セラムン二次創作小説『過去は振り返らない(ジェダレイ)』


「レイさんのこと、もっと知りたいな」

「別に、話すほどの事など、何も……」


“知りたい”と言われ、動揺する。

彼が何を知りたいのか?それは、何となく分かるから……怖い。


彼の知りたいこと、それは私の恋愛事情や家庭環境。

ここ火川神社の宮司をしている祖父と2人、この家で暮らしている。両親はいない。

カラス二羽と仲がいい。


付き合う前に、散々通いつめていたらここまでの事は分かっていると思う。

過去の事は、余り話したくない。と言うのが本音だ。


「レイさんの事だから、めっちゃモテてたんだろうなぁ~」

「ええ、まぁ……それなりに」


何故か嬉しそうに彼は言ってのけた。

私がモテている事に、嫉妬とか無いのだろうか?

私なら、恋人がモテているのは余りいい気分はしない。私だけを見ていて欲しいから。


「やっぱり!そんなレイさんの恋人が俺なんだな~。優越感、なんてな?アハハハハハハハハ」

「……バカ!」


そういう事か、と何となく腑に落ちる。色んな男性に言い寄られても、全て振って。選んでもらえたことが、彼にとって、とても嬉しい事なのだと。

私とは違って、彼は何でもポジティブに取られられる人。それがとても羨ましくて、眩しくて。

そんなポジティブな考えの人だから、私は彼を選んだんだと今確信した。

私には無いものを持っている。だから惹かれたのかもしれない。


「好きな人や、付き合ってた人は?」

「……」


正直に言うべきなのか?はぐらかすのがいいのか?

どう答えればいいか分からない。

彼が欲しい答えが、皆目見当もつかなくて困る。


「何故そんなに過去の事が知りたいのです?」

「好きな人のこと、全部知りたい!そう思うのは当然のことだと思う」


分からなくはない。けれど、知らなくてもいい。知る必要の無いこともある事は事実。

本当に、彼と私とでは考えが真逆。


「いたとしたら?」

「きっとその人は、素敵な人だったんだろうな~」


“素敵な人”と言う言葉に、少し嬉しくなってしまった。

確かに、海堂さんは素敵な人だった。

お互い、考えが似ていて、同志だと思った。

何でも分かり合える存在だと思っていた。

でも彼は、違う人を選んでしまった。


対して、和永さんは彼とは真逆の人。

それがかえって良かったのかもしれない。

だから、信用出来る。

心を動かされたのは、海堂さんに振られたからなのかもしれない。


「振られましたの」

「そう……だったんだ。でも、その人のお陰で今、こうして付き合えてて、感謝だな」


本当にポジティブで、おめでたい人。

だけれど、こう言う人だから私の心は軽くなるんだろうと思う。

何故海堂さんと上手くいかなかったか?

それはきっと、とても似ていたから。

磁石は、同極だとくっつか無い。反発してしまう。

対極だと、くっ付く。

人の関係も、きっとこの磁石の原理と同じなのかもしれない。

美奈といるのが楽しいのも頷ける。


「そう、かも知れない……ですわね」

「過去の人に感謝だ!」

「私に過去は、必要ないですわ!過去は振り返らない主義ですの」


過去に執着するなんて、かっこ悪い。

未来を向いて生きて行きたい。

それが私の考え方だった。

前向きと言うのとはまた違うけれど。


「前世も過去みたいなもんだけど?」

「別人ですわ。それに、始まってもなかったですから」

「確かに、髪の掟は絶対だったもんな……」

「でも貴方、余り気にしてるようには思えなかったですけれど?」

「心のままに生きていたからね。っていうか、本気で好きになった人は、マーズ、君一人だったよ」

「調子のいい言い方ですわね?どうとでも言えますわ」

「ハハハ、そうだね」


前世も過去。それはそうだけど、あの時は戦士として己を律していた。

今も同じだけど、あの時とは違う意味で頑なになっていた。


過去なんて必要無い。

過去は振り返らない主義。

そう思っていたけれど。

和永さんに言われ、時には必要なのかもしれない。そう思い直すことにした。

今の自分があるのは、過去があるからだし、否定するのは自身を否定している事にも繋がる。

和永さんは、大切な事を気づかせてくれたかけがえの無い人。


「紅茶でよろしくて?」

「あ、ああ、うん。ありがとう」


余り参拝客がいなかったから、彼を家の中へと招待していた。

お茶を出すタイミングを見失っていて、話が一段落したところで、紅茶を入れることにした。


「砂糖やドリップは?」

「大丈夫。って、そのカップは!」


明らかにペアのマグカップを見て、彼は驚きを隠せないでいる。


「以前、うさぎから誕生日プレゼントとして貰っていましたの。使うタイミングが無くて……」


おじいちゃんと使ってとプレゼントされたペアカップ。

おじいちゃんと使うのは違うと思い、取っておいた。

やっと出番が来たのだと確信して、彼に出してみた。


「ペアカップ、すっげぇ~♪♪」

「うふふっ」


何でも素直に子供みたいに喜ぶ彼に、自然と顔が綻び、笑っていた。


「レイさんが笑った!笑顔も美しい♪♪」

「私だって笑いますわ!」

「怒った顔も可愛い♡」

「もう!」


これからは、このペアカップを彼と一緒に飲んで行きたい。

過去に囚われていたのは、私自身だった。

和永さんの言葉に、心が軽くなった。

過去も丸ごと愛してくれる優しい彼に救われた日だった。


おわり

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