セラムン二次創作小説『空と海との間には』



いつもの様に火川神社のバイトをしていたある日の午後のこと。


「何だか爽やかな風が吹いてきたな~」


境内を掃除していると、気持ちのいい風がどこからとも無く吹いてきた。

元々神社ってのはパワースポットで、マイナスイオンで気持ちがいい。そこに加えて美人巫女で有名な俺の彼女、レイがいる。

なんて言うか、楽しく仕事が出来る。最高だ!

でも、それとは明らかに違う爽やかさが、いつもとは違う風が吹いてきた。

その方向を見ると、鳥居の先から一組の男女カップルが……


「天王はるか?それに、海王みちる?」


そう、その男女カップルとは“百合界のカリスマ”と言う異名を持つ二人。

男女カップルでは無く、女性同士の同性カップル。でも、誰がどう見ても。そして、どこからどう見ても百合カップルでは無く、立派なノーマルカップルに見える。

誰かどう見てもお似合いの二人。


そしてその二人を包む雰囲気がまた豪華だ。

どこからとも無く吹く風に舞って薔薇の花びらがヒラヒラと遊んでいる。そこに、薔薇の香りと混ざって海の爽やかな匂いも鼻に届いて来る。

何て爽やかなオーラを纏う二人なんだ!


「はるかさん、みちるさん。来て下さったんですね」

「やあ、子猫ちゃんたち」

「ごきげんよう。レイ、それに和永さん」

「ご、ごき、ごきげんよう。お二人さん」


みちる嬢のお嬢様言葉、キライ。

不意打ちのお嬢様言葉に、レイで慣れているはずの俺は思わずどもる。単純に苦手だ。

レイと同じでお嬢様だが、何か取っ付き難い。壁があるように感じる。何故だ?天王はるかのせいか?


「今日はどうしてここに?」


“YOUは何しに日本へ”みたいな聞き方になってしまったが、単純なる疑問である。

この二人が神社に来るなんて珍しい。と言うか、二人でも神社に来るのな?何かそれだけでホッとした。普通や。


「ええ、はるかの大切なレースの安全祈願に。ね、はるか?」

「違うだろ、みちる。みちるの大事なソロコンサートの成功祈願だろ?」


へぇー、この二人でも大事な何か大きなイベントがあると神頼みしたくなるんだな。

レースとソロコンか……やっぱ何かすげぇな。


「それと、ほたるの健やかな成長と」

「そして、せつなの健康を願ってね」


家族の事もちゃんと忘れずに祈る所も抜かりない。

聞いていた通り、ちゃんと子育てしてるんだな。高校生でパパとママやってるなんて頭上がんねぇよ。すげぇわ!


「お二人とも、ゆっくりしていってくださいね」


レイがそう言うと、会釈をして祠の方へと向かっていった。

俺はそんな二人に目が離せなくなり、一挙手一投足を固唾を呑んで見守る事にした。いや、大袈裟なことを言っているが、ただ単に好奇心が心を掴んで話さないだけだ。

賽銭、一体何円入れるんだろうとか。

ちゃんと2礼2拍手1礼出来るのだろうかとか。

どれだけの時間祈っているのだろうとか。

祈り方の佇まいとか、色々気になりすぎる。


「和永さん、私、準備して参りますわ」

「へ?何の?」


ボーッと二人を見ていると、レイから不意に声をかけられ、上ずった素っ頓狂な声を上げてしまった。ダサすぎる。


「はるかさんたちの祈祷の準備ですわ」

「あ、ああ。そうだよな!その為に来たに決まってるよな……」


俺が話すが早いか、レイはご自慢の黒髪ロングを手でバサッとさせて、準備に行ってしまった。さすがはレイ。通常運転の塩対応。好きだ!

