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SEKAI NO OWARI『タイムマシン』に表現される、バンドの「メンヘラ」から優しさ溢れる存在への変化

SEKAI NO OWARI(セカオワ)が3月、7thオリジナルアルバム『Nautilus』を発売した。

セカオワは映画『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』の主題歌である『タイムマシン』について、作品の世界観に沿いながら、結成当時からの自分たちらしさを存分に織り込んだ。2012年リリースの楽曲『眠り姫』の歌詞と読み比べてみるとそれぞれが対になっていると感じられる(後述)。『眠り姫』作詞・作曲は深瀬慧さん(現在のFukaseさん)、『タイムマシン』作詞はFukaseさん&作曲はSaoriさんが担当。

セカオワは2010年『幻の命』(深瀬慧・作詞、藤崎彩織・作曲)、同年『天使と悪魔/ファンタジー』(Fukase作詞&作曲)という曲を歌って「メンヘラ」と揶揄された頃を少し抜け出す。2011年『スターライトパレード』では、棘が良い意味で取れて柔らかさがブレンドされた。

『眠り姫』は『スターライトパレード』から半年後の2012年にリリース。Fukaseさんは歌詞の冒頭で「♪君と僕とで世界を冒険してきたけど」「♪僕らはどんなときでも手を繋いできたけど/いつかは いつの日かは」とつづり、楽曲の主人公といえる人にとって大事な存在がいた「♪~けど」ともう近くにはいない寂しさを表現。

直後の歌詞でサビ「♪ある朝 僕が目を覚ますと この世界には君はいないんだね」と、「君」が既にいない事実を明かし、「君」に対する強い感情を表出する。次のサビ「♪ボーっと火を吹くドラゴンも僕ら二人で戦ったね」で主人公は「君」とドラゴンが出現するような世界で冒険してきたことが分かるのだが、これはセカオワ独自のファンタジーな世界観あっての言葉選びだろう。頭の中でドラゴンを想像してみてほしい。

このように『眠り姫』は主人公にとって既に眠っている姫=「君」を失ったことへの悔しさが穏やかに映し出されている。しかし歌詞の中で矛盾があり、その後Fukaseさんは「♪Ah このまま君が起きなかったらどうしよう/そんなこと思いながら君の寝顔を見ていたんだ」と歌う。君は今寝ていて生きているのか死んでいるのかは分からないため、聴く人の想像に任せているのだ。

2024年発売の『タイムマシン』の登場人物は「僕」と「君」だ。ここでは「僕」が「君」に出逢い、「♪3年前のあの日」から君に会っていない。『眠り姫』と違って相手は物理的に眠っておらず、命を落としたわけではない。

『タイムマシン』では相手は死んでいないが、『眠り姫』以上に君を失った後に僕がどういう気持ちになったのかを具体的すぎるほど描写される。以下4つのフレーズ群が特にそれに該当するだろう。

1. 「♪タイムマシンに乗って/チクタクチクタク/君といた記憶を消し去るために/こんなに苦しいなら/君に出逢う前に/全てなかった事に」
2. 「♪僕は自分が一番好きだった」「♪自分より大切な君を失い/僕の世界から一番が無くなった」
3. 「♪そしてそれはまるで眠気のように/僕を蝕んでいく」
4. 「♪こんなに苦しいけど/君に出逢わなければ/僕が僕じゃなくなる」

なかった事にしたいくらい君といた記憶を消し去りたい、「♪けど」2番歌詞では「♪君に出逢わなければ/僕が僕じゃなくなる」と自分の中の意識にまで君が入り込んでいる。

『眠り姫』『タイムマシン』の2曲の共通点は君を失った僕の心情が表現されていることで、君を失った後の感情の描かれ方が少しだけ異なる。

「僕」、そしてこの楽曲を聴く人も聴かない人も、タイムマシンに乗って会いに行きたいくらい、どんな人にも会いたいが今は離れてしまった存在(=「君」)があるだろう。歌詞をたどりながらその人を思い出し、2番歌詞では聴く人の想いも溢れてしまう。

想いが溢れたまま2番歌詞に突入するとき、歌うのが苦しくなることがある。セカオワ『タイムマシン』はそんな気弱な人(筆者も含めて)を温かく迎え入れ、1番歌詞サビと同じ音型で進んでいく。2番歌詞サビが難解な裏拍だったり、入りが難しいと歌うのをやめてしまうかもしれないが、セカオワはそんなことはしない。

楽曲を聴いたり歌ったりすることで、あなたは自分にとって大事な存在を思い返し、脳裏にこびりついている「君」との記憶を映像化するだろう。『眠り姫』と『タイムマシン』それぞれの歌詞を並べて見比べると共通点や相違点が見つかるだろうし、どちらも聴く人の心の痛みに寄りそっている。

あなたが大事な存在「君」を失った後にその人とどう向き合っていくのか。2曲とも聴き手に「君」との記憶をよみがえせることを優しく許す。聴いて歌ったりしながら涙を流してもいいし、途中で曲を止めてもいい。

その存在が今あなたの近くにいてもいなくても、もう会えなくても、その人といた時間があなたの人生をより豊かにすることだけは間違いない、とこの曲は教えてくれるのだ。

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