ミスターバイセコー

いつも使っている自転車がどうやらパンクしたようなので自転車屋に持って行った。

いわゆる「昔からある町の自転車屋」である。

入ってみるとみせの奥から、70代くらいの夫婦が見えた。
声をかけると、奥さんは「はーい」と愛想の良い声を出したが
出てきたのは茶色い中型犬と野球帽をかぶった小柄なおじいさん。
あぁ、予想に違わない「昔からある町の自転車屋さん」だなぁ。

トコトコとでてきた中型犬は看板犬なのだろうと思ったので
「あ、わんちゃんいるんだぁ(^^)」と
一見ながら良い客であることをアピールするため、犬好きを装って犬に近づくと
おじいさんから「触ったらいかん💢食い付かれるぞ💢」と厳しい声。

…え…看板犬でないばかりか、客に食いつくとは⁈噛む、という表現より恐ろしい感じの「食い付く」。
なんのためにこんな危険な犬を店内に放し飼いにするのか。。ちっ!
ってか、この犬も別に無駄に客に噛み付くくらいなら奥にいればよいではないか((((;゚Д゚)))))))

犬とおじいさんに対して一定の心と体の距離をとりながらしばし待機。

勧められた椅子に座り店内を眺めていると、何枚もの賞状が飾ってあるのに気がつく。
なにやらこのじいさんは、それなりに
優秀な自転車整備士のようだ。

しばらくするとおじいさんに「ちょっと奥さん来て」と呼ばれる。

犬を警戒してやや遠くから近づいて見ていると
おじいさんから「もっとこっち💢」と呼ばれる。

…この人喰い犬(←なぜか危険度アップ)、大丈夫なのかと警戒しつつ自転車に近づく。

たしかに、自転車の故障としては単なるパンクなのだが、なぜパンクになったかというと、空気を頻繁に入れてないから。
空気を入れないで乗ると中のゴムが劣化してパンクしやすくなる。
最近は通販でポイントが付くからと買って、自転車屋から購入時に注意事項も聞かないで買って、あげく説明書も読まないで間違った乗り方をして、修理に余計にお金がかかるひとが多い。実は通販より、うちが安かったこともあるんだ。
通販で買うと大変なことになりますよ、と。
このじいさん、「大変なことになりますよ」
のときには、まるでなにかを予言するかのような顔をしている。

ポイントがつくからと楽天でこの自転車を買って、あげく説明書も読まず今まで空気も定期的に入れず、ついに自転車をパンクさせてしまったのはこの私です。申し訳ありませんでしたっ!と全てこのじいさんに見透かされていた私は土下座したくなりました。
もうじいさんと呼ぶのは止めよう。
この人は、自転車にまつわることならなんでもわかってしまう「ミスターバイセコー」だ。大阪のミスターバイセコー。そうすると、先ほどから店内の床にべったりと寝そべっているこの小汚い茶色い犬も、ミスターバイセコーに寄り添う崇高で利口な忠犬に見えてくる。

ミスターバイセコーは、やはり自転車は長く修理してもらえ、きちんとメンテナンスしてもらえる近くの自転車屋で買うべきとの持論を展開した。
ミスターバイセコーよ、なるほど、わたしもそう思うよ、との意味を込め
「そうですね、次からはこちらのお店で買おうかな」とミスターバイセコーに迎合すると
ミスターバイセコーは「そういう意味でいっとるんじゃない💢」とまたもや怒りモードに。

ノリのいい関西人なら
ここで、にっこり笑って「ほんまやで〜」「おおきに!」「奥さん今日もキレイでんなぁ」(←今日はじめて会った)くらいいいそうなものだが。

とにかく最初から最後まで怒られながら、パンク修理は完了した。
ミスターバイセコーに求められた千円を支払い
真夏の街の中に再び走り出す私であった。

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