セラムン二次創作小説『過去への想いと未来への誓い(未来親子)』



いつも不思議に思っていたことがあった。

毎年同じ日にパパとママは公務などを休み、決まって2人で一緒に出かける。

どこに出かけるのかは分からない。

2人で出かけると言うのにあまり嬉しそうでもない。

それに何故かいつものドレスとタキシードに身を包んでいる。


パパとママが揃って出かけるのは他にも一日だけある。

それは8月3日のパパの誕生日。

その日はパパの両親の命日でもあって、2人で仲良くお墓参り。私も時々一緒に行ったりする。

でもその時は一国のキングとクイーンと言う仮面を外し、ドレスとタキシードは脱ぎ捨てて国民のみんなと同じ普通の服に身を包んで出かける。

だから余計不思議だった。同じ日に公務があるの?って。


どこに行くの?って2人に聞いても「ちょっとね……」って言うだけで教えてくれないし。これ以上聞かないでオーラも出てて聞くことが出来なくて。

ヴィーナス達に聞いても「クイーンやキングが話してないなら私たちには話す事は出来ないわ」とやんわり断られるし。

四天王達に聞いても「それは……」と顔が曇る。


ちびだけど、一応私も一国の姫で。月と地球の後継者で、これがもし大切な公務の一環なら教えて欲しいな、なんて思う。

流石にいい気分はしないけど、きっとまだ私が子供だから言えないのかな?なんて諦めも入ってた。

きっと私が成長して立派なレディになれば教えてくれるんじゃないかなって。もう誰にも何も聞かない事にした。


そんな時、ママから話があるって呼ばれる。

それは、その日の前日の事だった。


「話ってなんだろう?改まってママの部屋になんて呼んで……」


さっぱり分からない私は皆目見当もつかない。

過去から帰って来てからその事をすっかり忘れていた。

過去での色んな経験と戦いの中で、思い出しもしなかった。

銀水晶の出現にセーラー戦士としての覚醒、スーパー変身にエリオスとの出会い。そしてピンクムーンクリスタルとセーラーカルテット。

目まぐるしい過去での戦いは心の成長へと確実に繋がった。これからにの未来の為にとてもいい経験だった。


トントンッとママのドアを叩く。


「ママ、私、スモールレディよ」

「入って」


ドアを開けてお辞儀をして入ろうとすると、そこにはパパもいた。

2人で私に話しってなんだろう?ますますわからなくなった。


「話って、何?」


ママに座るように言われて、用意されてた椅子に腰掛けながら早速質問する。

パパとママは顔を見合わせ、表情を曇らせて言い淀んでいた。


「あのね、スモールレディ……」


意を決したのかゆっくりとママが語り始めた。


「毎年私とパパがどこかに出かけてることは貴女も知ってるわね?」

「うん、毎年何処に行くかは教えて貰ってないあの日だよね?」

「そう、その日よ。今まで言えずにいたのだけれど、その時が来たって思ったから今から説明するわね」


そう言ってママはいつになく真剣に話を始めた。


「驚かないで聞いて欲しいんだけど、私たちが行っているのは月なの」

「そっかー、月か~」


って、ん?月?意外な行き先と予想外なワードにかなり驚いてしまった。パンチ効きすぎでしょ?何で月?


