あおい

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あおい

小説を書いていきます。 だんだん上手くなれたら。 ▼相談ボックス aoizorano@gmail.com

マガジン

  • 【人生哲学】集

    あおいの人生哲学集です。

  • 【短編】集

    あおいの短編集です。

  • 名誉ある僕の死について

    初めて完結させた小説です。

  • 【詩】集

    あおいの詩集です。

  • 鴨のキリトリセン

最近の記事

ミクの妄想日記

おならというものをしたことがない、という人がいる。 そんなわけないだろ、と思う。 雑多な喧騒の中で、ミクはひそかに妄想する。 「あそこのお兄さんはホンモノで、毎晩歳上の彼氏に迫られてるの。」「あっちのお髭のお兄さんは実はすごくドMで、毎晩ふわふわの手錠をして、セクシーなお姉さんに責められてるんだ。」「あ、あそこのお兄さんタイプ!あの柱の裏で、手を回されて弱いところ弄られたい〜。」 頭の中であられもない妄想をしながら、涼しい顔をして足早に都会の街を通り抜ける。まだ5月だとい

    • 駄文作文: 『鴨のキリトリセン』②

      すごく遠い風景を一つ、覚えている。 田舎道、川沿いに歩く時、黒く白く光る川波を縫うように走る白っぽい線。鴨の家族が隊列を組んで泳いでいく。点々と続くその姿は優美で、鴨たちは地上を歩く律には永遠に追いつけない、高尚な儀式をしているように思えた。隣には会えなくなった妹がいて、律は彼女が転ばないよう手を繋ぐ。反対側の手には木の枝。幼い日の律は、意気揚々と歩いているうちに鴨のことなんか忘れて、妹と歌を歌いながら家に帰るのだ。 繰り返し思い出すので、妹がいた頃の風景というと、決まって

      • 駄文作文: 『鴨のキリトリセン』①

        遠くで雷の声が聞こえる。カーテンは開いているのに、とても暗くて夜みたいだ。律は携帯を片手にのそのそと起き上がった。時計を見上げる。午前7時。あたりの空は暗く鈍色に光り、遠くに雷鳴が見えた。ところどころ雲の隙間から陽の光がさしていて、おもちゃみたいな街並みを照らす。隣のビルの屋上にある青々と茂った草が光って見えた。寝てしまった間に一雨あったのだろう。この雲の様子だと、にわか雨だろうか。 椅子に何とか腰掛けると、働かない頭で煙草を咥えて火をつける。何もない箱みたいな部屋に煙を吐

        • 【評】色気とあざとさ(色気・色香 つづき)

          色気が各人の歴史から立ち上るものなら、あざとさはそれを小手先で真似たテクニックだ。憧れ・嫉妬・悪事・恨み・魅了…「あざとさ」に向けられる感情は、良いものから悪いものまで、様々あるだろう。わたしが小さい頃は、悪い意味が主だっていたが、今では認められ、市民権を得た人気の言葉のように思える。 言葉は、それ自体では何の意味も持たない。文脈によってのみ理解されるものである。巷には常に諸説が存在するが、社会が、加速度的に便利になり、効率的に物事を処理できるようになったことについて異議を

        ミクの妄想日記

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        • 【人生哲学】集
          3本
        • 【短編】集
          1本
        • 名誉ある僕の死について
          6本
        • 【詩】集
          2本
        • 鴨のキリトリセン
          3本

        記事

          【評】色気・色香とは(雑誌ANAN NO.2226を読んで)

          色気・色香とはなんだろう。 人と身体的距離が際立つ現代。『色気』・『色香』なんて、薫り立つような、空気に存在が滲み出るような概念が、より一層必要とされているんじゃないかと思う。空気に滲み出るようなものの源泉は、いったいどれくらいの濃度であるのか。想像してしまった時点で、もうその人の毒牙に係っているような気がする。色とは、そういった類のものだろう。 さて、とはいえ、以前ほどの薄暗い・ねっとりした夜・また、女性的、などのステレオタイプのイメージはやはり似つかわしくない。もうこ

          【評】色気・色香とは(雑誌ANAN NO.2226を読んで)

          【短編】結婚を決めた日〔読み切り〕

          私には、学生時代に好きな女の子がいた。 今でも目に焼き付いている。オレンジ色の窓辺で、輝く瞳。黒く艶やかな髪の毛は、オレンジ色の光に照らされ、揺れていた。 彼女は、バレー部の部長だった。他のスポーツ系の部活と違い、弱小で、サークルとか同好会みたいな雰囲気の部だった。彼女自身も、他のバレー部員も、普段から穏やかなタイプで、外部から見たら、文化部の私たちとも大差がない。体育館からは、いつも楽しそうな笑い声が、軽やかに響いていた。 私は美術部で、筆を洗いに行く時、気分転換と称して

