セラムン二次創作小説『ルージュの伝言(はるみち)』


「ねぇはるか、この口紅の色はどうかしら?ケバくはないかしら?」


そう僕に聞くみちるの朝は鏡台の前で口紅の色を決めることから始まる。

そして決まって僕に善し悪しを訪ねてくる。


「みちるはどんな色の口紅も似合うよ」


決まって肯定して褒めるのが僕の役目だ。


「やっぱりダメだわ。気に入らない」

「何がだよ。大丈夫だって、自信持ちなよ」


彼女はとても自信に満ち溢れていてプライドが高いが、唯一その自信が無いのが口紅の色合いである。

と言うのも前に夜天光ってアイドルに口紅の色について一刀両断のコテンパンに言われたからだ。


“下品な色!もちょっと自分に合う色見つけたら?”


余計なお世話だ!


この言葉の直後からみちるは変わってしまった。

口紅選びにすっかり自信をなくしてしまった。


「口紅、買いに行くわよ!」


あの後、僕の運転でコスメショップを回れるだけ回らされ、散々付き合わされた。

それ自体には別に嫌でもなんでもない。寧ろみちると合法的にデートが出来たし僕としてはラッキーだ。彼女の為に車の運転をして色々回れるのも楽しい時間だった。


嫌だったのはきっかけを作ったのがスリーライツの夜天光の言葉だ。

選んでいる間は僕では無くアイツの事を考えているってことが気に入らない。

そしてアイツがいなくなった今日までずっと囚われている。

僕がどれだけ言ってもあの言葉に支配されているのか、毎日口紅の色を選ぶ度にチラついているらしく、ずっと自分では選べなくなっている。


だからあれ以来店で口紅を選ぶのは僕の役目で、毎日の口紅の色も僕が決めてあげている。

僕が選ぶ色を付けることによってとても自信が湧いて、嬉しいらしい。


僕はどんな色の口紅のみちるでも魅力的だし、何より僕が選んだ口紅を毎日付けてくれているからそれだけで満足なんだけどね。


気づけばあの時から口紅の数はどんどん増えていき、今では軽く100は超える。

新作が出れば必ず買いに行くし、1度付けたら二度と塗らない!とは言わないまでもほぼ塗る事は無い。

勿論、リップグロスも同じである。

こだわりは無いが、自信もない。

買って使わない事も多いから宝の持ち腐れになる事もしばしば。まぁ流石に新品未使用品を捨てるのも勿体ないのでうさぎ達にあげている。


そんな今日はみちるの誕生日。

いつもよりおめかししたいのか、いつも以上にルージュの色に迷って吟味しているようで、聞いてからもう20分近く決めかねている。


「はるか、本当にこれで良いかしら?こっちの方が良くない?」

「どれも君に似合う色だよ。僕が見立ててあげてるんだから間違いないよ!」

「けど…」


塗ってみては違うのか、さっきからサンプルを試すみたいにコットンで吹き落とす事を繰り返していた。

今も正に気に入らないのか拭こうとしている。


その手を取り、顔を近づけ唇を奪ってやる。

突然のキスに驚くみちるだが、逃げずに静かに受け入れてくれた。


少し長めで、強引なキスにアイツへの嫉妬とみちるの口紅が自分に移ればいいとの想いを込める。


「そんなに気に入らないなら僕に移せばいい。だろ?」

「はるか…」


我ながらちょっとキザだったかな?


「気が変わったわ。今日はこの色にするわ」

「いいのかい?」

「えぇ、はるかと同じ色ですもの」


笑顔になり、やっと上機嫌になったみちるは笑いながらディープアクアミラーを渡してきた。


「見てご覧なさい。ベッタリ付いてるわよ?うふふ」


渡された手鏡を見ると思っていた以上にベッタリと付いていて驚いた。

なんてこった。嫉妬に任せてキスなんてするもんじゃないな。

みちるを見るとほとんど取れていた。

どうやら自分がほとんど持っていったらしい。


僕の唇を見て、即決に至った理由が明白だった。

そしてみちるは同じ口紅を鼻歌交じりに歌いながら楽しそうに塗って満足したようだった。


「みちる、お誕生日おめでとう」

「ありがとう、はるか」




おわり




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