セラムン二次創作小説『Melty Kiss(クン美奈)』


今年もこのイベントがやって来る。そう、バレンタインデーだ。

思い起こせば中一の時からバレンタインとは尽く縁がなかったように思う。


中一の時はセーラーVを夢中でやっていて、気付けば本命がおらず本番の日を迎えた。いや、直前に怒った顔がナイスガイのイケメン、若木さんに出会ってはいたけど、硬派だからチョコは嫌いと倒れちゃって渡せなかったんだ。けど、その代わりのキスでのプレゼント。

そしてこの直後にキャンディを巻き散らせて登場したエース。敵か味方か分からなかったややこしい立ち位置だったけど、結局私の敵として立ちはだかり、私がこの手で倒して終わった。呪いの言葉を残して…。


中二の時はダークキングダムとの戦いが最終局面に差し掛かっていて、全く持ってそれどころじゃなかった。


そして中3、デス・バスターズとの戦いを終えホッとしたのも束の間、受験で頭が悪い私は亜美ちゃん監視の下厳しーーーーーーい環境で受験勉強をせざるを得なかった。勿論、忙しい日々の中好きな人も出来なかったし、何ならバレンタインデーも受験勉強で気づけば過ぎて終わってる始末。


そんなこんなで中学時代のバレンタインを全く満喫できなかった恋多き女、のはずの私は結局本命にチョコを挙げず、だけど誰にもチョコを挙げずに終わるのもつまらないと3年間はパパとアルテミスにあげるに留まった。

この愛の女神であり恋多き女である私が中学の三年間、本命もおらずバレンタインデー不参加なんて不名誉過ぎる!私、ちょ~~~~可哀想!不憫極めてたわ。



そして花の女子高生になった1年目、憧れのアイドル“スリーライツ”がまさかの同じ学校に転校してきたこともあり、絶対3人にあげよう!特に夜天くんには豪華な物(誕生日が近い為)を!なんて思っていたのに…。

まさかの男装(性別は完全なる女性)アイドル、そしてキンモク星と言う太陽系外惑星の異星人の火球プリンセスを護る戦士で、私達のプリンセスであるうさぎと自分たちのプリンセスを護り死んでしまった。

その後、彼女達も私達と同じ様に蘇って元気でやってるとうさぎの所に連絡が入ったらしいけど、今頃3人はどうしてるかな?なんて時々思い出したりもするけれど…。


そして高2の今年は…そう、遂に長かった冬が終わり(いや冬本番真っ只中だけど)春がやって来て(実際の春はまだもうちょい先だけど…)、やっと本命の彼氏が…いる!

長かった…。ちょ〜~~長かったわ!

ちゃんと渡す相手がいる喜び。やっとバレンタインデーにちゃんと参加出来る喜びをありがとう、神様仏様公斗様!


でも1つ大問題があるのよね。公斗って甘い物苦手なオッサンなのよね。

今年はみんな本命彼氏がいるからまこちゃん監修の下チョコを手作りしてあげようって事になってるんだけど…チョコだけにチョコっと、いや、大分不安。


チョコを作ってる時、好きな子から貰うんだから何だって喜んでくれるよ?ってうさぎは言ってくれたけど、そりゃあうさぎはいいわよね?まもちゃんはチョコが好物なんだから何の問題もないわよ。こちとらチョコは嫌いってはっきり言われてるんだから厳しい気がする。まぁ苦めのビターチョコをチョイスしたから大丈夫か?



そして待ちに待ったバレンタインデー当日、学校帰りにチョコを渡す為に公斗のマンションへといつもの様に向かう道中、心臓の鼓動がバクバクして落ち着かない。別に告白しに行く訳では無いし、寧ろ付き合ってて両想いなんだし何がどうって訳でも無いのに妙に緊張する。

ティーンネイジャーになってやっとまともにこの日を参加出来るのがいきなり付き合ってる彼氏ってのがずっと不参加だった私には実は結構ハードルが高い事みたい。チョコ嫌いな彼氏だから余計にね?

愛の女神であり、恋多き女であるこの私愛野美奈子とした事が、色々ダメダメな恋愛人生を送っていて我ながら落胆しそうになる。

仕方ない、私はうさぎを護る戦士のリーダーとしてプリンセスに純潔を誓っていたんだもの。それが今までの生き甲斐であり、これからも揺るぎなく変わらない事実。それを分かち合える同士だからこそ女としての幸せを手に入れて素直に付き合っていこう、私にはこの人以外考えられないんだって思えたからこそ君斗の手をあの日手を取った。

私には公斗しかいないし、公斗も同じでアイツにも私しかいないと自負しているけど…チョコ受け取って貰えなかったら結構シンドいかも…。


柄にもなくマイナスな事を考えながらもマンションに到着した私は、気が重くなりインターホンを押す手が重くなり、大きなため息が出てしまい慌てて深呼吸をして呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。


そして覚悟を決め、いざ!戦場へ!(悲しき戦士の性)





ピンポーーーーン!






開いてるぞ!と返事が返って来たから遠慮なくいつもの様に上がってリビングへと直行すると公斗が難しそうな本を読みながらソファーで寛いでいた。


「やっほー、愛の女神から素敵便のお届け物でぇーっす!」


いつも通りのハツラツに元気な私で自然に渡そうとしたけど、ちょっといつもよりテンション高すぎちゃったかな?公斗を見るとどういう表情よ?って顔で見てきてやり過ぎたことを瞬時に悟った。


「素敵便って何だ?」


…冗談でしょ?唖然、呆然、愕然よ!今日が何の日か分からないわけ無いわよね?イベント事に興味ないのは知ってるけど、今日この日にソワソワせずに正常を保てるメンズがこの世に存在するの?マジ?絶滅危惧種発見!