そんな雑念を抱いてる間に二人はどんどん進めて行く。


「フェンディとエルメスの財布だ」


遠くからチラッと見えた財布はブランド物。

一体何円入っているのか?そしてそこからどれくらい出すのか?興味が尽きない。


「札束?マジか?」


いやぁ、バブリーだな。流石は成功者だ。

大切な場面ではこうして惜しみなく使うから、きっとお金も入って来るんだろうな。

“成功する”とはどう言ったことか?それが今日、分かった気がする。見習わなければ!


「優雅な佇まいと華麗な2礼2拍手1礼だ……」


惚れ惚れする程の2礼2拍手1礼を見せられた俺は、感嘆なため息を吐いた。

普通に2礼2拍手1礼していただけなのに、何故あんなに素敵な参拝に見えるのか?……不思議だ。


「長いな……」


祈る時間も佇まいも、絵になりすぎている。

まるで歴史上の、二人の頭文字を掛け合わせた人物そのもの。

二人で二つずつの祈りのはずが、もっと祈っているのか?長い。兎に角、長い!

カリスマは欲張りか?


「じゃあ僕達はお暇するとしようか?」

「ええ、そうね」


神頼みが無事終了したのか、こちらに向かいながら帰ろうとしていた。

レイの先程の行動を思い出した俺は、慌てて二人を止めに入る。


「待って!レイが安全祈願の祈祷をするって準備して待ってるから」

「でも、お二人のお邪魔じゃなくって?」

「若い二人の邪魔はしたくないしな」

「レイがしたいって言ってるんだ。遠慮なく」


いやいや、何の遠慮だよ?

第一、若い二人って……十分お前らの方が若いだろ。まぁ、変わらないけど。


「それじゃあ、お言葉に甘えましょうかはるか?」

「ああ、せっかくだから祈祷してもらおうか、みちる」


みちる嬢のその一言でやっと祈祷をする事に乗り気になったはるか。

このやり取りで何となくの上下関係的なものが見えてきた気がする。

それにしてもこうして間近で見ると、はるかって何となぁく俺と似てるな?なんて言うか、外見とか雰囲気が?短髪で金髪な所とか、さ?


「じゃあ、こちらへどうぞ」


やっと折れた二人に俺は祈祷場所へと案内した。

お礼を言いながら二人は中へと入って行った。

俺はその間、ずっと境内の掃除をして待つことにした。

今しがた登場した二人が意図せず撒き散らした薔薇がそこかしこに散らばっていたから、掃き掃除をせざるを得なくなってしまった。

まぁ、また帰る時に落ちてしまうだろうけどな。


「ありがとう、レイ」

「レイを独占してすまなかったね、彼氏さん」


二人が出てきたのはそれから30分後の事だった。

レイにお礼を言い、俺には謝り会釈をする。

別にレイを独占するのは百歩譲って言いとしても、謝るのはそこじゃない。別にある。それはそう、俺の労働だ。

神社内には相当量の薔薇が落ち葉となり、散らばってしまっていて、集めるのに一苦労。やっとの思いで吐き終わったと思えば再登場。

また撒き散らして帰るのかと思うと、この後の展開を想像できている分、結構な憂鬱だ。


「いや、お二人とも、成功する様願ってますよ」

「ありがとう、和永さん」

「これ、みちるのコンサートのチケット。お礼だ。二人で来てくれ」

「ああ、ありがとう」


はるかがみちるのコンサートチケットをくれた。良い奴だな。

……じゃ無かった。きっといつも持ち歩いてるんだろうな。よく出来た彼氏だよ。いや、女だからカノジョ?え?どっちだ?

いや、どっちでもいいか。んな細かいことは。


それから二人は、交通安全のお守りを買って「ごきげんよう」と言って帰って行った。

やはりその間もどこからとも無く吹いてきた薔薇の花びらを舞散らしながら爽やかに姿を消した。

気づけば片付けたはずの境内に又、豪華な薔薇の絨毯がしかれていた。労働が増えてしまったが、そんなのは苦でもなくなる程、二人の雰囲気に成功を祈っていた。





おわり



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