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派遣王女☆ウルスラ / 第8話(4,876文字)

■第8話■


バックトゥー・座・フューチャー PART1


扉絵


1頁 到着


パカパッパカパッパカッパカパッパカ……

キキーッ!!

ヒヒヒィーッン!!
馬のいななき声

ドゥドゥドゥドゥドゥ……
ブルブルブルブル…

月影に、カボチャの馬車が前足をあげるシルエット
侍従の影らは慌ただしく動きまわる

「急いでER室へ運ぶんだ!」
「緊急医療だ!!」
「キミは医局へ走るんだ!!」
「今日の宿直は!?」
「耳鼻科のダルビッシュ先生と肛門科のモウリーヨ先生が………」
「いいから連れてこい!」
「教授回診なんかどうでもいい!!
「首に縄くくりつけてでも引っ張ってくるんだ!!」


2頁 ER室


ピコーン、ピコーン、ピコーン……
医療機器の音

赤ん坊のアップ
全身は真っ赤に焼けただれている

エッダ婆はいう
「なんとひどい…ありさまじゃ……」
ウルスラは黙って赤ん坊を見つめる
エッダ婆はいう
「ヒルダさまのときよりも重症だ…」
「ヒルダさまのとき?」

「そうじゃ、あのときは戦時中じゃっての」
エッダ婆は延命カプセルに入った赤ん坊を見つめ
「ヒルダ姫のときは国王軍副将のボーディンの謀反じゃった」
「…らしい」
「それからフレディシマ一腕のたつ軍医が命をとりとめた」
「…らしい」
「ときおなじくして悪魔の角のようなとんがり帽子に巨大なフレアスリーブのローブ、得体のしれない薬品に染まったまだらの服に黒マント、首には黒真珠のように光る小動物のドクロのネックレスをぶらさげ、いろんな薬を煮込むための大鍋を背中にかかえ禍々しい歩きかたでが城を通りかかる。ステッキの握る銀の柄はこれもまたドクロ、ボタンを押すと目から赤い光線が…」
「エッダ婆」
ボッチは遮る。エッダ婆は美青年を見あげる
「なんだ、美青年よ」
ウルスラとルーシーはエッダ婆を見つめる
「なんだ?」
エッダ婆はきく
「その通りがかりの魔女って…」
ボッチはエッダ婆の全身を上からつま先まで舐めるようにみる
エッダ婆はステッキのドクロから赤いビーム光線をだしスルーする
ズコーッ!!

「でだ、姫はその通りすがりの『老婆』のおかげで…」
ぼっちはツッコむ
「エッダ婆? さっき『魔女』っていいましたよね?」
エッダ婆のステッキのドクロから赤いビーム光線をでる
ウルスラはルーシーに
「嘘をつくと赤い光線がでるみたいね……」
ルーシーはパブロ爺から借りたエッダ婆の写真を掲げる
エッダ婆のステッキのドクロは光らない
ルーシーは
象の写真を掲げる
エッダ婆のステッキのドクロから赤いビーム光線がでる
ルーシーは
猿の写真を掲げようとするとエッダ婆は
「もうええわッ!!」
ルーシーは《永久保存版・歴代の世界セレブ美女ランキング》という雑誌をひらく
エッダ婆のステッキのドクロは光らない
ズコーッ!!

「そのエッダ婆にとても良く似た老婆の薬膳療法で」
「ヒルダ姫は王女にとって重要な顔をとりもどした」
エッダ婆はピースサインをする


3頁 タイムスリップ



エッダ婆
「だが、不幸にも…この赤ん坊は…」
「このままだとあと……五秒後に死ぬ!!」
ウルスラは
「じゃあ、どどうすれば…」

「もう助かる手段はひとつしかない!!」
ウルスラとボッチとルーシーはじっとエッダ婆のステッキのドクロを見つめる。二秒くらい見つめる

「本当みたいね」

「嘘ついとらんわッ!!」

「火事を消してきなされ!!」

エッダ婆に「時空の楽器」を渡される
ウルスラはハーモニカ、ルーシーはたて笛、ボッチは膝に乗るほどのクラヴィコードだった。ボッチは「ぼくだけむずしいやーつ!」と文句をいう
「ハーモニーがうまく奏でられないと、五万年前に戻ったりするよ!!」
「ギョギョギョ!!」
「はいあと三秒」
ウルスラたちは
「で、できないよ〜」
「そもそもなにを奏でるんですか〜!!」
女の影が登場する
「まって!」
エッダ婆
「ど、どなたかッ!?」
赤髪の女は片膝の姿勢で
「サクラともうします」
エッダ婆
「ああ、酒場のくノ一お嬢ちゃん……」
「私も行きます!!連れてってください!!」
「もう、五秒、時間すぎてるよね〜」
「お嬢、いまはきっと三秒ルール内ですぞ」
ズコッー!!
エッダ婆は真剣な眼差しで、サクラを睨む
サクラは一瞬たじろぐが見つめかえす
エッダ婆は懐かしい顔をしてバンジョーを渡す
「あ、パブロさんの家にあったやつとおなじだ」
「そうじゃ、このバンジョーは弾く人を選ぶという…」
「幻のストラディバンジョーさ」
「この赤髪の娘なら、伝説のストラディバンジョーを引けやかもしれぬ」

