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オールモスト・ブルー

部屋は住人の心を映し出すーー
たとえ、その本人が埋葬された後も。
繊細な工芸品のようだった君の心、
僕は近頃、君の部屋で詩を書いている。
すべての時計は止まっていて、
窓は深夜の「伊勢丹」のように閉じられている。
この部屋は君の自画像そのもの、
そしてそのタッチはーー
ほとんどブルー。

僕は君のクローゼットで迷子になる。
そこにはあらゆる季節が閉じ込められていた。
帽子についた夏と、ポケットにしわくちゃの冬、
それから理由のない悪態の数々。
僕ら、家族が愛した君の匂いが、
ジャクソン・ポロックの絵の具のように、
(芸術的に)飛び散っている。
僕はその染みを取ろうと、
君のシャツを、洗濯機でグルグル回す、
その襟の色はーー
ほとんどブルー。

クソッ!
午前0時30分、僕は酔ってる。
君のキッチンで何かが動いている。
幽霊役のレックス・ハリソンに気づかない
ジーン・ティアニーの気分ーー
映画と同じ悲しみが、日常の中でリメイクされ、
じきに、鎮痛剤が必要になる、
眠ることもできず、僕はうずくまり、
映画の終わりを待っている、
そのフィルムはーー
ほとんどブルー、
その上、こんがらがってる。

君の部屋に住みついたタランチュラが、
隅々にまで糸を張り巡らしている。
そいつは、君のスプーンでデザートを食べ、
君の本からアイデアを盗む。
君の椅子に座り、物を書き、
君の帽子を被り、買い物へ出掛ける。
そして奇妙な蜘蛛語で、
君にこう語り掛けるんだ、
「よくもあんな仕打ちができたな、
よくもあんな仕打ちをしてくれたな」ーー

って。
どんな些細なことにも勇気がいるよ、
クソをするにも、
料理するにも、
君のCDの山から、
ハウリン・ウルフを引っ張り出すのにも。
割れた卵を片付ける、
画用紙を買う、
タバコをやめる、
ジーンズを洗濯する、
ウォルト・ホイットマンを読む、
街を歩くーー何から何までがひと苦労で、
歳を重ねるには決心が必要なのだ、
誰かを哀れんだり、
誰かに哀れられたり、
誰かの期待に答えたり、
誰かを失望させたり。
それでも僕は朗読を続ける、
君の「伊勢丹」の窓を開け放って、
(蜘蛛語で書かれた)ペーソス溢れる詩を、
君のいる空に向かって。
その空の色はーー
(もうわかるよね、)
ほとんどブルー。

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