セラムン二次創作小説『夏休みの憂鬱(外部家族)』


夏休み本番。ほたるはラジオ体操から帰って来て、朝食を食べ終わった後、リビングで夏休みの宿題と格闘していた。

と言ってもほとんどの宿題は出されたその日にやってしまい、ほとんど残っていない状態だ。


夏休みだからと少し寝坊して起きて来たはるかは宿題と思しきプリントを広げて難しい顔をしているほたるに声をかける。


「おはよう、ほたる。いつにも増して険しい顔してどうしたんだい?」

「あ、はるかパパおはよう♪うん、夏休みの宿題について悩んでいたの……」


難しい顔をしていたのは、夏休みの宿題に悩んでいると聞いたはるかは疑問に思った。

と言うのも学校から帰ってきたほたるは、夏休みの宿題が出たと言って、早々にやっている姿をこの目で見ていた。

はるかはいつも後回しタイプで最後に焦ってやるので、このほたるの行動に、流石凄いと感心していたので覚えていた。


「全部やったんじゃなかったか?」

「うん、勉強系は全部終わったよ」

「他、何か残ってたか?」

「絵日記と朝顔の観察」

「毎日やって最終日まで終わらないある意味嫌な奴だな」


残っている宿題を聞いて納得したはるかは、同情した。

確かに頭は使わなくていい。しかし、無駄にダラダラ毎日最終日まで朝と夜頑張らないといけない。頭脳派のほたるにとっては嫌な宿題だなと感じた。


「そうなの。あと、読書感想文」

「読書はほたる大好きだろ?」

「そうなんだけど……」


急成長をしていた時、松尾芭蕉の“奥の細道”を暗記して、聞かせてくれていたことをはるかは思い出していた。

それくらい難しい小説も理解出来る頭脳の持ち主のほたるが、何故読書感想文に苦戦しているのか。はるかはさっぱり理解できなかった。


「これ……」


ほたるがはるかに渡したのは1枚のプリント。


「どれどれ」


プリントに目を通すと、“課題図書一覧”と書かれてある。ざっと見てみると、我が家にある本がほとんどだった。


「それ、全部もう前に読んだ奴ばっかなんだよね……」


ほたるが悩んでいた理由。それは、課題図書を全て読み切っていて、目新しい本が無いこと。

これは、確かに悩む。


「感想、書きづらいよ……どうしよう」


一度読んだ本に、感想は確かに書きづらいとはるかはほたるの悩みに共感した。


「好きな本を選んで書いてみたらいいんじゃないか?」

「どれも素敵な本なのに、一つなんて選べないよ」

「……ん~困ったなぁ」


全部素晴らしい本ばかりなので選べないと困惑するほたるに、はるかはどうするべきか悩み始めた。

はるか自身は、読書感想文は苦手中の苦手。相談に乗れる力量が足りず、お手上げ状態だ。

為す術なしかと思われたその時だった。


「あら、別に無理矢理一つに絞らなくてもいいのではなくて?」


家事をしながら二人の会話を聞いていたみちるが家事を終えてリビングへとやって来た。


「みちるママ、どういうこと?」


突然二人の会話に入って来たみちるは、何やら名案があるらしく、ほたるは質問をした。


「何も一つしか感想書いちゃダメなんて決まりはないでしょ?」

「言われてみれば、そうだな」

「全ての本の感想を書いてみればいいのではなくて?ほたるなら出来るでしょ?」


だって私の子供ですものね、と難しい事では無いはずとサラッと提案して退ける。


「そっか!全部書けばいいんだ!ありがとう、みちるママ」

「どういたしまして。頑張ってね、ほたる」


みちるの提案に、目からウロコで驚くほたるだが、喜んでその提案を受け入れた。

多くの人は一つ読むだけでやっとで。更に感想ともなると余計にハードルが上がる。

何日もかかる為、それだけで労力を費やす。その為、一冊しか感想を書けない。

しかし、読書感想文に明確なルールなど存在しない。


“一つしか書いてはいけない”

“複数書いても良い”

