コント『進路相談』
(*この戯曲は無料で公開しています)
☆この戯曲は3年くらい前に、大学内での路上芝居用に書きました。少ない小道具と音響・照明なしでも成り立つ作品です。
『進路相談』(約5分) 作.藤田玖美保
生徒板付きで座っている。目の前には机。
先生入ってくる。
先生 おう。
生徒 先生。すみません突然呼び出して。
先生 いや、構わん構わん。で、話ってのはなんだ?
生徒 実はその・・・進路のことについてです。
先生 確かお前は、東大志望だったよな。
生徒 はい。でも僕、進路を変えようと思っていて。
先生 ・・・どうしてだ?今のお前の学力なら、十分狙えるとこにいるぞ。
生徒 いろいろと考えたんです。自分は将来、どんな仕事をしているんだろう。結婚とか
しているのかな。子供はいるのかな。そういうふうに自分の人生を考えてみたんです。そうしたら、本当に今のままでいいのかなって・・・。
先生 俺は今までたくさんの生徒を見てきたが、お前ほど群を抜いて優秀なやつはいなかった。お前なら上に行ける。そう思ってお前に東大をすすめた。
生徒 はい。
先生 だが、これはお前の人生だ。私がとやかく言う筋合いはない。自分の信じた道を行きなさい。
生徒 はい!
先生 で、どこにいくんだ?
生徒 ハーバード大学です。
間。
先生 ・・・あ、そっち!?
生徒 はい!
先生 むしろ上げて、その結果国外行っちゃうと。
生徒 はい!
先生 まじかあ。新しいパターンだよこれ。ええ?なに?どしたん急に?
生徒 先生、僕に言ってくれたじゃないですか。上を目指していけって。
先生 言ったけど、レベルが違うなあ。だってあっち世界一の大学だぜ?
生徒 分かってます。だから行きたいんです。世界一の大学に入って、世界一の男になりたいんです。
先生 あそこ入ったからって世界一にはなれないけどね。
生徒 それに、ここに僕の居場所はない。
先生 え?
生徒 (感情を押し殺すように)ずっと耐えてきたんです。苦しくて、何度学校行くのをためらったことか・・・。
先生 まさか、イジメにあっていたのか!?
生徒 (首を振る)
先生 じゃあいったい何があったんだ。
生徒 本当のことをいいます。この学校はレベルが低いです。日本一の高校と銘打っておきながら、やることはどれも基礎中の基礎。
先生 生徒。
生徒 にもかかわらずそれが分からないだのほざいている周りの連中。
先生 生徒。
生徒 最初はよかったんです。彼らが僕を頼りにしてくれるのが。下の連中はみんな救いを求めて僕のとこへ来るんです。それがなんとも滑稽で、そんなやつらを手玉にとれるのが快感でした。
先生 生徒。
生徒 でもそれもすぐ飽きましたけどね。
先生 生徒。
生徒 そもそもこの学校の教師たちもレベルが低いんですよ。やることは全部基礎なのに教えるのも下手くそで。授業受けてて退屈でしたよ。
先生 お前それを誰に言ってるのか分かってるのか?
生徒 あんなんだったら自分で勉強したほうがマシですよ。
先生 生徒。
生徒 そんな鬱屈した毎日を、僕は逃げ出すこともできずにいた。でも先生は僕に言ったんです。もっと上を目指せと。そのとき、いままで霧がかっていた視界がばっと開けたんです。自分はこんなとこにいなくてもいいんだ。もっともっと遠くへ羽ばたいていいんだ!先生にそう気づかされたんです!
先生 私はとんでもないスイッチを押してしまったようだな。
生徒 もちろん理由はそれだけではありません。
先生 この上まだあるのか。
生徒 僕は先ほど、自分の将来のことを考えてみたって言いましたよね。
先生 うん、言ってたな。
生徒 仕事について、結婚について、生まれる子供について。僕は色々考えました。
先生 ああ、言ってた。
生徒 そして一つの結論に達しました。結婚相手は、日本人より外国人がいいと。
先生 生徒?
生徒 普通に考えれば分かることでした。日本人女性より外国人女性の方が可愛い。
先生 生徒。
生徒 キレイ。
先生 生徒。
生徒 巨乳。
先生 生徒。
生徒 スタイル抜群。
先生 生徒。
生徒 外人サイコ―。
先生 生徒。
生徒 日本なんかくそくらえだ!
先生 生徒―!
生徒 それに外国人と結婚すれば、どんな子供が生まれると思います?
先生 え?
生徒 ハーフです。
先生 生徒?
生徒 ハーフですよ先生。
先生 生徒?
生徒 なんていい響きなんだ。
先生 生徒?
生徒 純日本人にはない、この魅惑の雰囲気。
先生 生徒。
生徒 ハーフというだけで他の人間より存在価値が上になるんです。
先生 生徒。
生徒 子供の幸せを思ったらハーフにさせるべきじゃないですか。
先生 そうとは限らないんじゃないかな。
生徒 ましてや僕と外人の間の子供ですよ。
先生 何が言いたい。
生徒 絶対美形です。
先生 その自信はどこから生まれてるんだ。
生徒 そもそも日本人女性に僕と釣り合う人はいない!
先生 生徒!
生徒 日本人はブスばっかりだ!
先生 生徒!
生徒 日本にいても未来はない!
先生 生徒!
生徒 ああ、こんなことしてる場合じゃない。
先生 生徒!
生徒 俺はもう日本を出ます!
先生 生徒!
生徒 この国は俺をおさめるには小さすぎるんだ!
先生 生徒!
生徒 先生!
先生 生徒!
生徒 ありがとうございました!
先生 生徒―――!
生徒走り去っていく。残される先生。
完
※上演許可などのお問い合わせは作者まで。上演する際は有料無料に関わらず、必ずご連絡ください。
Email kumiyasufujita@gmail.com
Twitter @KumiyasuFujita
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