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名作を訪ねる(9)


第9回

第9回はセルフメイトです。

Henry Wald Bettmann, Funkschach, 1st Prize 1st Babson-Task Tourney 1925/26

S#3

競技会の名前で解はわかってしまいますが、見なかったことにして考えていきましょう。

黒からの強いディフェンスで1…bxa6 ~ 2…Rb5+というものがあるので、初手はb7のポーンをピンするのがほぼ絶対です。そして、1.a8=Q?は1…Rxa6+でまったくだめなので1.a8=B!がほぼ必然として決まります。スレットは2.B(R)xf2 Rxa6#ですが、「黒は指す手がなくなればRxa6#を指さざるを得ない」ということがこのあと重要になります。
そこで黒が指せる手は4通り(いちおう1…Rxa6#もありますが、それはshort mateになるので除外)。白のBg1を取ってプロモーションする先が4つあります。
ビショップとルークはクイーンより弱い駒なので実質2通りではないかと思われる方もいるかもしれませんが、セルフメイトでは白のキングがチェックメイトされることが目的であるため、黒がビショップやルークにプロモーションするときは目的に対して抵抗する手(つまりディフェンス)になります。
(さらにいうと、ステイルメイトというものが存在するため、通常のダイレクトメイトでもビショップやルークにプロモーションする手は黒のディフェンスになりえますが、深入りはしません。)

1…fxg1=Qから考えましょう。このとき、白が次の次の手で黒のクイーンを取ることができれば、黒は3手目にRxa6#を指すしかなくなります。黒が2手目で指せるのはクイーンが動く手で、現状でもだいたいどこに動いても白はその次の手でクイーンを取れます。ただし、唯一取れないのがg8なので、白は次の黒2…Qg8を受けるために2.f8=Q!としておきます(2.f8=Rではだめな理由は後述)。
黒はクイーンをどこに動かしても取られてしまうので、最善の抵抗は2…Qxc5+ですが、白は3.b5+とチェックを返します。これに対して黒は3…Qxb5#しかなく、目的が達成できます(なお、2.f8=Rだと3…Kd6と逃げられてしまう)。ちなみに2…Qxf1に対しても3.b5+でよいです。
1…fxg1=Rはどうでしょうか。こんど2.f8=Qだと2…Rxf1と取られ、3.b5+は白キングがチェックメイトにならず失敗です(もちろん3.Qf(h)xf1 Rxa6+ 4. Qxa6も失敗)。そこで、f1を取り返せるように2.f8=R!とするのが正着です。
1…fxg1=Bの場合。2.f8=Qに対して2…Bxc5!とできます。3.b5(#)はチェックメイトにならず失敗なので、2…Bxc5に3.Bxc5と取り返せるように2.f8=B!が正解になります。
1…fxg1=Sの場合。今度は2…Sxh3としてd7に逃げ道をあけることが狙いになるため、2.f8=S!としてd7を塞いでおくことが重要です。
ただ取り返される変化を省略してまとめると、
1.a8=B!
1... fxg1=Q 2. f8=Q Qxc5+,Qf1 3. b5+ Qxb5#
1... fxg1=R 2. f8=R Rxf1 3. Rxf1 Rxa6#
1... fxg1=B 2. f8=B Bxc5 3. Bxc5 Rxa6#
1... fxg1=S 2. f8=S Sxh3 3. Txh3 Txa6#

このように、黒のプロモーションに白が同じ駒へのプロモーションで応じるTaskをBabson Taskといいます。本作は現在からほぼ100年前の作品ですが、当時すでにBabson Taskがセルフメイトで達成されていたことは特筆に値します。なお、ダイレクトメイトでのBabson Taskの達成は、この作品からさらに60年弱を待たないといけませんでした。

次回予告

次回はプルーフゲームを取り上げます。


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