セラムン二次創作小説『眠れる森の美少年の目覚め(A美奈)』


美奈子はこの日、金星に来ていた。
いつ振りかのセーラー戦士の戦闘服を着て、生まれ故郷である金星の地に足をつけていた。
何故ここに来たのか?その理由はある人を復活させたかったからだ。

「大丈夫、だよね?」

ヴィーナスは、両手で持っていたダンブライト石をギュッと握り締めた。
そう、美奈子が復活させたかった人とは、ダンブライトーー金星での名は、アドニス。そして、地球名は最上エース。
金星人であるエース。自身が持っているヴィーナスクリスタルで蘇ることが出来るのでは?と美奈子は考えた。
現にレイがマーズクリスタルでフォボスとディモスを蘇らせた。それを聞いた美奈子も、もしかしてと考えていた。
そして意をけして美奈子は行動に移したと言うわけだ。
だが、レイとは違いルナやましてやアルテミスなんかに相談出来ないと思い、独断でやって来たのだ。

「変わらないわねぇ……」

いつぶりの母星だろうか。生きていた時も月に行ってからはほとんど帰ることがなかった金星。それでも記憶の中にある母星の変わらない姿にヴィーナスは、ホッとした。

「もっと帰れるようにすれば良かったな……」

千年と言う長い年月を生きると思っていたヴィーナスは、いつでも帰れると考えて先延ばしにしていた。
しかし、その想いとは裏腹に千年生きること無くその命は終わってしまった。こんな事になると思っていなかったとは言え、後悔してもしきれなかった。
マゼランキャッスルに入り、城の中をウロウロしながらヴィーナスは感傷に浸っていた。

「私も随分、女々しくなったわね」

生まれ変わってもここに来るとは思いもしなかったヴィーナスは、自身の言動に驚きを隠せ無かった。

「でも、これは私が決めたことだもん!」

誰にも文句は言わせない。導かれる様にここに来たのだ。
感傷に浸りながら、自身の部屋の前へと到着した。月や火星とは違い、祈る習慣のない金星人には特に祈りの間と言う空間は無い。
それにあったとしてもその場所を選ばなかっただろう。一番リラックスして集中出来る自室が最適だと考えていた。

「さて、やってみますか!」

考えるよりも先ず行動がモットーの美奈子。自室に入るとダンブライト石とヴィーナスクリスタルを机の上に置いた。
どうすればいいのかは分からない。だけど、そんな事は問題じゃない。やってみなけりゃ分からないし、先ずやってみる。その強い意志が、必ず実を結ぶとヴィーナスは信じていた。

「ヴィーナスクリスタルよ、アドニスを蘇らせて下さい。お願いします!」

目を閉じ、胸の前で両手の指を絡ませて祈りはじめた。
ヴィーナスの想いに触れたクリスタルが大きく輝き出す。目を開けると光に包まれ、その中から人の形がボンヤリと現れた。
それは徐々に色味を帯びて行き、やがてハッキリとした人の形になった。

「エース!」
「ヴィー、ナス、な、んで?」

目の前にヴィーナスがいる事に驚きを隠せ無いエースは、ただただ戸惑っていた。
そして、自分自身を見て更に驚き戸惑った。

「エース!」

美奈子は、出会った時の馴染みある名前の方で夢中で呼んで無我夢中で抱き締めた。

「オレ……」
「蘇ったのよ」

抱き着いて密着させていた身体を離し、エースに事情を説明し始めた。
ダンブライト石を持って金星に来たこと。自身のクリスタルでエースを蘇らせて成功したことを。
その説明の時にエースが死んでから今に至るまでの話をザックリと説明した。エースは静かに聞きながらもやはり次から次へと敵が現れ、戦いの日々であったことに衝撃を受けていた。

「そっか……大変って言葉で済まないと思うけど、苦労したんだな」
「まぁね」
「だからまた、俺が見たことも無いセーラー戦士の戦闘服を身にまとっていたんだね」
「えへへ、まぁ、そーゆー事」

今ヴィーナスが纏っていた戦闘服は、エターナル化したもの。
エースが知っている戦闘服はセーラーVの濃紺色、もしくはノーマルのヴィーナスの戦闘服。プリンセスのドレス姿の三種類。見たことも無い戦闘服に、エースはそう指摘した。

「でも、こうして俺を蘇らせてくれて嬉しいよ」
「当然よ。私の手で倒したのだから、私が復活させたかったのよ」

ヴィーナスはやはりエースを殺した事に心を痛めていた。好きになる人を倒す運命にあるとは言え、納得していなかった。
愛の女神の自分が、恋が成就しないばかりか相手を殺らなければならない。聞いて呆れると。

「美奈子、ちょっと成長した?背、高くなった気がする」
「そりゃあ生きてるもん!エースは変わらないね。でも、安心するわ」

互いの外見に懐かしさを覚える。
エースは死んだあの日と変わらないが、成長した美奈子よりは背が高く、少し見下ろす形となっていた。

「美奈子……」

蘇った直後とは違い、今度はエースが昔の名で呼び抱き締める。感触を確かめるように、キツく抱き合った。

「さて、帰りましょうか?」

暫くして体を離しながらヴィーナスがそう問いかけた。
そしてそこで初めてヴィーナスはある疑問に到達した。

「って、エースって帰るところあったっけ?」
「……美奈子」

先の事など本当に考えること無く一心にアドニスを蘇らせていた。その結果、美奈子はエースに帰る場所があるかどうか考えていなかったのだ。
美奈子らしいと言えば美奈子らしい。

「私、なぁんにも考えてなくて。アハハハハ」
「いや、心配しなくても家はあるよ。待ってくれているかは、別だけど」
「そっか、なら良かったわ」
「もし駄目ならここに住んでもいいし」
「誰もいないし、良いかもね!」
「だろ?しかし、俺と美奈子が二人で金星にいるって、中々レアだし何だか凄いよな」
「言われて見れば!」

帰るところがあると聞きホッとした美奈子に、エースは今ここで二人こうしている事が奇跡だと言った。
言われて見れば、前世でも金星で二人が顔を合わせることは無いまま生を終えた。ヴィーナスは月へ、アドニスは地球へとそれぞれ派遣されたため、顔を合わせることなく朽ち果てた。
最も、アドニスの場合は偶然たまたまヴィーナスを見かけたが、それは地球と言う地でだった。

「じゃあ、もう暫くここにいようよ。美奈子と一緒に金星探索したい!」
「それって、つまりデートってこと?」
「ああ、その通りだよ。嫌?」
「仕方ないからしてあげる、デート!」

二人は初めて自分達の母星である金星を見て回った。ここでこうして二人一緒に過ごせる事に幸せを感じながら、暫く金星を満喫すると、地球へと戻って行った。


おわり

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