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"THE HOLLOWAYS"の事。

音楽の世界は、どんな時代でもムーヴメントというものがあって、何となくでも関連がありそうなアーティストは無理やりでもカテゴライズされてブームにの乗っけられ、ブームが去ったら忘れられ、ブーム中でもそぐわない作品 - それがバンドとしては挑戦だとしても - を作り出すと、そっぽを向かれてしまう世知辛い世界。特に英国で多い気がするこの「ムーヴメント」という厄介なカテゴライズの中でも、非常にナゾなのが、2005年あたりから流行りだしたNMEが名付けた「テムズ・ビート」だった。ロンドン特別区のトゥイッケナムにある、テムズ川の島「イールパイアイランド(うなぎパイ島)」にあった、古くは1920年代に社交ダンス大会が開催された「イールパイアイランドホテル」がジャズ・バンドの演奏の場になり、ジャズだけでなくロック・バンドも誘致し、The Rolling Stones , The Who , Yardbirds , Pink Floydなどが演奏した。ホテルは閉鎖したが、ロック・イベントの会場として継続し、Black Sabbath , Genesis , Hawkwindなんかが演奏したらしいが、現在はアート系の展示場になっているらしい。ロンドン音楽の聖地となっていたが忘れ去られていた場所、そこでMytery Jetsがイベントを行った事から再びロックの聖地として盛り上がり、その友人や近辺のバンドたち、LARRIKIN LOVE , THE YOUNG KNIVES , PATRICK WOLF , JAMIE-T、GOOD SHOESそしてこのThe Hollowaysあたりが「テムズ・ビート」としてカテゴライズされました。

[Generator] (2006)

The Hollowaysはノースロンドン出身の4人組バンドです。ヴォーカル&ギターのDavid 'Alfie' Jackson、ベースのBryn Fowler、ギターとフィドルのRobert Skipperが、ギター、フィドルとヴォーカルで演奏をはじめ、その近所に住んでいたDave Dangerがドラマーとして加わり、初期ラインナップが完成します。2005年にシングル"Generator / Two Left Feet"、翌年に"Happiness & Penniless"を自主リリースしています。当初はあまり話題にはなりませんでしたが、「テムズ・ビート・ムーヴメント」が追い風になり、間もなくTVT Recordsと契約します。余談ですが、TVT Recordsは、元々「Tee Vee Toons Records」として、テレビ主題歌のコンピ”Television's Greatest Hits”シリーズをリリースしていたアメリカのマイナー・インディ・レーベル。1990年頃にNine Inch Nailsのブレイクで大きくなり、PailheadやRevolting CocksなどのMinistry系ユニットや、KMFDM , Meat Beat Manifesto , My Life With The Thrill Kill Cultといったインダストリアル系を数多く擁するレーベルへと成長。そこが何故契約したかは謎ですが、何はともあれ、先の自主シングル"Generator“と”Two Left Feet"をジャケットを変更して再リリースすると一気にブレイク、インディ・チャートの1位に輝き、ナショナル・チャートでも善戦し、一躍人気バンドとなります。

[Two Left Feet] 2006

そして、急すぎるブレイクが冷めやらぬ2006年内にデビュー・アルバム"So This Is Great Britain?"を、早すぎるんじゃないかってペースでリリース、ナショナル・チャートの54位まで上昇するヒットとなっています。彼らの作り出すサウンドは、ギター、フィドル、ヴォーカル、ドラムス、キーボードという、ごくごくシンプルなもので、ありふれた自分たちの日常をユーモアとアイロニーたっぷりに歌い、能天気な明るさを持っていて、元気になれるサウンドが大変に魅力的でした。差し替えられたジャケットもシンプルであっけらかんとした明るい雰囲気があり、その戦略も当たったのかも知れません。アルバムのリリース後、様々なバンドと共に熱心にライヴ・ツアーを回り、多数のフェスティバルにラインアップされ、明るく親しみやすいキャラクターとサウンドで、一躍人気バンドになります。