「え?月?どうして月に?」

「それはね、前世の私たちの命日だから、月でお墓参りしているのよ」

「前世のママ達の、命日……」


そう言う事か、と色々腑に落ちる。

ママもパパも四天王達もセーラー戦士達誰に聞いても口をつむり、暗い顔をしていた事。

前世のパパとママの命日、それは太陽系のみんなの命日。

そんなに詳しく聞いたわけじゃないし、知っている訳では無いけれど……。

話せないんじゃなくて、話したくなかったのかもしれない。みんなにとって、とても辛い過去だから。


「そう、月の王国の民たちにクイーン、セーラー戦士達に四天王、グインベリルやメタリア、そして私とエンディミオン。みんなが亡くなってしまった日……」

「代表して俺とセレニティが月に行って毎年弔ってるんだ」

「そうだったんだ……」


どう声をかけていいか分からず私は考える様に黙り込んでしまった。

前世のママとパパ達の命日、それは地球人が月に攻めてきてシルバーミレニアムが滅んだ日。思い出すのも嫌な思い出の日。

デス・バスターズとの戦いの時にネプチューンがその話をしようとしたら、過去のママであるうさぎはとても苦しそうで。

「その話はしないで」って泣いていた。

あれから900年は経っているとは言え、きっと今でも苦しい思い出なんだろうなって思うと、安易に声はかけられなくて。


「そこでだ。その日が明日なんだが、スモールレディも一緒にと思ってな。どうだ?」

「え?私も?良いの?」

「スモールレディさえ良ければ、だけれどね?どう?」

「行きたい!行かせて欲しい!」

「明日で急だけど、大丈夫?」

「大丈夫よ!何も無いし、何かあってもキャンセルするから」


そっか、明日だったんだ。すっかり忘れてたけど、話してくれて嬉しかった。

そして二つ返事で行くって返事していた。

断る理由も無いし、行ってみたかった。

月に行ったこと無くて行きたかったんだ。

こんなチャンス、滅多に無い。

私は即答していた。


「本当にいいの?」

「ああ、勿論さ」

「スモールレディ、貴女は過去で色んな体験や、過去を知りましたね?前世の事も戦いの中でセーラー戦士達に見聞きしたと思います。本来であれば私たちから直接話せば良かったのだけれど……」


ごめんなさいと申し訳なさそうに謝られた。

ママ達の口から直接聞きたかったと言う想いはあるものの、話しづらい内容だけに無理強いも出来ない。

私自身も今まで本当に子供で、精神的な成長も出来てなくて。それもきっと話してくれなかった、話せなかった理由の一つかも知れない。


「過去に行く事で色んなことを知ったと思う」

「色んなことを見てきた今だからこそスモールレディにもう話してもいいって思ったの」

「パパ……ママ……」


大人になったって認められたって事でいいのかな?

過去での経験は確実に私を成長させてくれていたのかもしれない。


「貴女を過去へと修行させて本当に良かったわ。危険な事も多いって分かってはいたけれど、その目で見て体験してきて欲しかったの」

「立派なレディに、プリンセスとして風格が出てきたよ」

「月に行く事でまた色々感じる事もあると思うし、感じてくれたらって思ってるわ」


つまりは月に行くのもクリスタルトーキョーのプリンセスとして必要な学びの一つって事なのね。

月、近くて遠い月。どんな所だろう?


「そうと決まれば明日は早い。もう寝なさい」


話し込んでいて忘れていたけど、もうとっくに夜の10時を過ぎていた。

パパの言う通り、ママの部屋を後にして自室へと戻り、寝る準備をした。

その間中も私は明日行く月へと気持ちは膨らみ、思いを馳せていた。

月、一体どんなところなんだろう?

遊びで行く訳では無いけど、ワクワクして眠れない。不安と喜びが入り交じる。

色々考えていて、フッと疑問が湧き上がる。

月に一体どうやって行くんだろうと。

明日になれば分かるか?と思い、いつの間にか疲れて眠ってしまい、次に目覚めた時は月に行く当日の朝だった。



支度をしてママの部屋へと向かう。

ママの部屋の前にパパと2人で待っていた。

やっぱりいつものドレスとタキシードに身を包んでいる。

私もいつものピンクのドレスにしたけど、大丈夫かな?

お墓参りの格好にそぐわない気がするけど。


「この格好でいい、のかな?」

「大丈夫♪問題ないわ」

「ありのままの姿でいいんだ」

「私たちもいつものこの格好だから」


だから私もドレスにしたけど、本当にこれで大丈夫なのかな?

