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障子越しに注ぐ月光に浮き上がる影 (宗安小歌集12)

「閨漏る月がちよぼと射(さ)いたよなう あら憎の月や ちよぼと割いたよの」(宗安小歌集)

日本建築において障子はその象徴のひとつで、
月の明るい夜には障子全体が青白く染まったように見え、とっても情緒のある雰囲気を醸し出す。
古代の人々はそこに映る木の影を妖怪の影と感じたりもしたのだろう。

この障子という和紙で出来た実に味わい深い日本文化の象徴は、この月明かりを部屋に映しこむためには格好のもの。

妖怪ではなく、
障子の先に月影に照らされた男の影が現れるのを待つ女。しずかに障子が開いて、仄かな月の明かりともに夜這ってくる愛しい男を。

その自然の演出が、男と女の恋を見事に燃え上がらせて来たに違いない。

私たちが幼い頃は、障子はどこの家にも当たり前にあって、障子を開ければ寝室があったはず。その薄い紙1枚の先で、濃厚な男女の情交が繰り広げられていた。

勢いあまって、その手や足が障子を破ってしまったかもしれない。
ほとばしる女性の潮が障子紙を濡らしたかもしれない。

漏れ聴こえる女のすすり泣きに耐え切れず、のぞきに来た不埒な男の指で穴をあけられて、その小さな穴越しに月影に浮かぶ男女のもつれ合いが見えたかもしれない。

そして全てが終わって果てた後、障子を少し開けたならば、情事の後の目には明るすぎる月光が部屋の中に差し込んで、あられもない女の裸体を浮かび上がらせたことだろう。

「閨漏る月がちよぼと射(さ)いたよなう あら憎の月や ちよぼと割いたよの」(宗安小歌集)

二人でしっとりと寝る閨に月の光がちょろちょろと差し込んでくる、おやおや憎たらしい月だこと。ちょろっと二人の間に水をさしたのですよ。

激しい情交の後、ぴったりとくっついて裸で寝ている二人に障子越しに月の光が差し込み、女は自分のあられもない姿が浮き出て恥らっただろうか。そばにあった襦袢を体にまとう情景が目に浮かぶ。

月という天然の照明に包まれて、男と女がその魔力にかかり情念だけの塊になるために障子が生み出されたのならば、日本人としてそんな情緒ある情交をいつまでも忘れていたくない。

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