セラムン二次創作小説『OVER DRIVE(ネフまこ)』


「私、バイクの免許取ろうかな?」


ゲーセンのバイクに跨り、1ゲーム終えたまことは何を思ったのか、いきなりそんな事を言い出した。

隣で見ていた俺は、驚き過ぎてむせてしまった。


「どうしたんだよ、急にそんな事言って……」

「急じゃないよ!見てたろ?私のバイクのハンドルさばき♪」


そう、まことの言った通り申し分無いほどバイクの運転が上手かった。

でもそれは、ゲームだからと言う可能性が高く、現実だとそうはいかないだろうと思う。

何故なら、まことはゲームが上手い。

それの延長上で考えているなら甘い。

チョコレートを溶かして餡子と絡め、更に砂糖ときな粉をまぶして、そこに蜂蜜とメープルシロップ、そして練乳をかけたくらい甘い考えだ。(どんな味だろう?逆に不味そう)


「すっげぇ上手かった!流石は俺のまことだ」

「だっろぉ~♪」


素直に褒めてやると鼻高々で喜んで笑顔になっているまことを見ると単純に嬉しくなる。しかし……


「でもなまこと、ゲームと現実は違うぞ?実際に道路を走るとなると危険がいっぱいだ」


俺は如何に現実とゲームは違うか、と言う事で実際の運転とはどんなものかを語って聞かせ、まことのバイク免許取得化計画を諦めさせようと試みた。


「そんな事充分分かってるよ!ずっと敵と戦って来てるから危険察知能力は優れてるよ。それに……」

「それに?」

「それに、いつも勇人に車運転してもらってて悪いし、たまには私も勇人乗せたいんだよ」


な、何だよその可愛すぎる理由はーーーー!!!

俺のためを思ってくれてるなんて、マジで可愛すぎか!?

俺を乗せたいって、俺がまことに乗りてぇわ!乗りまくりてぇわ!

ってこんな事考えてる場合じゃねぇ。

丸め込まれちゃダメだ!俺がまことを丸め込まないとダメなんだ。


「気持ちはありがたいけど、許可できない!」

「何でだよ?勇人は私の保護者でも何でも無いだろ?決める権利ないよ」

「保護者じゃねぇけど、恋人だよ。心配してんのになんで分かってくれねぇんだよ」


ってか何で楽しいはずのデートで痴話喧嘩になってんだよ?

ちょっと外に出てデートをすると意外な所に落とし穴が落ちてるもんだ。

いつもはまことの家でまったりすることが多い俺たち。

しかし、家の中ばかりなのは流石にマンネリ化してしまう。

そこで今回はゲーセンに行こうと言う事になった。

最初は一緒に対戦ゲームをしたり、プリクラ撮ったり、クレーンゲームをしたりして楽しく遊んでいた。

しかし、俺がレースゲームで車の運転の腕前を披露したタイミングくらいから雲行きが怪しくなった。

負けず嫌いな性格が出たのだろう。私もやる!と言って乗ったのがバイクだった。

大分頑なになり、意思が固くなっているまことをどう説得してやろうか?


「免許取得はタダじゃないぞ!金と時間がかかるんだからな!」


物理攻撃で説得を試みる方法を試してみる。


「そこまで世間知らずじゃ無いよ。お金はバイトで稼いでるし、時間も何とか確保するよ」

「多忙になったらまことと会う時間減って俺が寂しくなるじゃん」


一番の嫌な理由を素直に伝えて心に訴えかける方法に打って出た。


「勇人……」

「会えない時間が減るのは嫌だなぁ~」


子供っぽい言い方で母性本能に訴えて更に心に響かせようとダメ押ししてみる。


「勇人もバイトで忙しいし、一時会えなくなるくらいは大丈夫だよ」

「バイクの免許取ったら乗るバイクはどうするんだよ?タダじゃないぞ!高いぞ」

「はるかさんに一台貸して貰えないかなぁ……」


出たよ、はるかさん。あれ以来何かと言えば上がる名前に流石にウンザリしてくる。


「ずっとはるかさんのバイク乗る姿に憧れて来たんだ」


漸くバイクから下りてこちらを向いたかと思うと違うやつの名前を口にして、キラキラとした目で訴えかけて来る。


「俺じゃ……ねぇん、だな?」


女だと分かっちゃいるが、色々危なっかしいから気が気じゃない。

外見が外見だけに柄にもなく嫉妬する。


「勇人は車の運転が上手いだろ?もう敵わないと言うよりカッコよくて惚れ惚れしてしまって、車の運転は勇人に任せるのが一番って言うか、ずっと隣に乗っていたいんだよな」


べた褒めされてる?え?ちょっ?マジ照れるんだけど……。

俺、今どんな顔してる?

見せられなくて俯いてしまう。

いや待て、べた褒めされて丸め込まれちゃダメだ!

