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《語彙の三語三文》:手書き帖 3.11〜3.24


三月十一日(月)

【爛れる・ただれる】
⑴あなたの内臓が爛れるまえに、ワクチンを接種してください。
⑵爛れる声から呼ばれた。
⑶爛れよ! もっと焼けるように魂を爛れさせよ!

【聳やかす・そびやかす】
⑴肩を聳やかしてあるく。
⑵もっと己のプライドを高く、空に聳かせ。
⑶敵陣は丘に要塞をつくった。巨大な鋼鉄の城は我々の眼前に聳やかされた。我々は戦慄にのまれた。

【厭う・いとう】
⑴我、君を厭う。狂おしいほどに。
⑵厭えども厭えども君が好きだ。
⑶厭はれてこそ、愛。



三月十二日(火)

【熨す・のす】
⑴のっぺりと一年経たり厄災は変異しながら人を熨すらし
(短歌・松平盟子)
⑵「そこの火熨(ひのと)取って」
「なにそれ? 」
「アイロンのこと」
「これね」
⑶「せんせい、のしのしと歩くののしの語源は『熨し』ですか? 」
「ちがいます」

【腕・かいな】
⑴「あの関取はよく腕をかえすね」
「相手が脇が甘いのがよく見えるんだろ」
⑵君の鉄腕は正義の腕だ。
⑶「あなたのこの腕はすてきね」
「おれの二の腕かい? 」

【組み伏す・くみふす】
⑴山賊は町女を組み伏せた。
⑵僕は兄貴をボードゲームで組み伏せた。
⑶「ふたりとも手を繋いで仲直りをしなさい。やれ屈服だの、組み伏せるだの、他にやり方を考えなさい」
「どうすれば? 」
「非暴力不服従とか、沈黙とか。じぶんで考えるの」


三月十三日(水)

【俵万智】
⑴よく見るとその名俵万智、考え抜かれた名前
⑵「では、次の出演者は俵万智さんです」
⑶俵万智なる歌人は未だ未知なる歌人だ

【慰め・なぐさめ】
⑴「私を慰めるのはあなたの手か、その口か?」
⑵慰めに念じ慰めに含まれたずるさ。慰めが滲む虚栄心(ごころ)。
⑶もっと慰めて。もっと私を慰め沼にずぶずぶにして。

【曖昧・あいまい】
⑴曖昧な感情はなんだ? 愛か、孤独か。
⑵「曖昧モコのモコの漢字を教えてください」
「やだ」
⑶「曖昧とカウアイ島との距離は? 」
「二万六千キロメートルだね」
「曖昧だなー」



三月十四日(木)

【縁・よすが】
⑴知人のよすがで上京した。
⑵その件ははるか昔だ。真実を知るよすがはない。
⑶身を寄せるよすがはぼくにはないんだ。

【悠長・ゆうちょう】
⑴いらいらするほどの悠長さだ。
⑵悠長の歳月を極めた色彩だ
⑶やっと手に入れた悠長のとき

【声望・せいぼう】
⑴声望の高い人だ。
⑵声望を極めた。
⑶私が求める声望は無限大だ。



三月十五日(金)

【固辞・こじ】
⑴役員を固辞する。
⑵停戦協定を固辞する。
⑶その君が固辞する態度はもはや意固地だ。

【仇敵・きゅうてき】
⑴仇敵と目す連中のなかにスパイを放った。
⑵仇敵は明日の友。
⑶仇敵に塩をくれてやった。

【威嚇・いかく】
⑴痛烈に批判をして威嚇をする。
⑵政府軍を威嚇するために宮殿を爆破した。
⑶それは極めて正当な威嚇射撃だ。



三月十六日(土)

【懸河・けんが】
⑴滔々(とうとう)たる懸河の弁。
⑵「懸河の勢い」と「破竹の勢い」はどっちが勢いが強いのですか?
⑶はい。最終問題です。早押しです。瀧廉太郎の歌は次の三つのうちドレ?
❶〽︎信濃の川は懸河の流れ…
❷黒部のダムは天下の堰…
❸箱根の山は天下の険…

【誘掖・ゆうえき】
⑴おれをキャバクラに誘掖するな!
⑵後進を誘掖する先輩
⑶誘掖の正しい使い方は指導する意味があります。

【事変・じへん】
⑴桜田門外の変は通称「桜田事変」といわれています。え? 逆?
⑵「支那事変ってなんなの?」
「大東亜戦争。のことだろ」
「日本側が勝手に名付けたんだね」
「そうそう。日本の勝手な都合だよ。終戦記念日とかね」
「韓国じゃあ戦勝記念日だもんね」
「サラダ記念日とかな」
⑶満州事変の頃、私はあの場所にいた。



三月十七日

【汀・みぎわ】
⑴重油が浮かぶ波が汀によせる。
⑵「汀が寄せる」の日本語は間違いです。
⑶波は寄せる。汀は波の際なので、波打ち際、つまりえと、汀線なら日本語として使えます。

【遍く・あまねく】
⑴あまねく風が僕の頭を掻き乱す
⑵彼の評判は世間にあまねく知れ渡った。
⑶このくじを引いた人はあまねく当たります。

【諫言・かんげん】
⑴おれに諫言するというのか! キサマここで腹を切れ!
⑵誠意を持って主君に諫言したが、黙殺された。
⑶われ、この諫言をもって、切腹をするなり!