          【短編】結婚を決めた日〔読み切り〕

          【詩】やさしさのメロディ、ホーム

          私は、孤独な人だった。 毎朝、目が覚めると実感する。 ただ独り、そこに在る自分の存在を知覚する。 それが何日も、何年も、何十年も続いて、そして私は孤独となる。 風景と同化して、自然を受け入れて、気がつけばひとり。 認識の世界はどんどん境界がなくなるのに、肉体はまだ一個体。 光合成がしたい。生命のエネルギーってなんだろう。 死んだら、一体化して土に還る、海に還る、塵になる。 光に照らされ、うつくしく輝く瞬間もあるだろう。 生命。このエネルギーが、私の体を覆い、私と世界

          【詩】やさしさのメロディ、ホーム

          【詩】やさしさのメロディ、かなしみ

          私は、「やさしさ」に触れるのが人よりも上手だった。 自分は、ずっと強い人だと思っていたけれど、こころは何とも繊細だった。 繊細だから強いとも言える。 とにかく感じて、受け止めて、影響を受けて、鎮める、その回数が人よりもずっと多かった。 多いと慣れる、上手になる。上手というのはうまく出来るということだ。 だから、勘違いしてしまう。自分は強くなったのだと。 本当は違う。現象を受け止められることと、受け入れて、消化できることは違う。時間は感情を風化させるが、無かったころに戻る

          【詩】やさしさのメロディ、かなしみ

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑥

          翌朝、あの日のように外に出た。 今度は11時くらいだったので、カフェの店内もまばらに人がいる。ベビーカーを連れた女性はあの日と同じ人だ。 今度は胃にやさしいカフェオレが飲みたくなって、いつかのテラス席から店員を呼ぶ。 バイトは、女子学生からパートらしき中年女性に変わっていた。 「しばらくお待ちください。」メニューを下げてもらい、改めて店内を見渡す。と、今日はベビーカーの中が見えた。 ベビーカーには、赤ちゃんではなく利口そうな犬が座っており、飼い主を黒い瞳で見つめていた。

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑥

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑤

          "女々しい"なんて言葉、誰が作ったんだろう。 大正時代の男ならまだしも、令和に生きる僕には、男なのに"女々しい"感情がとにかく渦巻いていた。 最初のうちはよかった。晃たちと居酒屋でマリや彼女への不満を言い合ったり、しばらくぶりに各地に散った仲間たちと予定を合わせて旅行をしたり、楽しく過ごした。 正月を実家で過ごしたこともあって、大体1か月くらいは経っただろうか。 久しぶりにひとりの家に帰りついた僕は、猛烈な寂しさに襲われた。 こんな時に限って、晃も健二も捕まらない。 晃

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑤

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』④

          「予約してた秋元です。」 「アキモト様ですね。お連れ様はもういらしております。」 笑顔で通された先がまさかの個室で驚いていると、開けられた襖の奥には晃だけでなく健二もいた。 「どうしたんだよ、こんな店いつもとらないだろ。ていうか健二、久しぶり。面接とか調子どう?」 黒のダウンを脱ぎながら、問いかける。身体がいきなりの暖かさに驚いて、若干汗をかき始めていた。 晃は店員さんを呼び止めて、小さめの声で「生で。」と言った後、素早くこちらに向き直り、口を開いた。少し顔が赤い。 「そ

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』④

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』③

          外に出ると、息が少し白かった。 もうこんな季節か。思ってはっとする。 あと何回こんなふうに思うんだろう。同じことを繰り返す愚痴はマリみたいで、少し嫌気が差しながら。 でも、本当に、あと何度こんな日を迎えるんだろう。年老いても一人だったら流石に嫌だな。 「って俺、センチか。」 近くのコーヒー屋の少し重めのガラス扉を開ける。 店内には2組しか見当たらない。最近来なくなっていたのでわからないが、開店直後かもしれない。 ここにはマリとの昔の思い出も沢山あったが、記憶から押しや

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』③

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』②

          ぜろ、ゼロ、零、Zero... 本当に不思議なことに、僕たちの関係性はまっさらだった。 昨日までは彼女の家のエレベーターが点検される日も、近所のパン屋の新しい営業時間も、外でキスが出来るちょっとした秘密の場所も、全て逐一発見されては共有されていたのに、手癖で点燈させたベッド上のスマホ画面には、今日はなんの通知も見当たらない。 僕たちは、それらがまるで見えていないかのように扱うようになるのかな。 二人とももう気づかず、気づいても共有されることのないそれらは、なんだか遠い昔の

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』②

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』①

          起きると、いつもと変わらない光景が広がっていた。 厳密には、何もかもが違うはずなのに、 どうしてこう、変わり映えがなく、つまらなく感じてしまうのだろう。 昨日とは、違うはずなのに。 日常はいつもこうだ。 何かを追い求めて動いてばかりいる時は、とてつもなく時間が足りないようで、焦りばかりが助長されるのに、こんな風に起きる気もなく起きてしまう、気持ちの悪い朝は、ぼーっと寝室を見渡していても、昔読んだ絵本に出てきた孤島に置き去りにされたような、時間が永久に止まっていて、ずっとそ

          駄文作文:  『名誉ある僕の死について』①