ママ、どこか天然だし、パパはそんなママに甘いから心配。


「どうやって行くの?」


歩きながら2人に聞くと何か含んだ顔をした。


「行く前にみんなに言ってから行きましょうね」


再び黙り、神妙な顔をした。


「じゃあ今年も行ってくるわね」

「今日はその日でしたね。行ってらっしゃいませ」

「今年はスモールレディも一緒なのですね?」

「ええ、昨日話したら行きたいって言ってくれて」

「そうでしたか。良かったわね、スモールレディ」

「うん」


今日という日がどう言う日であるのかを知りたがっていたヴィーナスに声をかけられる。


「気をつけ行ってらっしゃいませ」

「クリスタルトーキョーをよろしくね」


内部のみんなに見送られて出発する。

パレスの奥を進んで行く。

この道は、プルートが守る時空の扉がある所だ。

扉が自然と開くと、そこにはプルートが跪いて待っていた。


「プルート、今年も行ってくるわ」

「今年はスモールレディもご一緒なのですね?」


みんな私がいる事に驚くよね。

今まで連れてってもらってないばかりか、どこに何をしに行くかさえも教えてもらってないから当然だけど。


「ああ、昨日全てを話してね」

「ついて行きたいって言ったの!」

「そうでしたか。立派なレディになったのですね」


プルートが喜んでくれて、私も嬉しい。


「じゃあ行きましょう」

「ご武運を」


そう言うとママは銀水晶を取り出した。


「銀水晶?」

「そうよ、これで月へ行くの」


銀水晶で月に行けるなんて聞いてない!

勉強不足と自分の無知さ加減に愕然とする。

それにしても銀水晶はやっぱり偉大な聖石。何でも出来るんだね。ひょっとして時空の鍵が無くても過去にだって行けるのでは?なんて思ったりしてしまう。


「因みに俺の持つゴールデンクリスタルでも行けるぞ」

「そうなの?」

「貴女のピンクムーンクリスタルでも行けるわよ」

「……そう、なんだ」


サラッと当たり前みたいに色々言わないで欲しい。

こちとら初めての事実に驚いてるんですけど?

うさぎ~、まもちゃん!何で教えてくれなかったのよぉ~。


「今回は私の銀水晶で行くわ。2人とも、私に掴まって」


言われた通りママに掴まる。

どれくらいかかるんだろうと考えている間に月に到着していた。


「ここは……?」

「マーレセレニタティス、晴の海よ」


ここが、月……。

前世のママ達がいた王国があったところ……。

目の前に広がる光景に圧倒された私は、感動で声が出なくなっていた。

来る前は不安の方が大きくて。

それは、前世で壮絶な戦いがあったと聞いていたから。

サターンが全てを無に帰したって聞いていたから。

年月だって経ちすぎているから何も無い廃墟で虚無な世界なのだと思っていた。


でも、実際は違ってた。

ムーンキャッスルは立派にそびえ立ち、周りにも色んな建物や噴水に泉とまるでギリシャ神話の様な、それでいてどことなくクリスタル・トーキョーにも似た雰囲気で。

復興っていうのかな?

きっと当時と変わらない、もしくはそれ以上に栄えていたから。

自身の浅はかな考えを呪った。


「凄い……」


それしか言えなかった。

それ以上の言葉が出て来なかった。


「驚いた?再建したのよ。クインメタリアとの決戦の時、銀水晶と私の祈りの力で」

「そう、だったんだ」


銀水晶と祈りの力って凄いんだ。

こんなに綺麗に再建するなんて。


「行くわよ、スモールレディ」

「あ、うん。どこに向かうの?」

「祈りの塔よ。そこで黙祷するの」


驚きで月の周り、シルバーミレニアムを見回していたらママに呼ばれる。

慌てて2人に付いて城の中へと入って行った。

初めてのムーンキャッスルの中はとても広くて、どれも目新しくて胸がときめいた。

祈りの間までは少し遠くて、行く途中にママから案内や想い出話を聞かせてくれた。



「ここよ」


案内されて入った祈りの塔はとても広くて、中央にクリスタルで出来た塔とその前に台座があった。


「ここで祈るの。前世の時もよくここで祈りを捧げていたわ。今は1年に1度この日だけ前世で滅びたあの日を思い出して、犠牲になった人々を弔う為に黙祷しているの」


そっか、月が復興してちゃんとした祈りの塔で黙祷するからいつものドレスとタキシード姿で良かったんだ。

クリスタル・パレスでの祈りの塔でもいつもこの格好だから。つまりは祈る時の王国流の正装。

そんな事を思っていたらママは台座の前に跪き、祈り始めた。

パパもママの隣で一緒に祈っている。

慌てて私もママの隣に行き祈る。

どのくらい黙祷すればいいんだろう?

