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マスク警察とワクチンヤンキー

ワクチン打てば、マスクしなくてもいいのか。

個人的には、ワクチンを打ったらマスクはしたくない。これから暑くなるし。

だけど、一部の諸外国と違って日本のマスク着用は要請だったために、マスクをしないことを公的に認めるということはしづらいはずだ。というか、雰囲気がそれを直ちには許さないところがある。

ちょうど先日、帰宅の途上の電車内でマスク着用トラブルを目の当たりにしたので、そのエピソードとともに日本社会のマスクについて考えてみる。

マスク警察が守るマスク社会

マスクをするのはもちろん感染防止対策のためなんだけど、多くの人が知らないフリをしているように思えるのが、マスクの着用は必ずしも感染を防がないということだ。

不織布マスクは飛沫の拡散を20%程度に抑えるとか、でもウレタンマスクの飛散はその2〜3倍量になるとか、二重マスクは効果を上げるだとか、色々いわれている。

でも当然、マスクは飛散の割合をある程度下げる、つまり感染リスクを下げるというだけで、完全に感染を防ぐわけではない。

なのに、世の中にはマスクをすれば安心という雰囲気が漂っている。マスクをすれば平気で満員電車に乗ることができるのも、その雰囲気でもって安心しているんだろう。

マスクをすれば日常に戻ることができるから、マスクをすることがデフォルトの社会が出来上がり、その社会ではマスクをすることで市民になることができる。

そしてマスク市民の中にはマスク警察が潜んでいて、マスクをしていない人にはマスク警察による正義の鉄槌が下されることになる。

だれがマスク警察になるか分からないから、マスク市民は外出時にマスクを忘れでもしたら、人の集まるところを避けたり、コンビニで新しいマスクを買う必要に迫られることもある。

ワクチンヤンキーの出現

しかし、最近はワクチン接種が進み、少し状況が変わりつつある。

先日、帰宅途上の電車に中高年の男性二人が乗ってきた。一人はマスクをしていない。

何やらごきげんなのか、内容が聞こえるくらい大きな声で会話をしている。隣に座っていた女性が席を立つと、「ほら、おいやっちゃった(笑)」と。見ているだけで不快な男たちだ。

すると、一つ奥の長椅子に座る女性が席を立ち、マスクをしていない男に注意をした。マスク警察だ。

男をマスクを出し、「ありますあります」みたいにしてマスクをつけた。

なんだけど、それから少しして、マスクなし男の連れの、マスクをしていた男が席を立ち、注意してきた女の方に向かう。何やら反撃するようだ。

マスクあり男は女性に対してスマホ画面を見せて、わざわざ自分のマスクを外して反論をしている。どうやらワクチンの接種証明書(?)の画像を見せているらしい。

隣の長椅子からマスクなし男が、「いいよいいよ、もうマスクつけたから」と言ってなだめる。

反論していた男は席に戻った。二人の男は周りに聞こえる声で女性をバカにするような会話をしていた。

この男たちのタチの悪さは、ワクチン接種済だからマスクをしていないということよりもむしろ、ワクチン接種済という一見してもわからない事情でもってマスク警察を返り討ちにしようとするところにある。警察を挑発するヤンキーさながらだ。

スマホに保存されたワクチン接種済証明書の写真は、マスク警察の正義感あふれるポリコレ棒に対抗するヤンキーの金属バットなみに機能する。

マスク警察がマスクをしない人をたたき出してきたこれまでのマスク社会は、このワクチンヤンキーの出現によって形を変えていきそうだ。

マスク社会の終焉

電車内という特殊な環境だからこそ、マスクしないとトラブルに発展しやすいのはあろうと思うけど、しかし今後さらにワクチン接種を終えてマスクを着用しない人が増えると、そこに輪をかけて状況を複雑にしそうだ。

かといって、トラブル回避のためにマスクをしておくべきだろうかというと、そういう態度が結果として消極的に「マスクせよ」の全体主義に迎合することにもなる。"安全"が権力の強化に使われるってのもよく言われるけど、政治的な話と安全の話は切り分けては考えられない。

そうした"安全"を大義名分に掲げるマスク警察がはびこるマスク社会では、マスクをしないと市民になれない。これは極めて不健全だと思う。人のコミュニケーションは文字や会話だけで済ませられるものではないし、いうまでもなく人に向けられる表情が伝えることも少なくない。

しかし、ワクチンの接種が進めば、マスク着用が義務付けられていた諸外国でもすでに公的に認められ始めているように、マスクを外す日常が戻るだろうか。

やがてはそうなっていく。なんだけど、たぶん政府が公的にマスク着用について言及しなくなるのは結構先のことになるだろうし、「マスクしないでも大丈夫じゃね?」みたいな雰囲気になるまでの過程ではマスクトラブルが至る所で起こると思う。

でもそれは、これまでみたいにマスク警察が非マスク市民を叩きのめす構図とは違って、マスク警察がワクチンヤンキーに返り討ちにされる、というものだろう。

そして、その良し悪しは置いとくとして、たぶんマスク社会が終焉するまでにその雰囲気を醸成するためにリードしていくのは、政府というよりもむしろワクチンヤンキーたちに違いないと思う。

Header Photo by Noah on Unsplash