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実録(嘘)ゲームの企画書の作り方

実録(嘘)と書いてある通り、与太話です。

過去にゲームの企画書を作る機会があったのですが、その時に学んだ考え方を虚実混ぜつつ紹介します。

これで明日から企画書が書けるようになりますよ、というものではなく「そういう考えもあるんですね」程度の内容なのでさらっとお読みください。

私自身もこの考え方を守ってるわけではないですが、思い返すようにはしています。

企画書を作れ!

「社内プランナーの企画力が低下している」

そう嘆いた上層部はプランナーの企画力の向上のために【企画書作り】を推進しました。

「入社試験以来、久しぶりの企画書作りだな」

そう思った私は2つの観点から企画書を作ることにしました。

面白そうであること

1つ目は、他の人が読んだ時に「うわ、面白そう!これ作りたい!」と言いたくなるような「面白そうな企画書」を目指す観点です。

面白そう=面白そうなゲームシステムや世界観

ということですね。

斬新であること

2つ目は、他の人が読んだ時に「これは思いつかなかった…新しい!」と言いたくなるような「斬新なアイデア」を目指す観点です。

斬新=これまでにないゲームシステムや世界観

ということですね。

結果は?

ボロボロのケチョンケチョンの評価でした。
面白いと思って書いた内容も「独りよがりで特段面白くもない」「面白さについて言語化できていない」という評価でしたし、斬新だと思って書いた内容も「よくあるシステム、世界観」「すでに市場にある」という評価で価値無し。

未熟な私は面白さも斬新さも表現できずに酷評されたわけです。
しかし、実は周囲のプランナーも似たような評価でした。
皆、目指す方向が「評価者である上層部」にとって間違っていたのです。

若手プランナーたちが集められ、上司のプランナーからアドバイスが与えられました。

売れそうな企画書を作れ!

「面白いのなんて当たり前だ」

それが上司の第一声でした。

「そんなのは当たり前に追求することだし、どうせ作ってみないと面白いかどうかなんてわからん」

我々プランナーの業務は「ゲームを面白くすること」です。
たとえ企画書の内容がつまらなくても、仕事としては「最大限面白くする」ことが求められます。

面白さ、というのは社内向け、自分たちに向けた内輪ネタなんですね。

企画書は誰に向けて作る?

「この企画書を見るのは営業と社長だ」

企画書を見るのはゲームの「面白さ」よりも「売れそうか」を判断する人々です。

「このゲームのここが面白くて新しいんです!」と力説しても「で、売れるの?」と問われた際に答えに窮するようでは話になりません。

ゲームデザインと同様に「誰に向けて作るのか、誰を喜ばせたいのか」を意識するとなると、企画書を作る際に「自分にとって良い」かどうかではなく「相手にとって良いか」を意識すべきです。

「どうしたら売れそうだと思えるか、それを意識して企画書を作れ」

上司からそう告げられ、我々は新たに企画書を作ることになりました。

売れそうな企画書って何だ?

「面白そう」であればゲーム好きなら色々とアイデアが出そうですが「売れそう」となるとゲーム好きとは別の視点が必要でした。

売れそう…お客さんが買ってくれる…欲しいと思えるゲーム…?
どうしたら欲しいと思ってくれるんだろう?
自分って何を考えてゲームを買ってるんだっけ…?

ここで自分は2つの行動を起こしました。

行動1:ファミ通を読みまくる

ファミ通は「買うとは決まってないけど興味を持っている人々」に向けたPRの側面があります。
お客はファミ通を読んで「欲しい!」と考えるに違いない。
つまり、これって企画書と同じなのでは?

そう考えて、社内にあるファミ通を片っ端から読んでみました。
ただし「面白そうか」という観点ではなく「欲しくなるか」という観点で読みました。

最初に興味を惹いたのは以下の要素を含んだタイトルでした。

  • 知っているシリーズの最新作

  • 素晴らしいグラフィック

  • 好きなジャンル

  • 著名なメーカー

この結果には愕然としました。
なぜなら「これなら損しないだろう」という安心感で選んでいたからです。

しかし、お金を払ってゲームを買うとなると、あまりリスクのあるゲームは購入したくありません。斬新さなんてもってのほか、見知らぬ体験にお金を投じるのはゲーマーだけです。

ファミ通を読んで分かったのは「お客さんがゲームを購入したくなる安心感をいかに達成するか」でした。

行動2:自分が最近購入したゲームの思考プロセスを探る

自分自身もゲームを購入しているわけですから、なんらか心の作用があったはずです。では、どういったことを考えてゲームを購入していたのか。

  • すごいグラフィック

  • 新しそうなゲームシステム

  • 好きなシリーズの最新作

  • 好きなメーカーの新規タイトル

  • 好きなジャンル

  • 面白そうな世界観

…案外普通でした。

長年ゲームで遊んでいるので、自分の中に評価軸がある。
評価軸に従い、「自分にとって損しない、安心感のあるタイトル」を選んでいたのです。

結局、お客の立場であろうと自身であろうと「買って損しない安心感」を求めていたわけです。

売れそうな企画書って?

