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世界陸上と大リーグとマーシュ兄妹。

 元NFL選手で現在は走高跳のコーチをしているランドール・カニンガム氏に以前こう言われた。

「いろんなスポーツを取材するのはいいことだ。深みが出るからね」
 
 大リーグ取材を初めて、陸上との違い、それぞれの取材の良い部分、そうでもない部分などが見えてきて、とても興味深い。
 
 違いだらけなのだけど、まず大リーグはハグの文化ではないのにびっくりした。

 米国の陸上はハグに始まり、ハグに終わる。

 まったく知らない相手、さほど近くない相手とはしないけれど、長くつきあいのある選手とはハグなしは考えられない。
 陸上は個人競技なので「仲良し」とか「親愛」の意味をハグにこめるのかなと思う。
 大リーグ取材を深くするようになって、なんだか冷たい世界だなと感じたのだけど、それをホワイトソックスのティム・アンダーソンに話したら、ティムも「そうそう。それは俺も思う。野球ってなんか冷たく感じるよね」とこぼしていた。ティムはアフリカ系アメリカ人なのでハグの文化の出身者である(笑)初対面なのに、変なところで意気投合してしまった。
 
 競技性の違いに目を向けると、大リーグの監督たちはシーズンをマラソンに例えることが多い。長いシーズンをどう戦うか、良い時もあれば悪い時もある。プレーオフに向けてどうマネジメントするか、が鍵だ。1試合で大量得点して勝つことよりも、コツコツと得点して勝っていく方が重要だ。打率も10割を目指す人など当然いなく、3割、つまり3打席1安打を目指す。
 
 陸上は、特に世界陸上などの大舞台では100mもマラソンも10種競技もすべてが「100m」、つまり短期決戦でミスが許されない。10割は無理でも8割以上でないと戦えないし、最低でも8割以上のパフォーマンスを出すためにシーズンをかけて準備してきている。

 余談になるが元エンゼルスで現フィリーズのマーシュ選手の妹のエリンさんが、米国で7種競技をしているのだけど(全米選手権で5位で代表にはなれなかった)、「うちの兄は陸上がイマイチわかってないから、励まし方がずれている」と笑っていた。

 陸上の中でも混成競技はメンタルの切り替えが鍵を握る種目だ。一つずつの結果に一喜一憂せず、一つが終わったら次の種目に切り替えなければならない。また肉体的に厳しい競技でもあるため、シーズン中に何試合も出場する選手は多くはない。トップレベルだと多くて3ー4試合なのではないかと思う。

「試合で結果が出ない時、うちの兄は『次があるよ。次頑張って』っていうけど、いや、次の試合、すぐないんだよねって思う」と笑う。

「お兄ちゃんはすごくサポートしてくれるし、応援してくれるけれど、なんかずれてるの。野球と陸上は特性が違うから、その辺を分かってないみたい。野球は三振しても次の打席があって、そこで安打を打てばいいかもしれないけど、私たちは次のチャンスがないからね」

 マーシュ選手はすごく良い人なので、妹さんを励まそうとしている姿が目に浮かぶけれど、ずれている励ましをしていると思うとなんだか微笑ましい。そして応援している本人がずれていることに(恐らく)気づいていないことも面白い。
 
 まだまだ違いはあるのだけど、それはまた今度。

 マーシュ選手を見る機会があったら(来週エンゼルスがフィリーズに行くので恐らくテレビで顔を見かけるはず)「あ、例のマーシュ選手ね」と思ってもらえたらうれしいかなと思う。
 

 

  


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