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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑤

"女々しい"なんて言葉、誰が作ったんだろう。

大正時代の男ならまだしも、令和に生きる僕には、男なのに"女々しい"感情がとにかく渦巻いていた。

最初のうちはよかった。晃たちと居酒屋でマリや彼女への不満を言い合ったり、しばらくぶりに各地に散った仲間たちと予定を合わせて旅行をしたり、楽しく過ごした。
正月を実家で過ごしたこともあって、大体1か月くらいは経っただろうか。
久しぶりにひとりの家に帰りついた僕は、猛烈な寂しさに襲われた。

こんな時に限って、晃も健二も捕まらない。
晃は地元で知り合ったギャルと一番楽しい時みたいだし、健二は再就職が決まり、なんだか輝いて見えた。
そんな二人を邪魔する気にはなれない。そのうち携帯を手に取ることも減った。

俺は一体何をしているんだ。
また、あの言いようのない、時間と一緒に世界に置き去りにされたような感覚が、僕の身体の表面を包む。
正月休みが明けて、在宅勤務でもいいというところを優先的に出社して、仕事に打ち込んだけれど、夜、電車に揺られて、暗くて冷たい部屋に帰ってくるとまた、死んだように何も出来なくなった。

そのころからだ。身の回りの出来事でマリのことを思い出すと、泣けてきた。本当に涙が出ていたのかはわからない。それでも、心が泣いていた。
その時、いつもあの目を思い出した。あの猫の目。古田家の愛猫が、じっとこちらを見つめていた。

ああ、僕は本当にマリのことが好きだったみたいだ。

―猫の目がキラリと光る。彼の名前は何だっただろう?

いや、違う。それは違うな。僕は"今"、マリが好きなんだ。
付き合っていた時、僕たちが0になった前日、あの時は好きでいられていたかわからない。
なんだかおかしいような気がしたが、考えれば考えるほど、そうとしか思えなかった。

僕たちは学生時代に知り合った。晃の友人として紹介されたマリは本当に輝いて見えて、僕は一目で好きになった。
僕が初めてのお付き合いだったから、晃や当時の友達の力があって、ようやく付き合えたようなものだ。最初はかなり不格好だった自覚がある。
それでも、二人にしかわからないことが確かにあって、互いに手を取り合って、お付き合いを始めた。

社会人になった時、同世代のカップルに別れのブームがやってきた。
周りのカップルが何組も別れたけれど、僕たちは問題がなかった。話し合いをして、僕たちのルールをうまく擦り合わせできたから。
あの頃は僕も素直だったように思う。周りのカップルの恋愛相談に乗れる余裕に誇らしさを感じながら、いつしか僕たちの恋心は落ち着き、安定した。

いつからだろう。いつの間にか、いろんなことが煩わしくなっていた。
あの時感じた安心は、慢心にすり替わってしまった。
最後は義務感から一緒にいて、それはおかしいとわかったから、僕は別れを受け入れた。

でも、マリはここにいないのに、なんで今の方が好きなような気になるんだろう?
この恋心に似た感情はなんだ。僕はマリのことをいつからか好きじゃなくなった。そして別れた。それで終わり...本当に?

私が育ったのは、海も空も近い町でした。風が抜ける図書室の一角で、出会った言葉たちに何度救われたかわかりません。元気のない時でも、心に染み込んでくる文章があります。そこに学べるような意味など無くとも、確かに有意義でした。私もあなたを支えたい。サポートありがとうございます。