セラムン二次創作小説『青天の霹靂(エンセレ)』


「今日もいい天気だなぁ~♪」


この所ずっと青空が続いている。

天候をコントロール出来ない地球では毎日空模様がコロコロ変わる。

貴重な青空が続く空にエンディミオンは地べたに寝そべりながら眺めていた。

休日の穏やかな午後。

爽やかな天候。

平和とは正にこういう事を言うんだとまどろみながら呆然と思っていた。

普段口うるさい四天王からも逃れ、たった1人のホッとできる時間。

ずっとこの時間が続けばと思っていた。


しかし、その沈黙はいとも簡単に破られる事になった。

ボーッと空を眺めていると何かが落ちてくる。

よく見てみると……。


「え?ひと?」


空から人らしきものが凄い勢いで落ちて来る。

反射的に落ちそうなところへと向かった。

夢中で受け止めようと必死になる。

しかし、良く考えると空から落ちてくるんだからとてつもない重力で、受け止められず2人とも死ぬのでは?と漠然と思ってしまった。


しかし、そんな事は関係ない。

助けたいとその一心でエンディミオンは体が勝手に動いていた。

近くでよく見ると小さな女の子。

銀色の長い髪を2つにくくり、ガラスのようなドレスを着ている。

自分と同じ位の年の子だろうか?

絶対、受け止める!

そう決意を新たに、踏ん張って受け止める為に体制を整える。


「ん?あれ?」


決意した瞬間、女の子の落ちるスピードはゆっくりになり、体制を整えふわふわと降りてきた。ようにエンディミオンには見えた。

それまでは凄い勢いで落ちていて、本人も戸惑っている。そんな様に見えていたのに。

凡そ現実離れした出来事と、女の子の格好からエンディミオンは思った。


「君は……天使、なの?」


受け止めた女の子はフワッとしてとても軽いものだった。

羽根が生えているようにも見えて。

そんな言葉が自然と口に出た。


「Που είμαστε(ここは何処?)」


やっと発した女の子の言葉は聞いたことも無い言語だった。

空から降って来た知らない言語を話す小さな女の子。

エンディミオンは余計に天使説を加速させた。


「うわぁ~、君、本当に天使なの?」


呆然と立ち尽くしている女の子を他所に、エンディミオンは彼女の周りをクルクル回り始めた。


「あれ?羽根、生えてないんだ?」


後ろに回った時、羽根があるか確認するとどこにも無い。

確かにあるように見えたのに、と残念そうにエンディミオンは項垂れる。

羽根だと思われたものは腰に大きく結ばれたリボンだったようだ。


「このリボンが羽に見えてたんだ!残念だな……」


あからさまにガッカリして項垂れる。


「Τι συνέβη(どうしたの?)Καλώς(大丈夫?)」


心配した女の子は、しゃがんでエンディミオンの顔を心配そうに見上げる。

お互いに言語が分からず、もどかしさを抱える。


「心配、してくれてるの?僕は大丈夫だよ。君は?空から落ちてきたけど……って聞いても通じないんだよな」


どこの言葉が分からない。意味も通じない。

もっと言語の勉強をしておけば、とエンディミオンは後悔した。

聞いたことの無い言語だからここら辺の子じゃないのは明らかで。

ましてや空から落ちてきたから余計に。

言葉も通じない。

どうすればいいか八方塞がりだった。


「エンディミオン、やっと見つけたぞ!」


頭を抱えていると、こういう時に何かと役に立つであろう人物が登場する。ーークンツァイトだ。


「クンツァイト、いい所に来た!」

「なぁにがいいところに来た、だよ。俺たちから逃げてたくせに」

「わりぃわりぃ」

「本当に悪いと思ってたらこんな事しないだろ。……ってこの女の子は?」

「空から落ちてきたんだ」

「はあ?つくならもっと上手い嘘ついてくれよ……」


クンツァイトは呆れて大きなため息をつきながら頭を抱える。

眉間にはシワが寄っていた。

まだ子供なのに苦労を一手に引き受けているのが現れている。


「Καλώς(大丈夫?)Πονάει το κεφάλι μου(頭痛いの?)」


話しかけられ、クンツァイトはとても驚いてしまった。

地球語ではなかったからだ。

ただ、何を言っているか何となく意味が分かってしまった。それが問題だった。

四天王リーダーとして、あらゆる言葉を学んでいる。

その女の子がどんな人かは分からないが、月の言語であると直感した。

そしてこれ以上の関わりは不味いと直感が告げていた。


「どうやら嘘ではないみたいだな」

「信じてくれたのか?」

「まぁ、知らない言葉を喋ったのが何よりの証拠だ。信じるしかない」


これで嘘つき呼ばわりをする方がバチが当たる。そう思った。

しかし、エンディミオンに本当の事は言わない方がいい。直感がそう告げていた。


「Πριγκίπισσα,ήμουν εδώ(プリンセス、ここにいたのね?)」


どこから来たのか、いつの間にか今度は大人の女の人が現れた。


「Αφροδίτη(ヴィーナス!)」


女の子は泣きながらその女性に抱きついた。

自分の置かれている状況に理解出来ず、驚きで涙も出なかったのだろう。

しかし、知り合いと思しき女性が迎えに来た事でホッとして緊張の糸が切れたと言った感じなんだろうと思う。


「Είναι εντάξει τώρα,Πριγκίπισσα(もう大丈夫ですよ、プリンセス)Ας πάμε σπίτι,Μήνας(帰りましょう、月へ)」

「Ναί(うん)ειά σας(さよなら)」


2人は手を繋いで帰って行った。

その後ろ姿をエンディミオンとクンツァイトはいつまでも見ていた。


空から降ってきた不思議な少女との出会いを機にエンディミオンは真剣に色んな国の語学を学んだ。




おわり



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?