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オートシャンプーの洗礼を受けたせっかちで待てない私

たぶん、私はせっかちなのだろう。
髪を切りたくなって美容院に予約しようとしたら1か月先しか空いていなくて、困ってしまった。切りたくなったらもう、我慢できない。待てないのだ。

通っている美容院は人気があるらしく、すぐに予約が取れないことは知っていた。じゃあ、余裕をもって予約すればいいという話なのだが、それができない。せっかちなうえに面倒くさがりなのだ。今までは待っても10日間くらい(それでも我慢は限界)だったから、今回も大丈夫だろうと思っていた。自分に都合よく楽天的なのだ。結果、ボリュームアップした髪をかかえて困っているのである。

だけど、私は切り替えも早い。
ショッピングモールの中の、事前予約不要で10分でカットしてくれるという美容院へ行ってみるか。正直なところ抵抗のある格安美容院だが、軽くするだけならいいかもしれない。とにかく、私は待てない。というわけで『11cut』デビューである。

空いていればすぐにカットしてもらえる、短時間の滞在で済むという点は、せっかちな私にとっては好都合であった。日々多くの客をさばいているからか美容師さんは仕事が早く、仕上がりも注文通り。ただ、店内を見渡すとキッズ、そしてヘアスタイルにこだわりのなさそうな中年男性ばかりで、自分も中年であることを棚に上げて複雑な気持ちになってしまった。

はい、切り替えて、次。もう一つ、私には行ってみたい美容院があった。カラー専門の美容院である。どうせ他でカットしちゃったし、ついでにカラーも他の店でやっちゃえと思い立った。だって、待てないから。そして他でもない。その美容院はとってもリーズナブルなのである。

以前から気になっていたカラ―専門店は、その日に予約が取れた。私好みである。受付で「そんなにカラーのバリエーションはないけど大丈夫か」と何度か確認されたのには少し戸惑ったが、地味色希望の私には問題はなかった。タブレットで雑誌は読み放題、美容師さんもベテランっぽい方でテキパキとしている。スタイリッシュではないけれど清潔な店内を見回して、安いけど大丈夫そうかもと一安心した。が、試練はこの後に待ち構えていた。

シャンプーが「自動」というのは知っていた。
美容師さんが手で洗うのではなく、何だか分からないが機械のような?ものが洗ってくれるのだろうなと想像はしていた。でも、別に心配はしていなかった。

シャンプー台に仰向けに寝かされ、はじめはざっと美容師さんが手で洗ってくれる。そのあと「自動のシャンプーはされたことありますか?」と聞かれたのだが、その聞き方が妙に意味ありげな感じがして、ちょっとビビる。「初めて、です」と答える私に、美容師さんは「音が大きくてもしかしたら驚かれるかもしれませんが、何かあれば言ってくださいね」と言いながら、おでこの生え際と両耳に沿ってきっちりとタオルを置き、頭の部分をすっぽりと覆うようにオートシャンプーのフタだと思われるもの(見えないから想像)を、ガチリと閉めた。

「何かあったら」の何かとは、何か。私は一体どうなる・・・?急に怖くなってきた。

オートシャンプーの全貌は分からない。目にはタオルが乗せられていて何も見えない。自分が何をされているかを、音と気配のみで知るという状況である。ものすごく怖い。ものすごく怖いのだけど「やっぱり止めます」と言う勇気はなかった。それにちょっとだけ、どうなるのか知りたいという好奇心もあったのだ。