[So This Is Great Britain?] (2006)

その後もリリース・ペースは止まらず、アルバム収録曲の"Dancefloor"をシングル・カット、"Generator"と"Two Left Feet"を再々リリースすると、全てUKインディ・チャートの1位に送り込むという快挙を成し遂げます。これがTVTのやり方で、シングルを限定リリースして完売させ、再リリース、再々リリース、ジャケットを変えてリリース...と、思い起こせば、Nine Inch Nailsを売り出した手法と全く変わっていませんでしたので、恐らくTVT UKではなく、TVTのアメリカ本体からのリリースだったのかと。全米進出も視野に入れていたのかも知れません。2007年にはサマーソニックと単独でも来日を果たしています。ビーチ・ステージでTRICERATOPSとKAHIMI KARIEに挟まれた順番でスケジューリングされ、「えっここで?」と戸惑いは隠せませんでしたが、それをチャラにするには有り余る、フレンドリーで明るくって楽しい、最高のステージを見せてくれました。前後のTRICERATOPSとKAHIMI KARIEのステージも、爽やかな空気と相まって気持ちの良い空間でした。

[No Smoke, No Mirrors] (2009)

2009年、デビューから既に3年の月日が流れていました。どういった経緯かは分かりませんが、たった1枚のアルバムでTVT Recordsとの契約は終了し、" Snapper Music"という、再発モノを中心としたレーベルに移籍しています。シングル"Jukebox Sunshine"をインディ・チャートの上位に送り込み、それを受けてセカンド・アルバム”No Smoke, No Mirrors”をリリースしています。前作の無邪気な能天気さは影を潜め、ダイナミックなロックンロール、カントリーやフォーク、ストレートなパンク・チューンなど、幅広い音楽性が花開いた作品となっています。当初は面食らいましたが、聴くにつれ、彼らの世界にのめり込める内容でした。が、口の悪い英国プレスの酷評に合い、チャート・アクションも振るわず、決して成功とは言えませんでした。良くない状況の中、2011年3月のギグを最後に解散しています。

解散後、Rob Skipperは、フォーク・グループRob Skipper& The Musicalで活動した後、HARESを結成しています。数枚のシングルをリリースした後、音楽誌の好意的なレビューを追い風に、Pigeon DetectivesやThe Vaccinesといった後発のバンドのサポートでツアーを回り、各種フェスティバルにも出演しましたが、成功を収めることは出来ませんでした。そして2014年、Rob Skipperは、ドラッグのオーヴァードーズにてこの世を去っています。The Hollowaysとしては、2017年に突如としてダウンロードオンリーのクリスマス・シングルをリリースしますが、積極的には活動していません。

メディアが作り出した、よくわからないムーヴメントに入れられて担ぎ上げられ、不幸にも短命に終わってしまったバンド。実際「テムズ・ビート」の範疇に入れられていたバンドの中で、Mystery JetsやJamie Tは現在でも順調に活動を行っていますが、その他のカテゴライズされていたバンド、Larrikin Loveは2年で解散、Good Shoesは6年で解散、 Young Knivesは活動はしていますが、なんだか尻つぼみな感じです。ムーヴメントというのは恐ろしいもので、ハマレば一気にブレイクするけど、廃れればそっぽを向かれる。人の人生を変えてしまう事だって多いに違いない。The Hollowaysも、周囲にもてはやされてブレイクしたものの、柔軟に対応出来ずに解散、そして悲劇まで起こってしまった。しかし、あの頃の音源では、彼らは相変わらず明るく笑いながら演奏しています。今回は、そんなムーヴメントの徒花として散ってしまった彼らが残してくれた数々の名曲の中から、ライヴで最高の盛り上がりを見せたデビュー・アルバム”So This Is Great Britain?"収録のこの曲を。

"Happiness And Penniless" / The Holloways

#忘れられちゃったっぽい名曲


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