レモンのいれもん🍋
「なあ、レモンの中って何が入ってると思う?」
彼がレモンを人差し指でつつきながら言うと彼女は顔をしかめて、
「レモンじゃないの?」
と答えた。彼は、つまんねえやつだな、と呟いたきり、すっかり興味を失ったようにテレビに目を向けた。一方彼女はレモンの中身を考えていた。彼につまらないやつだと言われたのが気に障った。レモンの中身、それはなんだろうか。果実、種、もっとほかの何か。彼女はふと、自分の中には何が入っているのだろうかと考えた。血液、心臓、筋肉、もっとほかの何か。彼女は、そうはいってもしかし、自分の中にあるのはどう考えても自分自身だと思った。
「やっぱりレモンの中身はどうやってもレモンだよ」
「まだその話してんのか」
「振ったのはあなたでしょ」
彼は視線をまたレモンに向けた。彼女もレモンを見た。
「俺の中身は、なんだ」
「あなたじゃないの?」
「お前は」
「私。それ以外に何があるの」
「今のお前は昔のお前とはだいぶ変わった。それでも中身はお前のままなのか」
彼女は視線を彼に向けた。彼も彼女を見た。
「つまらなくなった?嫌な女になった?それでも私は私のままよ。つまらなくなっても嫌な女になっても私はずっと私のまま」
レモンは腐っていた。カビがうっすらと生えていた。それでもその果実の名前はレモンであった。
「レモンを腐らせたのは誰?」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?