きっと多くの犠牲があったろう事は想像に固くない。

黙祷し過ぎてもし過ぎることなんてないんだろうな。

私もママやパパに続いて黙祷し始めた。


“前世のパパやママであるプリンセス・セレニティ、プリンスエンディミオン、ヴィーナス、マーズ、マーキュリー、ジュピター、クンツァイト、ネフライト、ゾイサイト、ジェダイト、ウラヌス、プルート、ネプチューン、サターン。太陽系の住人のみんな、どうか安らかに。そして、前世でのママのママであるクイーン・セレニティ、みんなを転生して下さってありがとうございました。お陰で今私がここにいます”


どれだけの時間が経っただろうか?

黙祷から目を開けると私のピンクムーンクリスタルが光り輝き、まるでシグナルを鳴らすように点滅していた。

隣のママを見ると、ママの銀水晶も同じで、更にパパのゴールデンクリスタルまで光り輝いていた。


共鳴して、る?そう思った瞬間、台座に人が現れる。ーークイーン・セレニティその人だった。


「お久しぶりね」

「おかあ……さま?」

「クイーン……」

「双方向で話が?」


クイーン・セレニティが現れるなんて予想もしていなかった。

クイーンはネヘレニアとの戦いの時、彼女の記憶の中で見ていた。

姿は小さいけれど、あの時と変わらない若さを保っていた。


「可愛い、初めましてね?スモールレディ」

「私を、知っているのですか?」

「勿論よ。セレニティがこの日にいつ色々報告してくれるもの」

「スモールレディ、ご挨拶を」


前世でのママのお母様のクイーンに認識してもらえてるなんて、とても光栄。感激すぎる。

クイーンが私を知っていてくれたことに驚いてしまい、挨拶することをすっかり忘れていた。


「クイーン、ご機嫌麗しく存じます。私はうさぎ・スモールレディ・セレニティ、ネオ・クイーン・セレニティ、キング・エンディミオンの娘、シルバーミレニアムの第一王女です。どうぞお見知り置きを」

「私は地球で呼ぶ所の月の女神セレーネの化身、シルバーミレニアムの前女王クイーン・セレニティ」


私が挨拶するとクイーンも挨拶を丁寧に返してくれた。

流石はクイーン、とても聡明な方だと言う第一印象を受けた。


「どうして?あの時消えたはずでは?」

「“幸せになりなさい セレニティ。今度こそ貴女の愛する人と”と言った後ね?そうね、強いて言うなら3つのクリスタルに呼ばれたのかも知れないわね」


あの時の光はクイーンを呼んで共鳴していたのか。


「セレニティ、愛する人と幸せになれたのね。こんなに可愛い女の子も出来て」

「お母様、本当にありがとう。私たちを転生させて出会わせてくれて」

「私が出来る精一杯をしただけよ」

「しかし、同じ時代の同じ地球でまた再び出会うようにして下さった。とても感謝しています」

「エンディミオン、それは私1人の力では出来なかった事です。私はただ銀水晶に転生するよう願っただけです。弱い心で願ったから不完全だった。セレニティに銀水晶を託すだけで精一杯で……」

「ではどうして全員が集結する事が出来たのですか?」

「セーラーサターンの再生の力によるところが大きいでしょう」

「サターンが?」

「あの時サターンが沈黙の鎌で全てを終わらせ、然るべき時に転生し、集結出来るようしてくれたのでしょう」


クイーンはこうなる未来を想定していたのかな?

