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掌編・短編小説

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五百から二千字程度の短い単発小説をまとめています。末尾記載の日付は初回公開日、日本語はタイトルの日本語訳です。
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記事一覧

sans titre

 ただ暑かった。体中から汗が吹き出し、それに加えて触れる先なにもかもが湿っていた。汚れを…

青虫うにぽよ
3か月前
2

La pause pipi -side Ben

「アイツのことどうしたいんですか」 「あいつ? アレクサンドルのことかな」 「他に誰が」 …

青虫うにぽよ
3か月前

彼の名はレオ

 何度目かの訪問にいまだ慣れない心地で司祭館の玄関ドアを叩いたアレクサンドルは、腕時計を…

青虫うにぽよ
3か月前
1

déjà-vu

 夏の日差しの強さを和らげる風に加え、庭でさえずる小鳥の鳴き声が耳に心地良く、薄暗く涼し…

青虫うにぽよ
3か月前

「私のものになって」

 止まりかけた呼吸に喘ぐように体を捻り、ずるりと落ちた布団に巻き込まれて床に着地した衝撃…

青虫うにぽよ
3か月前

Sentimental

 灯りを消していくらかの時間が経ち、司祭はとっくに暗闇に慣れた目をしばたかせた。天井は変…

青虫うにぽよ
3か月前

After one night,

 決して広くはないベッドで、隣で眠る人が寝返りを打つ振動に夢の輪郭が一気にぼやけた。先程まで素肌が触れ合っていただろう半身が嫌に熱い。寝返りを打ち背中を向けた相手も同じだったようで、汗が滲む背中にはブラックだったかブラウンだったか、濃い色の髪が張り付いていた。  アレクサンドルは覚醒してもなお重たい頭と運動後の気だるく軽い体を持て余し、できるだけ静かに半身を起こし布団から体を脱出させる。汗で湿ったシーツは目覚めてしまえば肌寒い外気が恋しくなるほど居心地が悪かった。自分がいた分

1959 シャトー・ラフィット・ロートシルト

「なるほど、これが正解か」  つい先程まで饒舌に話していたのが落ち着き、グラスを握って鼻…

青虫うにぽよ
3か月前
1

独り善がり

 腰に響く揺れに覚めた目が、タクシーの中と思われる窮屈そうな自分の足元を映した。通り過ぎ…

2

贅沢者

「どこが好きなのよ」 「なにが」  どうやらこの後か明日に約束があるらしい「憧れの紳士」に…

1

call my name

「シャルマン」  確かに目は合っているのに呼んでも返事も動きもないことに、会話途中で気付…

3

ぬるま湯

 目を開けても、そこにはぼんやりと霞む天井と、自分の髪や鼻や口から立ち上る気泡しか見えな…

甘いのが好き

 ノックの音にすぐに開いた玄関扉の中から、いつもどおりのゆるやかで色っぽい笑顔が現れる。…

2

それは瞳の色に似て

「質問しても?」  キッチンでりんごを剥くシャルマンの横で作業を観察していたアレクサンドルが控えめな声で問いかける。朝食を終え一息ついた頃合いに始まったシャルマンの余り物を利用した備蓄作りを、他にやることもないからとアレクサンドルが眺めはじめて数分。朝食でも出されたりんごが次々と剥かれカットされていく。 「どうぞ?」 「なに作ってるの?」 「ジャムにしようと思ったが、君の時間が許すなら午後にはアップルパイが焼き上がる」 「あります」 「返事が早いね」 「もう一つ質問してもいい