エッダ婆がドクロの赤いレーザーポインターで柱時計をさす。
0時丁度。
「わかるかい!? 戻ってくるときは0時前だよ!!」

四人は大きな声で
「了解(ラジャー)!!」

「行きだけは、エッダ婆がやるぞ。帰りはしっかり練習してから戻りなさい」
エッダ婆はオカリナをだして吹きはじめる。するとオカリナから、ハーモニカとたて笛とミニクラヴィコードとストラディバンジョーの四種の音色がとびでる

ウルスラはさけぶ
「あ!! 酒場でみんなで歌ったわらべ唄だ!!」

エッダ婆はウィンクをし、楽しそうに踊りながらオカリナをふく

「♪あっヒルダさま、ヒルダさま」
「美人のうえに、頭(おつむ)良し」
「品格、風格、気だてよし」
「才色兼備に、器量良し」
「婿のきてありゃ、文句なし!!♫」

きゅるきゅるきゅるきゅるきゅるきゅるきゅるきゅる〜

「あ〜れ〜!!」

時空の音色に飲みこまれる四人



4頁 その前日



ドサッ

一軒家の雪が積もる建物の屋根に落ちる四人

屋根は急で、ゴロゴロと転がって軒先に落ちる

ドカ

そこは出会いの酒場の前だった
酒場の扉には「店休日」と張り紙がある
ボッチは困り顔をする
「まず、私たちがいつの日に戻ったのか」
「わかりません……困りましたな」

どしん、どしん、どしん
麦わらの巨人が薪を背負って歩いてくる

「あ、まっちゃん!!」

「なんだい。君たちはだれだい!?」

「これから釣りに行く?」

「釣りは明日の金曜だ。決まってる」
「明日はハナキンだ。そこの酒場もやってる」
「釣りの帰りに酒をもらって、家で晩酌だよ」

ウルスラはまっちゃんに懇願する
「あしたの夜、魚の丸焼きから子どもが三人落っこちる」
「おねがい助けて。困ってるからめんどう見てあげて!!」
まっちゃんは答える
「そんな筋合いはない。おれは子どもとかそういうのは」
「嫌いなんだ」
ガッーン!!
ウルスラとルーシーはボッチを睨む
ボッチは財布からガルド紙幣をだして渡す
「わかった。飯と着るもんを用意すればいいんだな」

三人は笑顔でうなずく

まっちゃんは去っていく

ボッチはすっかり青年のようになっていう
「僕たちは前日に来たわけですが」
「明日、この街のどこかで火事が…」

ウルスラは夜空を見あげる
「私たち、これからどこへ向かえばいいんだろう…」

サクラは答える
「エッダ婆に訊いちゃえば!?」

ウルスラとルーシーとボッチは
目から赤いビーム光線を夜空に放つ
ボッチは小声で
「これって、チート行為なのでしょうか…??」


5頁 屋台


雪道を歩く四人。街の中央広場から外れ路地の宿場街には格子窓が設けられさまざまな色合いののれんがさがる。のれんには裸の女が横たわる絵が描かれている
「あらまあ美男のお兄さん。チョイとあそんでおいきよ」
あちこちの格子窓から真っ白く塗られた腕がのびる

屋台がある

ぐぅうう〜

ウルスラ、お腹がなる。屋台の暖簾をくぐる

屋台の中

遠くから旅の楽団がどんちゃん騒ぎをするわらべ唄が聞こえる

「♪あっヒルダさま、ヒルダさま」
「美人のうえに、頭(おつむ)良し」
「品格、風格、気だてよし」
「才色兼備に、器量良し」
「婿のきてありゃ、文句なし!!♫」

ボッチはいう
「ヒルダ姫はこの国の人気者なのですね」
サクラはいう
「じつはそれを国民は素直に受け取れない事情がある…」
ウルスラはルーシーと箸ではんぺんの取り合いをしている
ボッチは訊ねる
「…それはどういう事情ですか?」
サクラはさつま揚げを口に入れ
「エッダ婆のいった謀反が本当だとしたら」
「先代の国王はスノーデル城の火災で死んで」
「ヒルダ様は赤ん坊のまま女王の座についた」
「それで当時、ヒルダ様には摂政がついた」
「その摂政はいまもいる。そう、彼の名は…」
「ボーディン。エッダ婆のいった国王軍の元副将よ」
「国民はみんなは、謀反なんて知らないの」