それとこれとは別の話なんだから。


「あれぇ~まことと勇人さんじゃないか」

「偶然ね」


再びの説得を試みようとしたちょうどその時、噂のカップルが登場した。ーーはるかとみちる、その人達だ。


「はるかさん、みちるさん!お久しぶりです」

「御機嫌よう、まこと。それに勇人さん」

「ああ、ご、御機嫌よう……」


お嬢様言葉と圧倒的オーラの2人に動揺してしまい、軽く噛んでしまう。御機嫌ようってなんだよ?レイちゃんにも言われた事無いぜ?……お嬢様、怖い。


「2人ともどうしたんですか?ゲーセンなんて珍しい……」

「はるかがね、久しぶりにスカッとしたいんですって」


へぇー天才レーサーでもスカッとしたい時があるんだなぁ。

そう思っているとまことがさっきまで跨っていたバイクに跨り、ゲームを始めるはるか。

それを俺は黙って見物する事にした。

まことが憧れるはるかのバイクテクニックがいかがなものなのか、拝ませてもらう。

最初から飛ばし気味で走るはるかはまるで風のようで楽しんでる感じがゲームを通して伝わって来る。

なるほど、ハンドル裁きもタイミングもバッチリで上手い。確かにかっこいい。

あっという間にゴールしたはるかはとても満足そうな笑顔をしていた。


「やるなぁ~」


素直に感嘆の言葉を口にしていた。

バイクは俺の専門外だが、上手いのは分かる。悔しいが、まことが憧れるのも分かってしまった。

隣のまことを見ると惚れ惚れした眼差しを送っていて面白くない。


「はるかさん、まことが君に憧れてバイクの免許を取りたいと言い出してるんだ。危ないと説得して欲しい」


ライバルだが、ここははるかに是非責任を取ってもらいたいと相談を持ちかけた。


「へぇーまこちゃん、バイクの免許取りたいんだ。似合いそうだな」


はあ?辞めさせて欲しいのに何持ち上げてくれてんだよ!役に立たないなぁ。


「応援してくれるんですか?」

「ああ、まぁ確かに勇人さんの言う通り危険がいっぱいでお勧めは出来ないけど……」


お前、どっちの味方だ!?


「危険察知能力は戦士やってて備わってるし、これから先も何かあれば戦わないといけないからバイクでもっと高められたらと思って」

「偉いのね、まこと。戦士の誇りよ!」


おいおいみちる嬢、入って来て持ち上げないでくれ!話がややこしくなるから!


「でもいきなり二輪は危険だから原付で段階踏んで行くのをお勧めするよ」

「原付か……勇人?」

「は、え?」


いきなり振られ、動揺する。

原付なら良いよな?という事なんだろうけど、そう言う問題でもない。最早意地になりつつある。


「よし、分かった!はるかと俺で勝負して俺が勝ったら諦める。はるかが勝てば許可しよう」

「正気か?はるかさん強いぞ?」

「勿論、正気だ」


そんな事は今見たから分かってる。

そして手の内も何となく分かった。

勝てる!そう確信していた。

勝ってまことを諦めさせる。

そしてかっこいいと惚れ直させる!

よし!一石二鳥!俺、天才!


「はるかさんが受けないってなったらどうするんだよ?」


正直そこまでは考えてなかったが、プロのレーサーだ。勝負事には乗ってくるだろ?と単純な頭で考えていた。


「楽しそうだね?受けて立つよ!ただし、手加減はしないよ?」

「正々堂々の勝負で文句は無いさ」


案の定、誘いに乗ってきたはるかは本気の走りをすると宣言した。

俺とて手加減なんて望んでないから願ったり叶ったりの展開だ。


「じゃあ2人とも、準備は良くって?」

「OKだよ、みちる」

「ああ、大丈夫だ」

「じゃあ、レディーゴー!」


まことの掛け声とともにゲームは幕を開けた。

勢いよく飛び出した俺はそのままのスピードを保ち、リードしていた。

しかし、はるかが本領発揮してあっという間に抜き去ってそのままゴールしてしまった。

あっという間の出来事に俺は一体何が起こったのか分からず茫然自失となってしまった。


「僕の勝ちだね」

「流石ははるかね!勝つって信じてたわ」

「はるかさん、やっぱりかっこいい~」


オレガ……マケタ、ダト?


「じゃあまことのバイクの免許を取ることを許可するね?」

「仕方ない。約束だからな。男ににごんはない!」

「だそうだ。よかったな、まこと」

「ありがとうございます!やったぁ~♪バイクの免許が取れる!」


すっげぇ喜んでるまことを見ると、本当に取りたかったんだと改めて思い知らされた。

被っていたヘルメットを外すと自慢のヘアもとんでもない事になっていた。

負けてしまうわ、惚れ直して貰えないわ、髪型は崩れるわ、挙句まことは結局バイクの免許を撮る事になるわでバイク勝負をした事を後悔した。

これだからバイクは嫌いなんだと益々嫌になる。


「流石強いな」

「勇人さんもいい腕してましたよ」

「そりゃどうも。負けちまったけどな」

「今度やったらどうかな?」


よく言うよ。顔には何度やっても絶対負けねぇ!って書いてあるぞ。

車なら勝てるのに何故バイクにしてしまったんだと今になって後悔していた。

まことのバイク免許をかけていたからバイクにするしかなかったが、今度は車で勝負してやると誓った。


そしてその後、本当にまことはバイクの免許を取るために教習所で手続きをして来たのだった……。





おわり



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