夢を叶える日

先日、大福をたらふく食べるのが夢であるという記事を書いた。
不思議なもので、ずっと頭の片隅にあった夢だが文章にして世に出すと、今こそ叶えるとかではないかと勇気が湧いてきた。甘いものをたらふく食べたいという邪な夢ではあるが、誰に迷惑をかけるわけでもない。自身の健康だって、まだそこそこに若いのでなんとかなるだろう。
夢を言葉にすることで、いよいよその時が来るのだ。


昨日は休みの日で、昼食は一人でとる。絶好の機会だ。休みの前日から、やってやるぞと心に祈念し下調べをした。折角たらふく食べるのだから、スーパーやコンビニの大福というのも味気ない。近隣の大福情報を調べると、車で15分ほどのところに大福を売っている和菓子屋があるとのことだった。

当日は気持ちのいい秋晴れで、夢を叶えるには絶好の日和だった。高揚感を抱きながら車を走らせ、和菓子屋に着く。のぼり旗には「草もち」の文字がおどっていた。

お店はいかにも昔からある商店街の和菓子屋といった佇まいで、入るのになかなか勇気が必要だった。しかし夢のためにここで折れてはいかんと意を決して中に入る。中では店主と常連と思われる女性が親しげに話していたが、私が入ってくるとぴたっと話すのをやめ、まじまじと見られる。平日の午前中に見知らぬ客が来るのも珍しいのだろう。若干の居心地の悪さを感じながらも目当ての草もち一パック(5個入り)と、この店の名物だというクリーム大福を購入する。

買い物も済ませ、いよいよ準備も大詰めである。家に帰ると湯を沸かし、緑茶を2杯分淹れた。大福とお茶が並ぶ食卓につき、なんとも感慨深い気持ちになる。その気になれば一時間で準備が済む夢ではあるが、そこに至るまでは経済的な自立やものの分別が必要だ。私は大人になったのだ、道を自分で決められる。のび太とジャイアンは子ども故のやんちゃ心で大食い対決をしたが、私は大人になったからこそ大福を食べるのだ。


大福を口に運ぶ。おいしい。あんこはおそらく手作りで、甘いがそれなりにさっぱりしている。2個、3個と快調に食べるが、4個目になるとずいぶん気持ち的に、うーんとなる。5個目となるとだいぶ苦しく、満腹だとかいうことではなく、とにかく甘くて辛いのだ。大好きなものをたらふく食べるということは、大好きなものでお腹が苦しくなったり、味が嫌になったりすることと出会うということでもある。私は出会ったのだ。大福の限界点に。

私の限界点は5個というずいぶん浅いところにあったが、普段の生活では5個も大福を食べることなどないだろうから、これは一生物の発見だったかもしれない。数にしてみれば5個。時間にしてみれば10数分。なんとも小さい結果だが、私の中では大きな経験になった。

限られた人生、これからもささやかな夢はどんどん叶えていきたい。知らなかったことに出会うことはかくも楽しく、満たされるのだから。

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大福を食べた後、しょっぱいものが食べたくて、麻婆豆腐を食べた。これがなによりおいしかった。偏った食事は良くないねと反省した。


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