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ウェディングハイに見る「ウケるスピーチ」と「結婚披露宴の問題点」(後編)

(前編はこちらから)

ケーキ入刀を前にして既に1時間押しになっていた披露宴だが、そこから、篠原涼子演じるウェディングプランナー・中越真帆が八面六臂の活躍を見せる。
本来は後半のプログラムをいくつか削らないと成り立たないのだが、中越真帆は新郎新婦の強い希望(特に新婦)に沿い、全プログラムを予定通り残しつつ、いろんな工夫を加えることで、何とかそのロスを取り戻そうと奮起するのである。

中越が講じた策の一例として、以下のものが挙げられる。

1) 新婦の恩人のスピーチを、たった一言だけにまとめさせる。

2) コース料理のいくつかを、ぎゅっとワンプレートにまとめさせる。

3) 新婦のお色直しは、時間短縮のため移動しながら着替えさせる。

4) 所要時間20分のビデオレターを用意してきた新郎友人に、その場で削らせて3分以内の動画に編集させる。(ビデオレター上映15分前にこれを頼むという鬼の所業。)

5) ①新郎友人、②新婦友人、③新婦父親からの余興を予定していたが、この3つの余興を一つにまとめさせる。(赤の他人同士の余興を即興でコラボさせるという前代未聞の試みで、これはもはや、新婦の「全部、プログラム通りにやりたい」という希望から乖離しているような気もするが…。)


失われた時間を取り戻すためにあらゆる手が打たれ、それはもう大ドタバタ劇である。
笑えるので、ぜひ映画本編を観てみてほしい。

それにしても、こうなったのも全て、披露宴の序盤でウケるスピーチを披露した2人のオジサンのせいだ。(前編参照)
2人とも、ウケるからって調子に乗り過ぎなのである。


実は、この映画を見ている間、僕はずっと考えていたことがある。

それは、「結婚披露宴は、新郎新婦がウェディングプランナーと一緒になって何ヶ月も前から入念に準備するのに、当日の進行や出来は、他人に大きく左右される」ということ。


2. 一生に一度の晴れ舞台が、他人次第


年を取るにつれ結婚披露宴への参加頻度が増えてきたが、スピーチで長時間話す人の多さに驚くし、悲惨な余興も目にしてしまう。
これらのことは、残念ながら、主役である新郎新婦自身でコントロールし切れない部分がある。
新郎新婦が当事者に対して事前にある程度細かくリクエストしても、それを守らない人や期待外れのパフォーマンスを披露してしまう人は存在するからだ。

結婚披露宴って、主役の2人が事前にあれだけ準備するのに、どうして、本番は博打要素が強いんだろうか。
新郎新婦にとっては一生に一度の晴れ舞台なのに、最高のパーティーにできる保証などまったくないのだ。
お金と時間をかけて、どれだけ会場全体の料理のメニューや花選びに気合を入れても、イベントとしての出来は、舞台に立つ友人・知人・親族のパフォーマンスに大きく左右されてしまう。

そんなわけで、あれこれ考えていたのだが、この問題を解決するためには以下の2つの対策が効果的ではないかという結論に行き着いた。
(根底にあるのは、新郎新婦にとって最高の一日にするため、サプライズ要素は極力減らす、という考え方である。)


対策①
スピーチや余興をお願いした相手が本番でやる内容につき、新郎新婦は事前に全てチェックする。

事前に原稿チェックをすれば、内容が長すぎないか、変な内容がないか等をチェックでき、安心して本番を迎えられる。
どうしても自分の上司や友人のスピーチの内容を当日まで知りたくないのなら、代わりにパートナーか、あるいはウエディングプランナーの人にチェックしてもらえばいい。


