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『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』レビュー

インドはヒンドゥー教が大多数を占める国。ブッダが生まれ、仏教誕生の地ではあるものの、今や仏教徒はインド人口の1%にも満たない少数派だ。

そんなインド仏教界のトップに立つのは、なんと日本人。現在80歳を超える佐々井秀嶺さんだ。(現在はインド人に帰化)

私は佐々井さんの存在は知っていたものの、詳細は知らなかった。しかし、私のまわりには佐々井さんのファンが何人かいて、そのうち一人は実際に佐々井さんにお会いしたことがあるという。その方から「佐々井さんの本を読むように」と熱烈に薦められたのだ。

そこで手に取ったのが『世界が驚くニッポンのお坊さん 佐々井秀嶺、インドに笑う』(白石あづさ著)だ。

これが、本当におもしろかった。佐々井さんの波乱万丈な人生から、インド仏教の歴史までわかり、続きが気になりすぎて一気に最後まで読んでしまった。

ということで、この本のレビューを書いてみたい。

本の内容

著者はフリーライター&フォトグラファーの白石あづさ。彼女による佐々井さんの密着取材を本にしたもので、内容は彼女の視点から描かれている。

<あらすじ>
大多数がヒンドゥー教徒であるインドで、不可触民と呼ばれる人々を中心にカーストのない仏教に改宗する人々がいま爆発的に増えている。不可触民とはインド人口12億人のうちの約2割を占める、一番下の階級(シュードラ)にさえ入れないカースト外の人々、ダリット。3000年間にわたり、「触れると穢れる」と差別されてきた人々が、いま次々に仏教に改宗し、半世紀ほど前には数十万人しかいなかった仏教徒が今や1億5千万人を超えている。その中心的役割を果たしてきたのが、佐々木秀嶺だ。

わずか十畳ほどの部屋で暮らし、擦り切れた衣をまとった自称「乞食坊主」。子どもを見ると顔を綻ばせて喜ぶ心優しい小柄なお坊さんだが、その正体は電話一本で何万人もの人を動かすインド仏教の大親分。核実験が起きれば首相官邸まで乗り込み、ヒンドゥー教徒に乗っ取られた仏教遺跡を奪還するため何ヶ月も座り込みを敢行。弱い立場の人々のため、「これが武士道だ」と言ってみずからの命も惜しまず、モラルに反することには断固抗議。日本からやってきた怪僧にインド人もビックリ!である。
(Amazonより引用)

女性への欲求に悩み、3度の自殺未遂を経てタイの末にインドに渡った佐々井さん。常に生きることの困難を抱え、悩み苦しんでいた彼が行き着いたのは仏の道だった。それも、仏教が形骸化した日本ではなくインドの仏教だ。

「武士道」が大好きな佐々井さんは、義理と人情で困っている人のために尽くして働いた。インドで最下層の人々のために尽くし、人々を助けようと必死で働く佐々井さんの姿は、まわりのインド人を変えていく。

8日間の断食断水をしたり、多くの仏教徒を携えて座り込みのデモをしたり、日本の「お坊さん」のイメージからはだいぶかけ離れた佐々井さん。しかし、その行動の動機は一貫して「人々を助けたい、インド仏教を復興したい」という想いからきている。

この本はそんな佐々井さんの生涯を豊かに描写し、著者・白石さんと佐々井さんの交流も描かれている。

感想3点

私がこの本をおもしろいと思ったポイントは3つある。

1、佐々井さんの波乱万丈な人生

女性に溺れ、自殺未遂をし、タイでは女性にピストルを突き付けられ、インドでは常に暗殺の危険にさらされる……

実話とは思えないほど、次から次にハプニングが押し寄せる佐々井さんの人生は映画のようで、ページをめくる手が止められなかった。

2、インド仏教の歴史

インドの仏教を再興したアンベードカルという人物がいたことを、この本を読んではじめて知った。

アンベードカルは貧しい不可触民の家に生まれながら、大学に進学し弁護士、そして法務大臣となり不可触民制度廃止の法律を作った人だ。しかし、たとえ法律を作っても、インドのカースト制度の習慣はなかなか変わらない。そこでアンベードカルはカーストが関係ない仏教に改宗し、多くの不可触民を仏教徒に改宗させたインド仏教復興の父なのである。

さらには、インド独立の英雄であるガンジーは仏教徒には嫌われていたというのだ。ガンジーはカーストによる差別や暴力はいけないと言いつつも、不可触民を「神の子」と名付け、むしろその制度を残そうとしていたからだという。

そのようなインドの歴史を知らなかった私は、アンベードカルとガンジーのことを知れただけで、大きな学びとなった。

3、佐々井さんの義理人情

佐々井さんの熱い想いや、人々との関係性、日本のお師匠さんとの絆に、胸が熱くなる部分がたくさんあった。

デモをしたり、首相官邸に乗り込んだり、ぶっ飛んだお坊さんかと思いきや、泣かせる場面が多々あるのだ。最後は涙なしには読めなかった。

総括

私はインドが好きで、インドの宗教にも興味があったからこの本を手に取った。しかし、これはインドに興味がない人でも十分楽しめる内容だと思う。それは、佐々井さんの人生があまりにもバラエティに富んでいるからだ。

そして、私自身ライターという立場でこの本を読んで、佐々井さんに密着取材をして本を書き上げた著者・白石さんのような仕事をしてみたいと思った。白石さんの文章は、流れるように、ぐいぐい読ませる力があった。私もいつかこんな仕事がしたいと、新たな夢を持たせてくれた。

佐々井さんは現在80歳を超えている。ぜひ長生きして、困っている人々を救ってほしいと思う。



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