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深夜、無人のタクシー乗り場、そのベンチ。

深夜、無人のタクシー乗り場、そのベンチ。

1時間に2本しか電車が出ないこのまちで。
坂の途中にある駅舎のタクシー乗り場で。

ペプシの青いベンチにだらりともたれ、空を見る。

なぜここに?と思わざるを得ないアイスクリームの自販機。
多分使っているのは僕だけだと思う。一番右下の、ブドウのアイス。180円。小銭をパジャマに突っ込み毎晩課金。

寿命が目前の街灯がチカチカと振り絞る。
鈍い灯りに時代を感じ、時折街から拒絶された気分になる。懲りずに毎回くるのだけど、今日もやっぱりダメだった。

ああ、どこにも居場所がないんだと。

そうして僕は諦めて家に帰る。
家に帰ると君はいつも小さな丸いすに器用にあぐらをかいてキーボードを叩いている。

「起きてたの」と僕が言う。
「キミが出て行く音で起こされたんだよ」と彼女が言う。

僕は彼女にアイスを1本渡した。これで手打ちに、と。
チョコミントのアイス。200円。彼女はパソコンを閉じて、アイスを食べる。

「いやー、もう少しさ、静かに出ていってくれないかね」と彼女。
「電気をつけずに部屋を出るのは難しいんだよ」と僕は言う。

「毎回起こされちゃって参るよ」
「でもアイスで許す」とチョコミント女。

僕は知っている。

君はずっと起きている。
僕がタクシー乗り場に行かない日も、起きている。

0時を回った頃にもそりと起きてキッチンでキーボードを叩いているのを僕は知っている。

僕は彼女より先に起きた時だけタクシー乗り場に行く。
彼女が先に起きたら僕は寝たふりをする。

彼女が先に起きた日は、キーボードの音でいつも目が覚める。
でも何も言わない。寝たふりをする。

彼女がキーボードを叩いている間だけ、僕はここにいてもいいんだと思える。

大げさではなくて。

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