セラムン二次創作小説『ささやかな幸せ(ゾイ亜美)』


彩都と亜美は喫茶店で久しぶりのデートを満喫していた。

いや、彩都はデートだと思って呼び出したはずだったのだが……。


目の前には参考書やノートがどっさりとテーブルいっぱいに広がっていた。そう、彼女が持ってきたもの。

いつも以上に必死に、真剣に勉強をしている。


受験で佳境に入っていた。

またしばらく会えない日が続くと思い、外へと連れ出した。こん詰めて勉強している彼女の気晴らしになればいいと思ったのだが……。


何とか説得して外に連れ出したのに、これでは逆効果では無いか?

ゆっくり出来る所で自分の要望を聞いてくれるのであれば行く、という条件で出てきた彼女。連れてきたのが全く人気が無く流行ってなさそうな、でも雰囲気のとてもいい喫茶店に拉致られ、今に至る。


一瞬、ゆっくり出来る所と言われた時はラブホでも連れて行ってやろうか?とスケベ心が芽生えた。

しかし、両手に持ったカバンいっぱいに入ったブツを見て瞬時に萎えた。そして悟った。外でも勉強をする気なんだと。いや、分かっていた。でも少しの間だけでもデートを楽しんで欲しかったから考えないようにしていた。


目の前で恐ろしい集中力で勉強する亜美に嫌気がさした彩都は、勉強とは関係ない話題を振って構ってもらうことにした。


「明日は雪が積もるんですって!」

「そうみたいね。でも雪ってのはね?」


乗ってきてくれたのは単純に嬉しかったが、医者を目指す所謂リケジョな彼女は“雪”についての講義を始めてしまった。


受験勉強で参考書やノートと向き合わなくすることには成功した。しかし、振った話題が彼女の独壇場の理系混じりのワードだった事もあり、とても詳しく、とても長い“雪”をテーマにした講義が始まった。いくら構って欲しくて振ったにしても自分が望んでた方向に話が進まず失敗だと落胆した。


雪を話題にした事へ後悔した。と同時に、そう言えば彼女は水属性の人間で戦士になった時の技はことごとく天気に関するものばかりだった事に気付いた。

そして前世は彼女が護衛に来ると天候は一変。雨が降ったり雪が降ったり、霙が降ったり……。天気が良かった試しが無い。

それを敏感に分析していたゾイサイト時代の彩都は天候が悪ければマスターの護衛を買って出ていた事を思い出す。


講義にはうんざり。しかし、彼女が博識だったからこそ惹かれたし、また彩都自身も彼女以上の頭脳の持ち主。彼女の講義を無理に止めることはしない。寧ろ実はずっと聞いていられる。放ったらかしで勉強に集中されるより全然マシだと思う。


「亜美の夢はお天気お姉さんだったかしら?」

「いいえ、ずっと変わらず医者だけど?」


一段落話し終えた彼女。あまりにも天気に詳しく説明してくるので意地悪っぽく聞いてみると、普通に返ってきた。相変わらず冗談が通じず、取り付く島も無い。


「知ってるわよ!医者志望なのに天気にも詳しいから皮肉よ」

「何でも知っておいて損は無いもの。情報と勉強は知識の泉よ」


そういい放ち、話が一段落した所でまた参考書とノートに目を落としてさっき以上の集中力で勉強し始める。

その姿を見て、彼女にとって勉強が本命の彼氏で自分は都合のいい遊び相手なのでは無いか?と思う。


再び放ったらかしにされる。ふと窓の外に視線をやると雪がぱらつき始めた。

今日の夕方頃から雪が降るとの天気予報の通り降ってきた雪。最初こそパラパラだったが、段々激しい牡丹雪へと変わり、本当に降り積もりそうな勢いだ。


「大変!本当に吹雪いてるわ!早く帰らなきゃ」

「まぁそう慌てなさんなって!車で来てるから送ってあげるわよ。車の中で勉強しながら帰ればいいわよ」


雪が降っていることに気づき、いそいそと帰ろうとする亜美に車で送ろうと提案する彩都。


「安全運転でお願いします」

「言われなくても」


ゆっくり運転してより長く一緒にいたいと思う彩都。


例えデートとは程遠く甘い雰囲気にならなくとも勉強している彼女を見るだけでも中々会えない中でとても貴重な自分的にスィートな時間だと幸せを噛み締めるのであった。





おわり



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