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花と景色と和歌の展覧会

ゴールデンウィーク前に行けるところは行っておかないと、時間がとれそうにないので、仕事の合間に根津美術館の「国宝・燕子花図屏風 デザインのの本美術」を見に行きました。
根津美術館所蔵を生かし、毎年この杜若の時期に公開される屏風はとても有名です。知らない人はいないであろうというグッドデザインで、決定版となり、様々な「子孫」残したものであろうと思います。今回はこの屏風ではなく、他の障壁画「桜芥子図襖」を第一の目当てに行きました。

せっかく行ったのですが、入ったはいいけれど、とても疲れていたのか、何も考えられません。とても文字など読めないのと、説明を理解するのも無理だとも思ったので、音声ガイドも借りず、ただ、ぼーっと絵を見るだけとなりました。
今回、花の季節到来で花や山水、和歌の世界といったぱっと見て清々しいような美しい画面ばかりだったので、それでも心がなぐさめられました。

風景やさまざまな身の回りの景色や様子を心情にのせて、絵になる風景にした和歌。絵になる風景をえがいた和歌の世界を絵に描く。ということで、文字で書かれた和歌も、花や人物、情景を描いた絵も和歌。そんな和歌に囲まれたような展示でした。

そんな和歌の世界を代表する人麻呂さんも冒頭に登場。いつも通り「どうするっかなー」という顔でうーんと空中に視線を漂わせている人でした。大抵こんな感じですよね。人麻呂さんコーナーでは同じく、和歌といえばの業平、業平といえば伊勢というコーナー、続いて巨大な屏風、桜が代表する春と紅葉が代表する秋が、屏風を渡るとぱっと切り替わるという鮮やかで、たっぷりと画面いっぱいに花と紅葉が溢れ出す画面に翻る短冊で春と秋の和歌の世界に抱きしめられるような屏風「吉野 龍田図屏風」で迎えられました。この屏風、桜はほとんどこちらもを向いていて、エンボス加工みたいに見える立体感で、花のたっぷりとした柔らかくいけどもいけども桜、顔の周りにも桜がたくさんあるようなそんな気分になる屏風。そして右隻から左隻に移るとぱっと景色が変わって、いつ見ても豊かな気分になります。

というたっぷりしたものもいいのですが、次のコーナーが花のコーナー。
現実のこの世は、桜が咲いたと思ったら、山吹も、躑躅もなにもかもいっぺんに咲いた今年の4月ですが、このコーナーも花がたくさん。燕子花図を囲んで様々な花。そんな中に目当ての「桜芥子図襖」がありました。
これもぼーっと見るだけ。こんな襖がある部屋で寝たら、気分がいいだろうなあなんて思うぐらいが関の山で、ほんとうにただ見るだけでした。上には桜、したには紅色の芥子の花。

金色の空間に美しく花や木を配するのも、すごいアイディアだなと思うし、好きなのですが、そうではない「木蓮棕櫚芭蕉図屏風」のようなモノクロに近いものもいいです。こんないいものを作れる人であるというのはどんな気分なのだろうといつも見て思います。

次のコーナーは工芸品。工芸品の中の絵、絵の中の工芸品。絵の中の工芸品は「たが袖」このアイディも、なるほどのアイディア。なにせ、現実的な情景の中に、唐突にいろんな模様、図形を書き込むことができるアイディア。たが袖は得の中の空間にある程度自由に模様を描きこめるところと、「たが」部分の「誰か」の気配。そんな不在の人の気配を描く方法として、いいアイディアだなあと思います。

でも、私は疲れているので、本当に何も考えず、ぼーっと、その他の工芸品も、「おーまたこの硯箱か」「おしゃれかどうかわかるのは和歌を知っているかどうかに大きくかかってくるのではないか」と思う落馬シーンの「遍昭蒔絵硯箱」。「これはすごいな、繊細で好きな人やわかっている人は嬉しいだろうな」と思う雛道具、それのお茶関連道具。などなんとなーくぼーっと思うのみ。模様だとかぶりぶりだとか「ぶりぶりって、あれ遊ぶの難しくないだろうか」と毎回絵の中にみるたびに思うことなど、それぞれそのばで思うのみ。鑑賞できてない・・・。

疲れたなあ、こんな風でみられないなら、帰っちゃおうかなあと思いつつも、もうひと頑張りで、2階に行ってみると、意外と心を慰められたものがありました。

2階はなんとアンデス染織。暖かい、意外と馴染みがあるような色あわせで描かれた見知らぬ神々や動物と昆虫。口を大きく開け、舌を出し、元気いっぱい。元気いっぱいでありながらも、親しみやすい顔で楽しい図が刺繍されていたり織り出されていました。みていると楽しい気分になってくる。まったく知らない世界なので、かえって面白く見ました。いい模様だなあと思うもの、いい色合わせだなと思うものばかりです。とても遠い世界のものなのに、この馴染みの良さはなんだろうと思うのですが、よくわかりません。色の合わせ方と生き物をある程度図形のようにデザインしなおしているからでしょうか。その図も織り方、刺繍の仕方もしっかりしたもので、素晴らしい作品でした。

ちょっと元気が出たので、さっと茶室展示の部屋も。初風呂の展示。もうそういう季節なんだなあと思います。いつもこの部屋は毎回微妙に他の部屋の展示とリンクしているように感じます。季節と関連した展示をしているからというのもあるでしょうが。
爽やかな土風炉に合う道具合わせの部屋を見て、もう疲れが限界だったので帰宅しました。やっぱり元気な時に見なければ。とは思うものの、疲れた時、くたくたで何も考えたくない時に、美しいものをただ見て心を慰めるのも美術なのでは、とも思います。

写真のお菓子は和歌と花の展示をみたので、「多胡の浦」。燕子花ではなく、藤ですが。暖かな日差しの下の藤を表したお菓子。多胡の浦はかつて藤で有名だった歌枕。

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