銀水晶では敵を封印したり、人や物を再生する力はあるけど、終わらせることは出来ない。

と言うか悪しき心を持っていないから終わらせたくてもきっとそれが出来ない。

あの日、王国が滅びた事で太陽系惑星の役目もなくなってしまった。

だけど、メタリアを封印してママ達に未来を託すだけが精一杯だったんだろうなと思う。

銀水晶を解放すると命が無くなるもの。

守るべき領域を離れることを許されず、はるか遠くで見守っていたウラヌス達外部太陽系三戦士。

3人が集結して呼び出したサターンは、3人の前で下ろされたその沈黙の鎌は、シルバーミレニアムの全てを終わらせた。

クイーンが銀水晶で出来なかったことを補う為の役目で、辛い事を一手に引き受けていたんだ。

その部分だけを見ていたからウラヌス達は忌み嫌い、嫌がった。

だけど、実際は終わらせると同時に再生も出来る力が備わっていた。

クイーンより冷酷に判断を下せ、必ず使命を果たせると絶対的な信頼の元任命され、見事期待に答えた結果なんだと思った。

クイーンがここまでの事を想定していたかは分からないけど。


ほたるちゃん、初めてあった時不思議な子だと思った。

だけど、悪い子なんて思わなかったし、仲良くしたいって思ったんだよね。

滅びの戦士の生まれ変わりって聞いて驚いたけど、仲良くしないなんて考えは生まれなかった。

寧ろ、もっと仲良くして私が守ってあげるんだって気持ちが大きくなった。

結局、最終的に守られたのは私の方だったけど。

どんな状況でも臆すること無く立ち向かう姿はとても立派で芯が一本以上通ってる。

ほたるちゃんは、セーラーサターンは私の憧れ。



「お母様、私、知らなかった。私の誕生祝いの席で、呪いにかけられたこと……前世が私のせいで滅びる事になるって分かっていたのですね?」

「ネヘレニアも蘇ってしまっていたのですね。貴女に押し付けた形になって、本当にごめんなさいね」

「いいえ、元はと言えば私のせいだから。どんな結果になるかなんて考えずに恋に溺れてしまったから……浅はかだった」

「それは俺の責任でもある!セレニティ1人の問題じゃない」

「知っていて容認していたのはこの私。王国が滅んだのも全ては私の責任です。あなた方は関係ないわ」


“この王国はやがて滅びる。美しい王女は王国を継ぐことなく死ぬ”

それがネヘレニアが最期に残した言葉だった。

確かにその呪いのせいで王国が滅びた様に思える。

だけどあれは色んな偶然が重なった結果で。

ネヘレニアの呪いで滅んだ証明なんて出来ない。


「私自身もあの日の出来事はネヘレニアの封印と共に忘れたくて、いつしか記憶を封印してました。けれどあの日あの後、もし本当にセレニティが王国を継ぐことなく死ぬのならば……その最悪の事態には備えなければとセーラーサターンを任命しました。然るべき時に全て終わらせ、再生出来るように一任したの。もし王国が滅びてもいつかどこかでまた再興できるように。こんな事態になる事までは流石に想定していなかったけれど」


全てを見通していた訳では無いけど、どんな結果になってもいい様にと最悪に備えて措置を取っていた。

クイーンは凄い人だと改めて感じた。


「私はセレニティ、貴女の幸せを願って生きてきたの。だから貴女が地球に憧れ、恋をして大人になってくれたらとそう思っていたの」

「何も知らず、ごめんなさい、クイーン」

「いつしか私自身もあの日の記憶も封印してた。向き合ってこなかった私の責任。貴方は気に病むことは無いのですよ、セレニティ」

「でも……」

「貴女のせいではないわ、分かっています。もう何も言わないで、セレニティ。……辛い想いをしたのね。それが貴女をこんなに立派にしたのね」


ママは懺悔しようとしてたけど、クイーンは首を振りそれを制止した。

前世の事はクイーンである自分の責任。

かつて私が国を滅ぼしかけたこと、プルートを死なせてしまったことを懺悔したあの時のママのセリフを今度はクイーンがママにかけていた。

それ以上は聞き入れない。そんな凛とした佇まいで。


「四守護神たちも、呪いの言葉は関係なく貴女の心配をしてましたし、幸せを誰よりも願ってましたよ」

「禁断の恋だったから反対されたのだとネヘレニアの話を聞くまでずっと思っていました。ずっと、誤解してた……」

「セレニティ……」

「ママ……」

「貴女が恋をした事、その相手が地球国の王子であった事、私は悪いことでは無いと思っていましたよ。禁断の恋ではあったけど、運命を乗り越えてくれたらと思ってましたから」

