伝えしたいと思っております。あなたのために、大切な人を守るために、フェーズフリーな風呂敷をぜひお選びください!
この風呂敷の製作を通じ、「医師×デザイナー」として「群馬県の人々が健康に暮らせるような仕組みのデザイン」をつくるという私の夢が少しずつ動き出した実感が湧いています。朝倉染布様のご協力のもと、アナザー・ジャパンという大きなプロジェクトでこのようなチャンスをいただけたことに感謝しています。これから皆様のもとに風呂敷が届き、「フェーズフリー」という概念が広がっていくこと、超撥水風呂敷の魅力が伝わっていくことを想像すると嬉しさが込み上げてきます。
私の夢はまだ始まったばかり。まずはアナザー・カントウ展に全力で取り組み、2ヶ月後に悔いなく笑えるように走り抜けます。そしていつか、群馬県を元気にする医師×デザイナーとなることをここに誓います!

アナザー・カントウチーム一同、皆様のお越しを心よりお待ちしております!

『いつもともしものふろしき』
価格:4,290円(税込)
先行予約開始日:2024年12月13日(水)より、アナザー・ジャパン店舗またはアナザー・ジャパン公式オンラインショップにてお申し込みいただけます!風呂敷は1月6日以降に店舗での受け取りまたは郵送でのお届けをお選びいただけます。
販売日:2024年1月6日(日)
販売場所:アナザー・ジャパン店舗 または アナザー・ジャパン公式オンラインショップ

ご予約はこちらから▽▼

今回のライター:Haruka Taninaka


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