「♪あっヒルダさま、ヒルダさま」
「美人のうえに、頭(おつむ)良し」
「品格、風格、気だてよし♬」

ウルスラは茶碗に箸をぶつけて歌う
「いまここで歌うなーッ!!」

ボッチはいう
「それであのわらべ唄を」
サクラは話をつぐ
「あの日、フレディシマ城が真っ赤に燃えあがるのを」
「国民は目撃している。けど赤ん坊だったヒルダ姫は…」
ボッチは話を受けて
「ということはヒルダ姫は……籠の中の…」
ウルスラはセリフを被せる「…井の中の蛙!!」

「ちっがーッう!!」
ボッチとサクラはツッコむ

「だから、あの婿取りのわらべ唄は…」
「摂政ボーディンが退位しないかぎり…」
「実現はしないの」



6頁 三人のジーク・フリード



屋台

サクラは猪口を空けていう
「もうひとつ気になることがある……」
「あの顔の焼けた男の名…フリード」
ボッチは訊ねる
「…有名な名前なんですか?」
サクラは答える
「…ヒルダ姫を燃える城から救い出したのが」
「国王軍第九勇者討伐遠征軍白虎旅団長…」
「…ジーク・フリード・ボリス大佐……」

サクラはコップで一杯水を飲んで話をつぐ
「それから……城の火災あった日は……」
「奇しくも国王軍総大将ジーク・フリード・」
「ガルド大将が、ある寺院で亡くなった」

ボッチは驚き
「ここにもフリードの名前が……」

「国王軍の総大将フリード・ガルドは」
「ヒルダ姫を救ったフリード・ボリス大佐のお父様よ」
「片腕の猛将といわれたガルド将軍はあっけなく」
「城が火事の日に、毒を盛られて死んだ」

ボッチはメガネをおでんの湯気で曇らせて
「偶然にしては、出来すぎたシナリオだ」



7頁 サクラの父



サクラは話をつぐ
「あの日、副将ボーディンは勇者に猛攻をしかけていた」
「はずだった。だけど、彼は将軍を裏切って引き返した」
「ガルド将軍が寺院でだれかに毒を盛られていたころ…」
「ボーディンは、フレディシマ城に火を放った」

ボッチは喉をあげた。サクラは話をつぐ
「私の母方の祖父はガルド将軍の側近でその日…」
「……毒を盛られた場に、居合わせたの」

サクラはコップに焼酎をゴボゴボと入れている

ヒック

「私のパパは、ここではないどこかの異界から」
「この氷の世界に紛れこんできたみたいなの」
「勢いよく入ってきた拍子に、頭をぶつけて」
「記憶を失って、帰れなくなって、ママと出会い」
「この世界にいついちゃったんだって……」

ウルスラは笑って
「サクラのパパ。滝に落っこちて孤島に寄った?」
サクラは目玉を飛びださせる

がぐげごッ!!

「あんたなんでパパのことを知ってるのよ!!」

ウルスラとボッチとルーシーは目を細めて
「あ〜ね!!」
サクラは
「あ〜ね!!ッてなによ!!」

きゃはははははっ


フードをふかく被った男が、手でのれんをあげる
「大将、まだやってるかい?」
大将は苦笑いをして答える
「おう、フリードさん。いま、満席でね」
四人は目玉を飛びださせたまま固まる
フリードと呼ばれた男は、のれんをあげたまま
「じゃあ、おでんをもち帰りで。適当に見繕ってくれ」
大将は鉢巻を外して、空になったおでん鍋をさして
「わ悪りな、フリードさん。売り切れちまったんだ」
大将はあごで四人を示す

チッ

フリードは舌打ちをし、のれんをさげる
立ち去るフリード
サクラはガバッと立ちあがる
「フリードさん!!」

フリードはふりかえる
(三つの月をバックに大男のシルエット)
「なんか、おれに用でもあるのか?」
「イノウエ・エンスイ!!」
「おまえエンスイのなんだ?」
「わたしイノウエ・サクラです!!」
「………」

「私、フリードさんに、ひと言いいたかった!!」
「父イノウエ・エンスイの最期を看取っていただき」
「ありがとうございましたッ!!」

「サクラ……それは違うんだ…」
「おれは…エンスイの命を守れなかった…」

ジーク・フリードはゆっくりとフードを外して
三つ月の光で照る路に土下座をし
頭を雪の上にこすりつけた



第9話へつづく


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