見出し画像

"MOOSE"の事。

とかく「なんちゃら・ムーヴメント」というものが次から次へと発生しがちなUKの中で、1980年代後半~1990年代中盤の間に一斉に広まった代表的なものと言えば、やはり「シューゲイザー」と「ブリット・ポップ」でしょう。この実態が掴みにくいムーヴメントが盛り上がった狭間で、はみ出してしまったバンドというのは生きづらかった様で、優れた音楽性を持っていたが為に、生き急いでしまったバンドも存在しました。このMooseの様に...。

Mooseがロンドンで結成されたのが1990年。オリジナル・メンバーのギタリスト/ヴォーカリストのRussell Yates、ギタリストのK.J. "Moose" McKillopを中心に4人組バンドとしてスタート、設立間もないインディ・レーベル「Hut Recordings」と契約しています。Hut Rocrodingsは、メジャーのVirgin Recordsの傘下レーベルとして、破綻した「Rough Trade」のDave Boydにより1990年に設立され、The Verve , The Auteurs , The Music ,Placebo , Embrace , Gomezなどなどなど、後に「ブリット・ポップ」として興隆を極めた大きなムーヴメントの中核を為す事となるバンドを多数輩出した名レーベル。設立間もなく、The OriginとSmashing PumpkinsのVirgin America組をライセンス・リリースしますが、UKで契約したバンドはRevolverとMoose、この2バンドをデビューさせる為に設立されたと言っていいレーベルでした。

[Jack] (1991)

1991年にHutからデビュー・シングル"Jack"をリリース。ザラっとしたフィードバック・ノイズが鳴り響くこのシングルは、当時UKを席巻していたシューゲイザー・ムーヴメントの範疇に入れられ、インパクトを与えました。同じ年に"Cool Breeze "と"Reprise(プロモEP"This River Will Never Run Dry"に2曲を追加したもの)" 、翌1992年にそれらのシングルを集めたコンピレーション”Sonny & Sam”をアメリカ向けにリリース、シングル"Little Bird (Are You Happy in Your Cage)?"、そしてデビュー・アルバム”...XYZ”と、早すぎるんじゃないの?って程のペースでリリースします。他のバンドと一括りにされるのを嫌うかの様なサイケデリックでポップな多彩なサウンドと卓越したソングライティングによる至高のメロディは、シューゲイザーの範疇には収められない素晴らしいものでした。例えばThe Jesus And Mary Chainのセカンド以降との接点を見出すことが可能で、彼らが目指すところもその辺だったのかも知れません。Revolverと共にレーベルを担って行くと思われた彼らですが、このアルバムを最後にレーベルを離れています。Hutは推しの一翼を失い、Revolverのリリース・ペースや成長がスローだったため、新たにThe Verveを発掘してブレイクさせているので、世の中分からないものです。その後もブリット・ポップを支えた前出の様な名バンドを多数発掘したHutですが、2000年にVirgin本体とEMIにバンドを移籍させた後に閉鎖しています。やっぱ音楽業界って不思議です。

[...XYZ] (1992)

レコード契約を失った彼らですが、翌1993年にはシングル"Liquid Make Up"を「Cool Badge」なるレーベルからルルースした後、ベルギーの「Play It Again Sam Records」からシングル"Uptown”を、続いて2作目のアルバム”Honey Bee”をリリースしています。このアルバムにはオマケのEPが付いていて、Wireの"A Bell Is A Cup…Until It Is Struck"収録曲"Kidney bingos"のカヴァーが収録されていて、このセンスには脱帽した記憶があります。ザラっとしたフィードバック・ノイズは後退し、多様な楽器の音色をミックスした混沌としたサイケデリック・サウンドと静謐感のあるサウンドの絶妙な融合は、後のドリーム・ポップやMercury Revあたりのサウンドを、この時点で完成させていたと言える優れたモノでした。この作品と前後して、個々のメンバーがThe Boo RadleysやCocteau Twinsの作品に参加した事が刺激になったのかも知れません。しかし、英国音楽誌は低評価を与えたのでした。

[Honey Bee] (1993)

1995年には、3枚目のフル・アルバム"Live A Little, Love A Lot"をリリース。これまでのバンドのサウンドを総括する様な整合感のあるサウンドと、ホーンやストリングスを大々的にフィーチャーした完璧なドリーミー・ポップ作品となっています。が、この時も音楽誌はかなりの低評価を与え、それが影響したのか、バンドは音楽活動を休止しています。長い沈黙の後、5年の歳月を経て4作目のアルバム”High Ball Me!"を自主リリースしています。この作品は、ほぼ1993年から1997年にレコーディングされたもので、実質お蔵入りになっていた音源を集めた未発表曲集でした。そして、結局のところバンドの再編はならず、そのまま消滅してしまいました。K.J. "Moose" McKillop、改めKevin McKillopは、元LushのギタリストでヴォーカリストだったMiki Berenyi、元ElasticaのドラマーだったJustin Welch、Modern EnglishのMichael Conroyと共に、Piroshkaというバンドを2018年に結成して活動中です。Lincoln Fongは、元から親交のあるCocteau TwinsやWolfgang Press、The Jesus And Mary Chainなどの作品に参加しています。

[Reprise] (1992)

ムーヴメントというのは、売り出す側にもファン側にも非常に便利なものではありますが、その範疇に収まらせる事が難しい、進みすぎていた才能を埋もれさせてしまう事もあると考えると、やはり諸刃の刃だなあと思います。
今回は、先行シングルでありながらアルバム未収録、早すぎたドリーム・ポップとさえ言えるこの名曲を。

"This River Will Never Run Dry " / Moose

#忘れられちゃったっぽい名曲


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?