等とルールはどこにも書かれていない。


「読書感想文の悩みは解決されたみたいね。流石、みちるね!」

「うん、助かっちゃった!」


ほたるの悩みが解決した後に登場したせつなは、少し残念そうな顔をして会話に参加をしてきた。

リビングに家族4人、やっと集合である。


「私もほたるの悩みに寄り添いたかったわ」


2人とも狡い!とおどけて見せるせつな。

子供の悩みに応えたいと思うのは親心としては当然の事。ましてや、滅多に悩んだりしないほたるの悩みは貴重だった。

乗り遅れてしまったことを、せつなは心の底から後悔していた。


「大丈夫だよ、せつなママ。まだもう一つ残ってるんだ」

「まだ悩みがあるの?」


夏休みの宿題に関して、何故か色々悩みを抱えているらしいほたるにせつな達は驚きを隠せない。

そんなほたるの顔を見ると、先程笑顔を見せていたほたるの顔は曇っていて、また再び難しい顔をし始めた。


「実は、一番厄介なのがもう一つ」


重い顔をしてほたるは切り出した。

その内容とは……?


***



実は……と話しにくそうにほたるは三人に重い口を開いた。


「それは、自由研究……なの」

「自由研究か……」

「確かに、一番厄介かもしれないわね……」

「何をしてもいいものね」


そう、ほたるが最後にして最大の夏休みの宿題という敵は“自由研究”

