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シリーズ「ヤル気を伸ばす」(その3):生きる意欲と精神的健康との関係

米ロチェスター大学の心理学教授リチャード・ライアンとその研究チームが、年齢も社会的・経済的立場も異なる数百人の学生および社会人を対象に、ある心理学的調査を行いました。
次のような6つのタイプの生きる意欲(目標)は、人間の精神的健康にどう影響するか、というテーマです。
<外発的意欲(目標)>
 ○富を築くこと
 ○名声を得ること
 ○人をひきつける肉体的魅力(美貌)を持つこと
<内発的意欲(目標)>
 ○満足のいく個人的関係(愛し愛される関係)を持つこと
 ○個人として成長すること
 ○社会に貢献すること

この研究チームは、ある複雑な統計手続きを用いて、ある1つの意欲(目標)が、他のものと比べてどの程度アンバランスに高いかの指標を作成し、それを質問用紙にして対象者に回答してもらいました。また、6つの目標のそれぞれを達成できる可能性がどれだけあると思うかも質問しました。

すると、3つの「内発的意欲」に比べ、「外発的意欲」のいずれかが突出して高いとき、精神的健康が低い、という結果が出たというのです。たとえば、物質的な成功に対する意欲が突出している人は、自己愛、不安、抑欝が強く、社会的役割の遂行度が低かったそうです。
全体的な傾向として、3つの外発的意欲(目標)は、心理的機能性の低さと関連していたとのことです。一方、内発的意欲の高さはどれも、精神的健康とプラスに関連していたといいます。たとえば、社会貢献に意欲的な人は、バイタリティにあふれ、自尊感情も高かったそうです。
3つの外発的目標を達成する可能性が高いと思っている人でさえ、その人の精神的健康は低い、という結果も出ています。

生きる意欲と精神的健康との関係

ここで注目していただきたいのは、「外発的意欲」とは、実は別の目的のための手段になっている、という点です。たとえば、富は権力をもたらし、物質的所有欲を満足させます。名声は出世への扉を開き、貢ぎ物の山を築かせます。美貌は自己顕示欲を満足させ、理想の異性を獲得するチャンスをもたらします。
一方「内発的意欲」とは、何か別の目的の手段ではなく、それをやること自体が目的になっているため、目標を達成する・しないにかかわらずモチベーションが下がらず、人々に有意義な個人的満足をもたらします。
さらに突っ込んで考えると、「外発的意欲」は3つとも極めてエゴイスティックな欲望のように見えるものの、その実、この人は「他人からどう見られているか」に囚われている点にもご注目ください。つまり、心理学的に言うと、この人は「ペルソナ(社会的仮面)」にこだわりすぎている、ということです。言い換えると、この人は「自己」が希薄なのです。だからこそ、ことさら我欲を追求したいのです。
それに対し、「内発的意欲」のうちの2つは、自分と社会との関係性に焦点が当たっていることにもご注目ください。また、「個人として成長すること」にしても、もちろん成長すればするほど、人は社会性を豊かにしてゆくものです。つまり、こういう人は、外面的なことに振り回されているのではなく、自己の内面に引き籠っているわけでもなく、常に自己(の内面)と社会との関係性に注目しているわけです。
ただし、内発的意欲が高い人も、必要な生活費を稼ぐことにまったく無頓着であるわけではありません。こういう人はただ、他人の視線や物質的な豊かさに必要以上に執着しているわけではない、ということでしょう。

まとめます。
人は富や名声ばかり追い求めたり、見た目ばかり気にしたりすると、「人からどう見られているか」という観点に支配されることになり、精神的に不安定となりやすく、反対に、充実した人間関係、自己成長、社会貢献に焦点を合わせるなら、精神的な健康を保てる、ということでしょう。

※参考:エドワード・L. デシ/リチャード・フラスト著「人を伸ばす力」新曜社

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