あと、半年。(7)
6月。
今日は久しぶりに、人と会う約束をしている。
靴の紐を締めて、彼女に向いて別れを言う。
「いってきます」
すっかり梅雨も明けて、じりじりと夏らしい陽が顔を覗かせるようになった。今日も高く青い空に、白い雲がぽつぽつ。やや暑い日差しが心地よい日だった。
「久しぶり〜、元気してた?」
彼女は、森田ひかる。玲の親友だった。玲がいなくなってから、何も手につかなくなった俺を助けてくれたのが彼女だった。
「久しぶり…まあね、おかげさまで」
今日は彼女のほうから食事に誘われた。彼女はこうして、俺のことを時々誘ってくれる。きっと俺の体調、心調のことを気にかけてのことだ。一見フランクに見える彼女が内に秘める優しさには、頭が上がらない。
「今日はなんか元気そうじゃん?」
「そう…?へへ…」
「あ、今の玲みたい」
俺は玲の笑い方を思い出した。少し懐かしく、それでいてさっき見たばかりのように思えた。
「……ま、おかげさまでね…」
少し遠い目をしてしまっていたかも知れない。ふとひかるを見ると、彼女は優しい顔で俺を見て2度頷いた。
「どこ行くか決めてる?」
「全然なんにも、あはは」
「だよな…だと思った」
2人でからからと笑い合う。
「とりあえずそこ座って決めよっか?」
「おう、そだな」
俺たちは小さな広場のベンチに座った。彼女が登ってきた階段の向こうには、段々になった街が広がる。
その階段の縁に、コンクリートを突き破ってポツリと白いユリが生えていた。白い蝶がどこからか舞ってきて、ひらりとそのユリの花に止まった。
「なあ、あれ」
俺は視線を動かさず、彼女を呼んだ。彼女がそれに気づき、俺の視線の先を見た。
「あ……」
「玲かな」
「うん…きっとそうだよ」
俺たちはその蝶が飛び立つまで、じっと黙って見つめていた。その蝶はまるで視線に気づいたかのように飛び立つと、俺たちの間をふわりと通って飛び去っていった。
「…お好み焼きとかどう?」
「あり。玲好きだったもんね〜」
俺たちは2人とも同じことを考えていたように、すぐに玲が好きだったお好み焼きに決めた。でもそれ以上、特に理由を深く語り合うことはしなかった。
「よし…じゃ、行こっか」
「そだね、行こ行こ〜」
俺たちはベンチから立ち上がり、階段を降りていった。
新鮮な夏の香りを運ぶ風が、背中に心地よかった。
もう、半年。
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