ある意味何をしても正解なだけに、何をするか決まるまでが悩ましい。

ほたるもまた然りで、兎に角悩んでいた。


「何をするの?」

「まだ決まってないの……みんなは何をしたの?」


夏休みの宿題に何度も勇猛果敢に挑んで修羅場を潜り抜けてきた先駆者である三人に、ほたるは何をしてきたか質問した。


「僕は車の車種や歴史、どうやって作られているのかを調べたな」

「私ははるかと似ていて、それのヴァイオリンバージョンよ」


サラッと自由研究の内容を言ってのけるはるかとみちるは内容が似ていた。まだ出会う前というのに、ここでも気があっているなんて流石だとほたるは感心した。

それと同時に、やはりあまり参考にならない事に落胆してしまう。


「せつなママは?」

「私は、星や月の観測ね」


せつなは割とベタな題材だ。

しかし、この答えにもほたるはガッカリしていた。


「星の観察日記とかいいんじゃないかしら?」

「ほたるにもピッタリだ!」


みちるの提案に乗った形のはるかは、ほたると“太陽系を育てるゲーム”を一緒にしていた事を思い出した。

これ以上無いくらい、ほたるにピッタリだと感じて提案したが、すかさずほたるは頭をブンブン横に振って否定した。


「観察日記だし、毎日だから嫌か」

「違うの、はるかパパ」

「じゃあどうして?」

「実は、星の観察日記はちびうさちゃんがやるって言ってて、被っちゃうからダメなの」


ほたるによれば、星の観察日記は考えていた事だったそうだ。

しかし、無邪気なちびうさがクラスで宣言してしまい、考えていた大多数のクラスメイトが泣く泣く諦めざるを得なかった。

そして、その中の一人のほたるも、ちびうさがやるなら仕方ないとひっそりと辞めるに至ったらしい。


「スモールレディが星の観察日記をするなら、仕方ないわね」


ほたるの説明に納得したせつなは、心中輪を察してほたるの気持ちに寄り添った。

しかし、誰もが思いつくベタな題材と言えどちびうさとほたると思考回路が同じであることに、せつなは密かに嬉しくなった。


「困ったなぁ……」


頼みの星の観察日記が出来なくなり、再び行き詰まってしまったはるかは、為す術を無くして考え込んでしまった。


「まぁ、まだ夏休み一日目よ?ゆっくり考えればいいんじゃなくて?」

「そうよ、ほたる。焦ってもいいアイデアは出ないものよ」

「時間が解決してくれるさ」


結局、色々議論するものの読書感想文の様な良案は浮かんでこないままこの日はこれで終わってしまった。

早々に夏休みの宿題を終えてしまいたかったほたるだったが、まだ始まったばかりだと納得させる事にした。


「悩み聞いてくれてありがとう。はるかパパ、みちるママ、せつなママ」


相談に乗ってくれた三人に、そうお礼の言葉をほたるは言った。

どういたしましてと言いながらせつなとみちるは席を立ち、昼の用意をしにダイニングへと姿を消した。

その姿を見ながら、ほたるは再び一人きりで自由研究を何にしようか考え始めた。こうなれば意地である。


とは言え、一人では良い考えは中々思い浮かばないもの。

完全に行き詰まったほたるは、考える事を止めて、机に置いてあった新聞を読み始める。

これだけ活字に溢れているのだ。何かヒントになる事が書いてあるかもしれない。期待は余りせずに隈無く読み漁った。


「新聞読むなんて、流石はほたるだな」


凄い集中力で新聞を読み始めたほたるを見て、はるかは感心する。

新聞はせつなが読んでいて、はるかはスポーツの生地のみ目を通すだけ。ほたるもたまに読んでいるが、これほど読みふけっているのは今回が初めてのことだ。


「ダメだ……」


落ち込みながらそう呟くほたる。期待していなかったが、今日の新聞には何も参考になるものは見当たらなかった。


しかし、負けず嫌いで諦めの悪いほたるは、その日から毎日、新聞を読む事を日課にし始めた。

来る日も来る日も、朝起きてラジオ体操に行き、帰って来て朝顔の観察をして、朝食を食べながら新聞に向かう。これが夏休みのほたるの朝のルーティンになっていた。

それでも、中々新聞には良い案が落ちていない。



***



自由研究のテーマが決まらないまま、とうとう半分が過ぎてしまったある日の事。

いつもの様に新聞を読んでいたら、気になる言葉が目に入ってきた。


「火垂るの墓?どんな映画なんだろう?」


ほたるが見ていたのはテレビ欄。

夜9時からやる様だ。

勿論、今までもテレビ欄だってちゃんとチェックしていた。

しかし、惹かれるものは無く今日まで過ぎてしまった。


「ねぇ、みちるママ」


ほたるは同じ空間にいたみちるに話しかける。

朝の10時。みちるだけではなく、はるかもせつなもいる。家族全員集合の一家団欒の時間を過ごしていた時だった。


「なぁに、ほたる」


呼ばれたみちるは優しく返事をする。


「“火垂るの墓”って、どんな話?」

「“火垂るの墓”……ねぇ」


火垂るの墓と言う単語を聞いたみちる。笑顔だった顔が、見る見る曇って行く。

そして、はるかとせつなと視線を合わせる。

みちるが思った通り、はるかとせつなも浮かない顔をしていた。考えている事は同じ様だ。


「その映画が気になるの?」

「うん、あたしと同じ“ほたる”っていう言葉がついてるから」


どうやら共通点の“ほたる”と言う言葉に強く惹かれているみたいで、とても強い眼差しでみちる達を見ている。

これは、答えるまで逃げられない。そう感じた3人は、ほたるの質問に観念して答える事にした。


「ほたるが何を期待しているかは分からないけど、面白い物語じゃないぞ」

「それは何となく想像着くよ。“墓”って付いてるもん。火垂るが死んでしまうお話?」

「遠からずも近からずってところかしら」


火垂るが死ぬのは勿論の事、戦争映画故に“死”がテーマだ。

ただでさえ前世から過酷な運命を背負い、複雑な環境に身を置いていたほたる。

はるか達は、出来るだけ普通の生活を楽しく過ごして欲しいと願っていた。

戦いが一段落した今、そっちにほたる本人が自ら導かれて行くことに三人は不安を抱いていた。


「ズバリ言うけど、その映画のテーマは戦争だ。それでも見たいかい?」

「うん、見たい!」


諦めてくれたらと言う願いを込めて、はるかは火垂るの墓の説明をザックリと話した。それで、見ないと言ってくれないかと期待を込めたが、意に反してより一層決意が固まった面持ちで見たがってしまった。