三月十八日(月)

【懇ろ・ねんごろ】
⑴君とねんごろになりたい。
⑵ねんごろなもてなし。
⑶狸をねんごろに葬ってやった。

【匕首・合口・あいくち】
⑴彼とは匕首がいいい。
⑵私と姉は匕首の間柄だ。
⑶懐に匕首を忍ばせる。

【小癪・こしゃく】
⑴「あいつは小癪なやつだぜ」
「お前がよくいうよ」
⑵「小癪な言い草するな」
⑶後ろの席の奴は見えないが俺がキーボードを打つとバツバチやりやがる。小癪に障る奴だ。



三月十九日(火)

【捏ちる・でっちる】
⑴休日にでっちておいた俳句
⑵きみ、そんな禍々しいものをいつでっちたんだ?
⑶きさま、ウソをでっちあげたな!

【鉄砧・てっちん】
⑴「おーい」
「はい」
「そこの鉄砧をとってくれ」
「なんのことです? 」
「鉄敷だよ」
「カナジキ? 」
「鉄床(かなどこ)だ」
「りょうかいです」
⑵「この鉄砧、売ると幾らになるかな? 」
「バカ言え、金を取られるぜ」
「中国なら高く売れるよ。内陸じゃや鉄道のレールが不足してる」
⑶「いま、てっちんなんて言っても通じませんね」
「町工場じゃあ普通に言ってるよ」

【鉄槌・てっつい】
⑴怒りの鉄槌をくだす。
⑵愛の鉄槌を投げる。
⑶今晩、鉄槌で一杯やりますか?



三月二十日(水)

【欲どしい・よくどしい・よくどおしい】
⑴お前はほんとうに欲どしいやつだな。
⑵おれはなんて欲どおしいんだ! あさましさで死にたくなる。
⑶人間の人生なんて欲どおしさの沼のなかの戦いだ。

【腐す・くさす】
⑴野心が腐す。
⑵君の悪い誘いで志が腐された。
⑶上司の評判を陰で腐す。

【禍々しい・まがまがしい】
⑴去年のいくつかの地震はじつにまがまがしい揺れだった。
⑵このラーメンは実にまがまがしい、特に味が。
⑶まがまがしいあのウソ。



三月二十一日(木)

【強硬な・きょうこうな】
⑴強硬な申し入れ。
⑵強硬な姿勢。
⑶発言が強硬すぎる。

【執拗・しつよう】
⑴執拗に繰り返す。
⑵君の嘆願は執拗だ。
⑶執拗につきまとう。

【閂・かんぬき】
⑴閂止めをぬっている。
⑵その侍はなぜかその日だけは刀を閂差しにして歩いていた。
⑶かんぬきは壊れていた。


三月二十二日(金)

【谺・こだま】
⑴谺という字はパソコンでよく打ちますが実際には今初めて手で書きました。
⑵谺とともにちょうど谺も家に帰ってきた。
⑶谺ひびきでーす。谺ひびくでーす。二人揃って山びこーずでーす。

【棺・ひつぎ】
⑴「この棺は何製だ?」「スウェーデン製です」「イケア製か? 」
⑵あの棺を燃やせ!
⑶棺を閉められずにいた。詰め込んだ死体は入りきらなかった。「釘を打て! 」

【軍鶏・しゃも】
⑴この軍鶏は立派だ
⑵お前は中庭に出て軍鶏の戦いを見習え。
⑶今週は軍鶏係だ。世話をしよう!

三月二十三日(土)

【耄碌・もうろく】
⑴「耄碌といえば差別言葉ですか?」「言葉に差別はない! 使う人間が差別をするんだ」
⑵耄碌ババア!
⑶何だこの! 耄碌ジジイ!

【蠟燭・ろうそく】
⑴蠟燭はもっておけ、有事の際のために
⑵「蠟燭ってムズイ漢字ですね」「書いてみるとね」
⑶この蠟燭の蝋は蠟は人間の脂でつくりました。

【告解・こっかい】
⑴「告解審問」
「…国会審問のギャグですか? 」
⑵「告解せよ! 」
「…国会でですか? 国会議員が? 」
⑶「これがきみの告解かね? 」
「神父様、あなたは神の前では何でもしゃべりなさと」


三月二十四日(日)

【世間の風】
⑴ある出来事が彼を世間の風にあてた
⑵世間の風に当たってこい!
⑶俺の風こそが世間の風だ。

【涙声・なみだごえ】
⑴彼女の涙声はひどいや。ありゃたまらんぜ。
⑵女は涙声で男を口説いた。
⑶小路の壁のむこうから女のふるえた涙声が聞こえてくる。

【催合い・もやい】
⑴もやいの愛人。
⑵催合傘。
⑶同級生らのもやいの道場。


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