でも大学行ってんだから同級生……って言うのかしら?に何個か貰ってんじゃないの?いや、チョコ嫌いだからそれは無いのか?だから興味無いのか?でも意識はするよね?それとも私がいるから他は興味無い的なアレ?


「嘘でしょ!?今日が何の日か忘れてるの?」

「ん?何日だっけ?」

「14日よ!2月14日!バレンタインデー!」

「あぁ…そうだったか?」


予想の斜め上だった。日にちが分からなかったパターンだった。予想外だ…。

チョコが嫌いだから無関心を貫けるのか?はたまた毎年絶対貰えると言う絶対的自信の上に成り立つ余裕か?


「信じらんない…女の子にとっては一大イベントなのよ?男の人にとってもドキドキするでしょ?」

「それは申し訳ない」


いや、素直に謝られても。あれこれ考え過ぎてた私が何かバカみたい。でもこれくらいの方がかえって私には丁度いいのかもしれない。


「はい、これバレンタインのチョコ」

「…チョコは嫌いと言ってるだろう?」


分かりきってた事だった。だけどどこかで私は特別で、嫌でも受け取って貰えるって過信してた。でも実際は違ってた。嫌いなものは嫌いなんだ。何だろう、予想してた展開だけど脳みそが理解を拒否して感情が追いつかない。結構辛い。やっとバレンタインに1人の恋する乙女として参加できると思ったのに…。涙が出そうになる。泣くな私!泣いたら負けだ。


「いらないなら夜天くんにあげるからいいわ!」


やっと口から出た言葉は、今はこの星にいない人の名前を上げて公斗の気を引かせると言う精一杯の強がりだった。そして持ってきたチョコを押し付けて慌てて走り去ろうとしたその時、公斗が私の手を引っ張り身体を引き寄せ私の唇を奪い、初めから深いキスをして来た。苦しい。逃げようとしても必要に追いかけて来て逃してくれない。でも優しく深いキスはとても安心するものだった。


暫くして漸く離され、呼吸困難に陥りそうになっていた私に彼の次の一言に今度は心臓が止まりそうになった。


「俺はこっちの方が好きだ!」


な、な、な、な、何よそれ?

殺傷能力あり過ぎじゃない?

愛の女神だけど恋愛経験豊富じゃないのよ?

あんなことされた後にこのセリフは天国行きまっしぐらよ?

私をどうしたいのよ!もう!


「なっ!ズルいし酷い!」

「酷いのはどっちだ!夜天って誰だ?」


さっき私がとっさに言った言葉が相当堪えて引っかかったのか、怒った顔で答えるまで逃がさないと言わんばかりの顔と凄んだ声で言ってきてたじろぐ。


「同じ学校のアイドルよ!」

「好きなのか?」

「どうして?」

「俺がいるだろ!他のやつは見るな!」


イライラしながら私が持ってきたチョコを取り上げる。


「いらないんじゃなかったの?」

「いらないとは言ってないだろ?お前が1人突っ走ったんじゃないか!」

「あの言い方だったらいらないって思うでしょ!いるの?」

「1人じゃ食いきれない」


無造作に包装を開けて口の中に入れようとした公斗を慌てて制止する。


「嫌いなら無理しなくていいわよ!?」

「無理などしていない。せっかく持ってきてくれたんだ、食わせろ!」


チョコ嫌いな癖に何でこんなに偉そうに言ってくるんだろ?


「分かったわよ!これ、一応まこちゃん監修で私の手作りでビターチョコで苦めにしてあげてるんだから、そこの所よろしくね?」


言い終わるが早いか、公斗は自分が食べるんじゃなくて私の口にチョコを入れて来た。え?何の罰ゲーム?自分の手作りを自分で食べるって惨めな展開、ここに来て予想してなかったわよ!アレか?私の手作りって聞いて毒味させようとしてんのか?料理不得意だから。味見してないって言ったの根に持ってるのかも。

色々腹立てながら食べているとまた唇を塞がれて舌を入れられて驚いてしまった。チョコ食べてる最中なんだけど?って思ったらチョコを舐め取られてるっぽい。突然のディープキスにボーッとしてる頭で考え巡らす。目当てはキスに託けてチョコ?もしくはチョコにかこつけて私?

これが所謂憧れの食べ物を使ったディープキスプレイって奴?

口の中のチョコを全部取られたところで唇が離された。


「ん。こうすれば食べられる」

「んぁっはぁー、何それ?普通に食べられないわけ?」


チョコ食べる度に私通して食べられたら私の身が持たないんですけど?


「嫌だったか?」

「別に嫌じゃないけど。チョコの味はどうだったのよ?」

「まぁまぁだな。俺は美奈子の方が好みだ」

「なっ///」


チョコとディープキスの甘々二重奏に加えて公斗のストレートな愛の告白に頭が痺れて完全に思考回路はショートした。




でもチョコはやっぱり苦手みたい。

チョコを上げる度にディープキスで私を介して食べられるくらいなら身が持たないし、あげるのはもうやめた方がいいと流石に悟り、次からはオッサンに相応しい物を用意しようと決意した。






後日、無責任に応援したうさぎに報告がてらクレームを入れると、「私だってチョコフォンデュとか言ってまもちゃんに身体中舐められて大変だったんだから~!」と逆にとんでもない惚気話が返ってきた。

私たちの遥か上の大人の遊びをしていて、自分のエピソードがちっぽけ過ぎて色々恥ずかしくなった。

…しかしまもちゃん、なんつー趣味持ってんのよ?うちの公斗も大概だけど…

何はともあれ、うさぎに無理させないでよ?








おわり


Happy Valentine's-Day♡



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