「でも、ほたる。放送は夜の九時よ?起きられるの?」


せつなは、早寝早起きで九時までに寝てしまうほたるの習慣を思い出し質問して、為す術を無くしたはるかを援護した。


「起きるよ!今日はプールもないし、お昼寝して夜寝ないように頑張る!」


夏休みに入ってすぐプールも始まり、週三日ほど学校に通っていた。そこに加え、6時半から毎日ラジオ体操。

セーラー戦士とは言え、まだまだ子供のほたるには結構ハードな生活だ。その為、自ずと毎日学校に通うより、疲れてしまい九時までにはダウンして眠ってしまう。

しかし、今日はタイミングよくプールが休みの日。隙間時間が出来るため、昼寝をしてスタンバイ出来るという。


「そこまで言うのなら、許可するわ」

「わぁ、ありがとう。みちるママ」

「でも、火垂るの墓を見てどうするの?」


どうしてそこまで見たいのだろうとせつなは単純に疑問に思って質問してみた。


「自由研究にするの」


至って真剣にそう言ってのけるほたるを他所に、はるか達は置いてけぼりを食らう。

自由研究を何にするか悩んでいる事は勿論知っている。

しかし、火垂るの墓を見てどんな研究をしようとしているのかが見えてこない。


「映画を見て自由研究?何をするんだ?」

「戦争についての論文を書いてみようかなって。ダメかな?」


サラッと論文を書きたいと言うほたるに三人は絶句した。小学三年生で戦争を題材に論文を書くとは、やはり元々土萠創一教授の娘だっただけあると感心した。

と、同時にやはり戦争に惹かれるとは、これもまた運命という奴かとはるか達は逃れられない宿命を呪った。


「良いんじゃないか?ほたるがやりたい事をやることがより良い自由研究が出来ると思うぜ」

「自由研究のテーマが決まって良かったわね、ほたる」

「そうね、頑張って。ほたる」

「うん、頑張る!」


三人からのエールに、ほたるはやる気に満ち溢れていた。


漸く自由研究のテーマが決まったほたるは、ホッとしてその日の昼は寝てしまった。


そして九時。宣言していた通り、お風呂も入り、テレビの前にスタンバイしてほたるは張り切っていた。

9時になり、映画が始まると食入るようにして見ていて、時折涙を流したり、せつなと一文字違いの節子に感情移入したりして悲しんでいた。

兄妹が待ち受ける過酷な運命に、心打たれた様子だった。ほたるよりも小さな子が、栄養失調で無くなる。戦争とは、何も生まない。


「戦争は何も悪くない人の命も簡単に奪ってしまう。こんなの、絶対にあっちゃいけないよ!」


絶望したほたるは絶叫して泣き叫ぶ。

かつてセーラーサターンとして沢山の命を奪う運命を背負わされたほたる。

クイーンから与えられ、そう言う運命だから。そう言ってしまえば簡単だ。

しかし、運命とは残酷なもの。


「一般市民を巻き込まないようにしないとね。セーラー戦士として、地球は私たちが守らなきゃ!」


まだ小学三年生のほたるだが、立派なセーラー戦士だ。そう宣言して、決意を新たにした。


「今日はもう遅いわ」

「そろそろ寝る時間ね」

「12時か、随分と夜更かししたな」

「えー、この勢いで宿題やりたいよぉ」

「ラジオ体操までに起きられなくても良いの?」

「それは、嫌だ」


そう言った途端、緊張の糸が切れたのかほたるは気絶する様に眠りに落ちた。


「あらあら、ホッとしたのね」

「こうして見ると、普通の子供よね」

「ベッドまで連れて行ってやるか」


仕方ないお嬢様だなと言いながらも嬉しそうにそっとほたるを抱き抱えるはるかは、立派な父親だとせつなとみちるは微笑ましく思った。


「火垂るの墓を見て、どんな論文を書くのかしらね?」

「感じたことをそのまま、とか?」

「ちゃんと等身大の論文が書けたらいいのだけど……」


みちるとせつなは不安に思っていた。

前世での重い使命。土萠ほたるとしての過酷な運命を生き抜いて来た少女ほたる。

何を考え何を感じて戦争論文を書くのだろうか?

そんなみちる達の不安を余所に、ほたるはスヤスヤと深い眠りに付いていた。





おわり



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