2つの行動から分かったのは、

売れそうな企画書=買って損しない安心感が書かれた企画書

でした。

しかし、安心感は「巨額の予算や著名なキャラクターIP」を使わないと生まれません。

どう企画書でアピールしようとも、見知らぬタイトルでは「売れそう」という根拠を作るのが困難です。

どうすれば根拠を作れるんだろう…?

安心感の正体を探る

ゲームを購入する心の作用のうち、予算とIPに依存しないのは

  • 好きなジャンル

  • 新しそうなゲームシステム

  • 面白そうな世界観

の3つでした。

なるほど、人は「ジャンル」によって「知っている面白さがありそう」かどうかを判断している。

そこに「新しそうなゲームシステム」と「面白そうな世界観」をくっつければ「安心感のある企画書」が作れそうです。

例:
不思議のダンジョン ✕ スキルのコピー能力 ✕ スチームパンク

これなら「知った遊び心地が期待できて、ちょっと変わったシステムもあって、気になる世界観がある」企画書になります。

「安心感がありつつ、今持っているゲームとは違う遊びが期待できる」ので「もう持ってるからいらないよ」とはならなそうです。

こうして私は企画書を作り直しました。

売れる企画書を作れ!

結果は「全然ダメ」でした。

上司や同僚のウケは悪くなかったものの、肝心の営業や社長からの評価は「読むに値しない」という辛辣なもの。

埒が明かないと思ったのか、再びプランナーが集められました。
今度は上司ではなく営業が企画書に足りない観点を説明します。

「売れそうな企画書ではなく、売れる企画書を作ってくれ」

売れる企画書って?

ゲームが売れるかなんて、発売してみないと分かりません。
いったい何を言っているんだ…と頭をひとしきり抱えたあと、どういう意図なのかを考えることにしました。

「ゲームが売れるかなんて、発売してみないと分からない」とは思ったものの、自分が売る立場、営業や社長だったらどう思うだろうと考えました。

「で、この企画書は売れるのかね」
「いやあ、そんなの売ってみないと分かりませんよ!」

…これは怒鳴りつけたくなりますね。

会社を存続させるためにはお金が必要。
お金を稼ぐにはゲームを売らなければならない。
作るゲームは「絶対に売れる」と判断できる企画書でなければならない。

営業の立場で考えれば当たり前の話です。

「売れそうな」ではなく「売れる」企画書を作らなければなりません。
でも…どうやって?

誰が買うの?誰に売るの?

売れるということは買う人がいます。
買う人とはお客さんです。

お客さんが「ほしい!」と思うのではなく、社長や営業に対して「この人たちは絶対に買います」と言えればいいわけです。

まず、この人たちとは誰でしょう?

それは「ターゲットユーザー層」です。

先ほど例として挙げた

不思議のダンジョン ✕ スキルのコピー能力 ✕ スチームパンク

であれば、

  • 不思議のダンジョンを好む層

  • スチームパンクを好む層

はターゲットとして想定できます。
「スキルのコピー能力」は面白そうと思われるかもしれませんが、社長や営業へのプレゼンとしては価値が低いです。売上につながるか予測できないためです。

自分の書いた企画書は、この2つのターゲット層に響くかもしれない、ということが分かりました。

しかし、この人たちは「本当に存在する」のでしょうか?

ターゲット層について調べる

「不思議のダンジョンを好む層」がいることは分かっています。
すでに売れていますし、自分自身も好んでいるからです。

この人たちが全員購入してくれれば同じだけの売上が見込めますね。

同じだけの売上?

そういえば、不思議のダンジョンはどの程度の市場性があるんだろう?

売れる、というのは「たくさん買ってもらえる」ということです。

たくさん、とは1万人でしょうか10万?100万?

企画書の書かれたターゲット層が、もし100人程度しかいない場合、売上も「最大で」その程度しか見込めないのです。

ターゲット層について考えるなら「いるかいないか」だけでなく「どの程度いるのか」を考えなければいけません。

社長が「売れる」と判断する市場性が「10万本」だった場合は、その裏付けのあるターゲット層を想定しないと「読む価値もない」企画書になります。

企画書に書くターゲットユーザーとは?

企画書に根拠もなく「買ってくれそうな人たち」を書くのではなく「市場性のある層」を書かなければいけなかったのです。

言い換えれば「売れる根拠」です。

私は作った企画書に「市場性」のページを追加しました。
不思議のダンジョンの売上はこれだけあり、類似ジャンルでもこれだけ売れている。スチームパンクの世界観で作られたタイトルはなく他タイトルと差別化できる他、海外では人気の世界観であるためそちらも狙える…などなど。

そして1ページだけ「スキルのコピー能力」について書きました。
これは自分に向けた「面白くするぞ」という決意表明ですね。

こうして企画書は完成した…?

「面白そう」ではなく「売れそう」な企画書を。
「売れそう」ではなく「売れる」企画書を。

こうやって企画書の狙いを更新していった結果、見事社長や営業から好評で…とはなりませんでした。

「もっとパブリッシャーが読んだ時に『いいじゃんこれ!』って言いたくなる見た目にしないとね!」

そう、次は「見栄えを良くする」ターンが待っていたのです…パブリッシャーに見せるなんて言ってなかったのに!

(つづく?)

※本記事はだいぶフィクションです

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