「お母様……」

「クイーン……」

「クイーンは転生しなくて良かったのですか?」


図々しいとは思いつつ、心残りがなかったのか聞きたくなって口を挟んでしまった。


「そうね、考えてもなかったわ」

「そうだったんですね。でも、どうして?」

「月の王国を終わらせてしまったのと、私の役目は終わった。後は転生したセレニティ達にと未来を託したの。私は十分生きて役割も果たしたから。私の役目も終わって世代交代しないとと思っていたし、王国を終わらせてしまった女王として報いを受けないと。当然の結果ね。お陰でスモールレディにもこうして会えて、それだけで十分。幸せよ」


スッキリとしているのか、眩しい笑顔でそう優しく答えてくれた。


「ありがとう、セレニティ。愛する人と幸せになって女王となり、王国を再建してくれて。シルバーミレニアムを継いでくれて。きっと並大抵の覚悟ではなかったことだと思います。本当に私のわがままを聞いてくれて感謝します」

「お母様、私の方こそ色々と本当にありがとう」

「クイーン、私の方からもとても感謝してます。あの時、セレニティの、うさこのわがままを聞いて下さって」

「私は何もしていないわ。地球人として生まれ変わったんですもの当然よ。でも、セレニティがセーラームーンとして戦う事は想像していなかったから、最初に月に来た時は驚いてしまったけれど」


ママがセーラームーンになる事まではクイーンは願って無いみたいだった。

ならどうして戦士になったんだろうという疑問が残る。

だけど、こうしてクイーンの意志をちゃんと継いでくれている事がとても嬉しいみたいだった。


「それと毎年、こうしてここであの日の事を弔ってくれていることも。前世の事を、あの日の出来事から目を背けず向き合い続けてくれて、本当に感謝します」

「そんな、当然の事をしているだけです!あの日の事は私の浅はかさから起こした悲劇ですから」

「いえ、地球人を諭すことが出来ず攻めて滅ぼす引き金を引いたのは私の責任ですから。当然です」

「力及ばずだった私の責任だから、気に病まないで。向き合ってくれてるだけで感謝しているのだから」

「ありがとう、お母様」

「こちこそ、ありがとうございますクイーン」


私は何も言えないけれど、ただただ感謝のお辞儀をした。


「スモールレディ、王国を、そしてお父様やお母様をよろしくお願い致します」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」


私に王国やパパとママを託すと、クイーンは笑顔で消えていった。

きっと全てを話せて満足したんだと思う。

孫娘の私に会えた事も嬉しそうだった。

直接は血が繋がってないけれど、本当の家族だと思っていたクイーンに会えて私も嬉しかった。

ネヘレニアの記憶の中だけの人だったけれど、現実に会えてとても嬉しかった。

色んな事が聞けて、凄く充実した初めての月への訪問とお墓参りだった。


隣を見るとママは今までクイーンがいた場所を見つめながら静かに大粒の涙を声も出さずに泣いていた。

私の前では強く凛とした姿を決して崩さない強いママだけど、今はただただ昔の私がよく知る泣き虫な月野うさぎに戻っていた。

きっと今までクイーンとして緊張の糸を張り巡らせていたんだろう。

かつての母親を見て、色んな事を話して、きっとあの頃の少女に戻ったんだね。

お疲れ様、ママ。


「さて、そろそろ帰りましょうか?」


泣き止んだママに誘導され、私たちは地球へと帰路に着いた。


月に行って改めて思った事。

今この瞬間は決して当たり前じゃないって事。

あの日、多くの人が犠牲になり、色んな人の想いが形となり今がある。

当たり前じゃ無くて色んな偶然の積み重ねで成り立つ奇跡。

私がここに存在するるのも奇跡の積み重ねで。

パパとママが何度も出会って恋に落ちて愛を育んでくれたおかげで私はいるという事。


私はそんな過去や人達の分も幸せにならなければいけない。

ママからバトンを受け取り女王となったその時は王国が繁栄出来るよう精一杯務めたい。

もう絶やす事の無いように私もいつかエリオスとの子供が欲しいな、なんて。まだまだ先の話だけど。

今はまだ小さな私だけど、そんな壮大な未来を思い描いてもいいよね?


今の私は色んな人が紡いできた上に成り立つ未来へ繋がる希望の光。この軌跡を胸にこれからの未来を大切に生きていこうと決意した。そんな一日だった。





おわり



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