車に乗ったまま入る洗車機を使ったことがあるが、オートシャンプーに自分の髪の毛を洗われるのは、それに少し似ている。

洗面台サイズの洗車機のようなものが頭を覆っている(たぶん)。でも車に乗っているという状況と大きく違うのは、当たり前だがシャワーと頭の間には何の隔たりもなく、水圧強めのシャワーが直接頭皮を刺激することである。そして美容師さんが言ったように、その音は驚くくらい大きい。爆音と共に、水圧は後頭部からおでこの方へと頭部を包み込むように迫ってくる。ジョワジョワジョワーーー、ジョワジョワジョワーーー、ジョワジョワジョワーーー。頭皮目がけて巨大シャワーが襲ってきてはまた戻っていくそのたびに「ぎょぅぇええーーーー」とこれまで出したことのないような声が出そうになるのを必死で抑える。気持ち良くてではない。ものすっごく、こそばゆいのだ!手に代わってシャンプーするのだからある程度強めの水圧なのは分かる。が、さらに、お湯の頭皮への当たり方がなんだかマッサージっぽいのだ。それがこそばゆすぎる。こそばゆすぎて、シャワーが通るたびに首元からゾワゾワゾワゾワーーーっと激しめの鳥肌が止まらなかった。

ジョワジョワジョワーーーぎょぅぇええーーーーゾワゾワゾワゾワーーー、ジョワジョワジョワーーーぎょぅぇええーーーーゾワゾワゾワゾワーーー、ジョワジョワジョワーーーぎょぅぇええーーーーゾワゾワゾワゾワーーー。

じっと動けぬまま、それは永遠に続くような気がした。シャンプーされている時間がこんなに長く感じたことがあっただろうか。いや、ない。

おでこと頭部の境目はタオルとオートシャンプーのフタでガードされているはずだから、お湯が顔にかかることはない。そう分かっていても、お湯がフタを越えて顔に迫りくるような勢いで全力シャワーが後頭部からやってくるものだから、もう、途中で「溺れる・・・」と思った。もちろん溺れはしないが、ずっとそばに美容師さんが立っている気配がしていて、緊急時に備えてか??という疑念さえ浮かぶ。オートシャンプーから解放された後も、まだシャンプーされているような余韻と終わったという安心感が入り交じり、半泣きだった。

安いには、理由がある。
その美容室はさらに髪を乾かすのはセルフで、ドライヤーやブラシやタオルなどが用意された大浴場の洗面所のようなスペースへ案内された。カラーのバリエーションが少なめ、シャンプーは自動、ブローはセルフがコストカットの内訳のようだ。ちなみに別料金で「手洗いシャンプー」というオプションもあった。

というわけで、初めての美容院2件に足を踏み入れて強く感じたのは、いつもの美容院へは、カットやカラーという技術だけじゃなくて、店の雰囲気、美容師さんへの信頼、シャンプーやブローをプロに任せる時間も含めて料金を支払っているのだということ。そう考えれば、結果的にコスパが良いのではないのだろうかということだ。

料金的にも時間的にもいつもよりも抑えて済ませられた今回のカットとカラーだったけれど、客層も含めた店の雰囲気、恐怖のオートシャンプー、もう一度行くことがためらわれる要素がある。「次はぜってぇぇ手洗いしてもらうからなっっ」と心の中で啖呵を切りつつ後にしたカラー専門店だったが、オプションを付けるならコスパは決して良いとはいえない。

勢いに乗って浮気をして、やっぱりいつもの美容院がいいと切実に思った私だ。どんな顔して戻ればいいのかと一瞬不安に思ったが、いつもの美容院へならシレっと戻れるような気がした。そんな気軽な雰囲気があるのだ。美容師さんはオプションで指名することもできるのだが基本的には選べず、行くたびに担当者は変わる。重く感じないそのくらいの関係性が、私には心地がいい。あまり気を遣うことなく過ごせる。これまで美容師さんとの会話問題などで何度も美容院を変えてきた私にとって、最も大事な要素なのである。

タイパだのコスパだのといってたどり着いた、オートシャンプー。
あれは、髪を洗うだけではなく私の覚悟を推し量る機械でもあった気がしている。せっかちなあなた、これでも目先のコスパにこだわるの?待たないことを選ぶの?と問う、ジョワジョワジョワーーーだったのだ。まったくもっての強がりだが、あれはあれで必要な経験だった。計画的に予約することの大切さに、そして、私にとってベストな美容院にすでに巡り合えていたということに、気が付けたのだから。

(それにしてもオートシャンプー、他の人はどう感じるのかとっても興味があるので、もし知り合いが行こうとしていても、私は止めない)

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