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【不登校漫画原作】Phase C #不安の正体

SIDE: 実香子

私は子供が学校に行かず、勉強もしないというだけで、何故これ程不安を感じていたのか。

不安の正体は、無知だ。
わからないから怖いのだ。

私は自分自身が歩んで来た道しか知らない。
私は学校に行き、勉強をし、学歴を持ち、仕事についた。
誰にとっても分かりやすい道を通ってきたし、自分なりの努力をしてきたと思う。

「学校に行かなくても、なんとかなる。」
「勉強は後からどうにでもなる。」
と、本や経験者からいくら言われても、自分は経験していないから、一体どんな風に「なんとかなる」のかがわからない。
毎日学校へ行って、日々勉強をしている同級生達と、どんどん距離が開く一方なのではないかという焦燥感は無くならない。

大学はともかく、高校は行った方が良いのではないか?
しかしそれどころか、今我が子は中学に行かない。
せめて義務教育くらいは終えていた方が良いのでは無いか?
こういう気持ちを私はどうしても手放せなかった。

私にようやく気持ちをぶちまけた凛花は、相変わらず引きこもって過ごしている。
辛い気持ちを抱えた凛花は、今はとにかく休むべきなのだ。

私からすれば、凛花はずっと休んでいるように見えていたけれども、それは誤魔化し続けていただけだったのだ。
凛花が本当の意味で心穏やかに過ごせなければ、休むことにはならない。

私が、凛花に学校に行って欲しいという気持ちを持ち続ける限りは、凛花は私から無言のプレッシャーを受け続ける。
私が凛花が学校に行く事をいったん完全に手放さなければ、凛花は学校に行がなければならないという思いから逃れることはきっとできない。

中学の教員でもある友人が言った。

「教員の私がこんな事言うのも何なんだけど、中学の勉強は、絶対に取り戻せるから。今じゃなくても、大丈夫だから。」

今、凛花は一切勉強をする気は無いようだけれど、もし、学校の勉強が必要だと思った時、やはり学校に行こうと思った時にどんなふうにすれば良いのだろうか。
だいぶ長い事学校に行って居ない。
中学自体は、全く行かなくても、卒業できる。
というより、卒業した事になってしまう。

今の状況からすると、少なくとも、私が普通だと思っていたような、全日制の高校に行く事は不可能だろう。
どんな手段があるのだろうか。
全日制、定時制、通信制はどう違うのだろう。
いつ申し込んで、いつ入学できるの?
試験はどんな感じなのだろう。
私はもっと具体的に学ぼうと思った。

子供が定時制高校に通う友人に話を聞いた。
「殆ど校則らしい校則も無い。
とても自由だし、すごくいろんなタイプの子が居る。
アルバイトをしている子も多いし、社会勉強にもなる。
そして、先生たちはとても優しくて、子供の事に関して熱心だよ。」

全日制の高校に入学したものの不登校になり、中退して、通信制の学校に行き始めた知人の話を聞いた。
「しばらく何も言わないでいたら、自分で探してきて、通信制の高校に行く事になった。ずっと何もせず、家でゲームをして過ごしていたけど、最近アルバイトも始めた。」

通信制高校のパンフレットを取り寄せてみた。
不登校の子の受け入れの間口は広い。
全日制からの転校も多い。
入学に際しては、学科試験が課されない事も多いようだ。
入学の時期はかなり柔軟に対応されている。

高卒認定試験についても調べてみた。
科目数と、試験の時期。
どんな内容を、どんなふうに受けるのか。
高卒認定試験を実際に受けてみた人の話も聞いた。

大学受験となると、高卒認定試験のレベルからは乖離があり、受験する大学にもよるけれど、そこから更に勉強が必要となる。
でも、本人がやろうと思えば塾でも、オンライン学習でも、手段は色々とある。

自分自身は、学校に行かないという選択肢を持たなかったから、学校に行っていただけだとも言える。
今は不登校である事自体はそれほど特別な事ではない。
私の育て方が悪いなどと、責められた事もない。

今は、学校の勉強は学校でなくてもできる。
本屋には、昔とは比べ物にならないほど多種多様な参考書や問題集が山のように売られている。

無料で視聴できる範囲のYouTubeにも、とても上手い教え方の人達が色んな動画をアップしてくれているから、殆どお金をかけずに動画を使って勉強しようと思えばできる。

もう少し効率良くやりたいなら、オンラインのサイトに登録すれば、非常にクオリティの高い授業を見放題で学ぶこともできる。

英語の学習も、お金をかけずにやろうと思えば、驚く程沢山の選択肢がある。
ネイティブの英語を聴く手段は私が子供の頃の比では無いし、しかも常にスマホが手元にあるのだ。
SNSで学ぶ事だってできる。

お金がかけられるのであれば、もちろん、塾や家庭教師だってある。

学校の勉強なんて、本人が必要性を感じてやりたいと思わなければ、無理にさせることは出来ないし、そんな学び方をしても勉強が嫌いになるだけだ。

私は自分自身が親から勉強しなさいと言われて育ってこなかった。
だから、凛花に勉強を無理強いしようと思ったことは無いけれど、勉強はできないよりは出来た方が人生は楽だと思っていたので、勉強はした方が良いとは思っていた。

私はたくさんの人に、大丈夫の言葉を貰った。
そして、自分が知らない世界を少しだけ学んだ。
まずは、「学校に行く」ことを私が完全に手放そう。

なんとかなる。
きっとなんとかなる。
学ぶほどに、気持ちは落ち着いてくる。

私が凛花に無言のプレッシャーを与えないようになるだけで、凛花の悩みは少し軽くなるはずだ。
私が悩むよりずっと、本人が誰よりも自分の未来を不安に思っているに違いないのだから。

まずは凛花に、心穏やかに過ごしてもらいたい。
学校の事なんか考えなくていい。
学校の事を考えたくないから、明日が来てほしく無いと思うほど苦痛の時間を過ごさせたくない。
辛いと思いながら毎日を過ごさなくていいようになって貰いたい。
自分が本当に楽しいと思える事をまずは見つけて貰いたい。

そのためには、私がまず、次のステージに進まなければならない。
親が、子供にできることは、子供の事で悩んでいるという姿を見せる事では決してないはずだ。
私が心穏やかに過ごす事こそが、凛花の為にもなるのだ。

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