対策②
スピーチや余興など、各演目で時間設定をしておき、残り時間が少なくなったらアラートを鳴らす。

M1グランプリの予選と同じシステムである。(M1予選には時間になると警告音が鳴る仕組みあり。)
これをやると「相手に失礼」「空気が悪くなる」と受け取る人もいるかもしれないが、相手に配慮しながらこれをやる方法はあると思うし、何より、進行の方がよっぽど大事である。
本来であれば友人・知人には時間を気にせず気持ちよく前に立ってもらいたいが、しかし、彼らのやりやすさのために主役が我慢することはあってはならない。


ここまでやると、「サプライズ要素がほとんどなく、予定調和の披露宴になってしまうのでは?」と思う人もいるかもしれないが、そんな人には往復ビンタした上でこう答えたい。

進行とサプライズ、どっちが大事なんだと。
どうしても驚きたいなら、あなたは準備に関わらない方がいい、その代わりあとで文句言ってくれるなよと。

それに、新郎新婦をより喜ばせたいと思う友人・知人がいれば、その人が、許される範囲でアドリブやサプライズ的な演出を盛り込んでくれることだろう。


事前の原稿チェックについては、例えば上司に原稿を出させるのは失礼にあたるという考え方もあると思うが、これは「式場からのお願いで、スムーズな進行のため」とすれば、たいていの場合は協力してくれるんじゃなかろうか。
あるいは、式場側からスピーチをする人に対して直接連絡してもらうのが角が立たなくていいかもしれない。
式場スタッフから「新郎新婦の最高の一日のために事前のご協力をお願いします」と言われたら、断れる人はまずいないだろう。いたとしたら、その人は人の皮を被った鬼だ。

欲を言えば、歌手のコンサートのように、あるいは舞台の演劇のように、結婚披露宴も「リハーサル」をするのが理想的だけど、出演者一同を集めてのリハーサルは無理があるだろうから、事前チェックはメールベースでさらっと済ますのが現実的と思われる。

以上が、結婚披露宴について思うところである。


ここからは、余談を少し。

この記事の読者の中には、「青砥自身は結婚式やったの?」と思っている人もいるかもしれないので、一応書いておく。

嫁と僕は、5年前に結婚式を開いた。
結婚披露宴には100人以上招待したのだが、総じて、成功といえるパーティーになった。
乾杯、友人スピーチ、ビデオレター、余興など、全ての演目が盛り上がった。
ただ一点を除いては。

その一点とは、自分の会社の上司、Sさんによる主賓挨拶。
それはもう、「長い&面白くない」という、悲惨なものだった。

Sさんは、会社の中では、後輩社員一同から「話がうまい&冗談通じる」で知られている人だった。だが、結婚式当日、期待は大きく裏切られた。

そのSさんが語る僕にまつわるエピソードは的外れで、ズレた言動ばかりが目立ち、しかもダラダラと長く続いた。

内心、「Sさん、3分以内にまとめるって言ってたのに…。あと、Sさんと自分の間の面白いエピソードあるはずなのに、なんで面白エピソードを話さずに誰も共感できない意味不明な話を長々としてるんだ…オワタ…」と思いながら、僕は張り付いた笑顔でその主賓挨拶を聞いていた。

主賓挨拶は披露宴において、新郎新婦入場後に続く、いわゆる披露宴が始まって初っ端の演目である。
僕らの結婚披露宴は、Sさんのスピーチから始まってしまい、会場自体がイマイチな空気になり、先が思いやられるものだった。

まあ今になって思えば、僕の人選ミスだったと思う。
実は一番スピーチしてほしかった人がそのとき日本におらず、Sさんにお願いしたのは消去法だったという事情もある。

そんな悲惨なSさんによる主賓挨拶だったわけだが、その一つを除くと、他は総じて満足できるものだったので、結婚式自体は良い思い出である。


余談は以上だ。


え?話があっちこっちにいって、要領を得ないって?

しかも、長いって?

そう、今僕がやっているのは、結婚披露宴に出没する、スピーチの時間を守れない、困ったOJISANの模倣なのである。


というわけで、長くなってしまったが、ここらへんで締めたい。

この世に生きる全ての紳士淑女に、シャチあれ。



おわり

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