青虫うにぽよ

ツイッターでうるさくやっています。ツイッターに投稿した一次創作小説を加筆修正しまとめて…

青虫うにぽよ

ツイッターでうるさくやっています。ツイッターに投稿した一次創作小説を加筆修正しまとめていきます。 作品紹介はプロフィールを参照ください。 同性同士でのキスやハグ程度のスキンシップ描写が含まれます。該当話ごとの個別の注意喚起は行っておりません。ご容赦ください。 更新は気分です。

マガジン

  • 掌編・短編小説

    五百から二千字程度の短い単発小説をまとめています。末尾記載の日付は初回公開日、日本語はタイトルの日本語訳です。

  • ④彼は如何にして迷える子猫となったか。

    Comment il est devenu un chaton égarée. 北の教会にての前日譚。全三話。

  • ③私はあなただった。あなたは私になるだろう。

    Tu fui, ego eris. 彼の墓を訪れる話。タイトルはエピタフです。全三話。

  • ②私のかわいい子猫ちゃん

    Mon petit chaton. 青年の罪とそれを赦す悪魔の話。全十六話+後日談。

  • ①北の教会にて

    A l'èglise du nord. 悪魔と子猫の出会いの話。全四話。

最近の記事

  • 固定された記事

4/25更新【参考】推奨閲覧順リスト

概要 話数が100近くなってきたため、下記に作者が推奨する閲覧順をまとめました。 今後も時系列順不同で更新する予定のため、その都度順の入れ替わりや追加、差し替えが発生する可能性があります。ご了承ください。 なお、更新の際はなにが追加されたかわかるように記載予定です。 ※ほぼ時系列順ですが、話の都合上前後しているものもあります。 ※内容精査の上、推敲を兼ねて加筆修正後にリスト追加となるため、本リストは都度更新となります。 ※一部のタイトルは日本語訳バージョンで記載していき

    • sans titre

       ただ暑かった。体中から汗が吹き出し、それに加えて触れる先なにもかもが湿っていた。汚れを拭うようにシーツに手も足も身体も擦り付けてほんの一瞬空気の冷たさを楽しんだかと思えば、また自分からその手を湿らせた。  今冷静になってしまえば、そのすべてが汚いと感じてしまうのだろう。アレクサンドルはそう考えながら、濡れた肌を掴もうとして滑る手を再度シーツで拭って、眼前に白く浮く肌のうち、ちょうど掴みやすそうな腰のくびれに手を回す。 「後ろからが好きなのね」  振り返り髪の隙間から覗いた目

      • La pause pipi -side Ben

        「アイツのことどうしたいんですか」 「あいつ? アレクサンドルのことかな」 「他に誰が」 「彼が望まない限りどうもしない」 「名前もたまにしか呼んでもらえないって嘆いてる」 「それはいいことを聞いた。かわいいね」 「本心?」 「他になにが」 「ふざけているならあいつの代わりに怒ってもいい」 「怒られたくはないな」 「俺はあいつに幸せになってほしいんでね」 「私だってそうだよ」 「……それの半分くらい、あなたも幸せになればいいのにと思ってる。でも二人の思う幸せがずれたところにあ

        • 彼の名はレオ

           何度目かの訪問にいまだ慣れない心地で司祭館の玄関ドアを叩いたアレクサンドルは、腕時計を確認し、さすがに早すぎたかと独り言をこぼした。しばらく待ってもなんの反応もなく、念のため庭に周り家の中を覗き込んでみるもカーテンが開いているだけで誰もいない。起きてはいるようだが不在、と考えながら、何度か石畳や砂利道、玄関を行き来し、そのうちに諦めて玄関ポーチに座り込んだ。  早朝以外は日差しの入るポーチの居心地は存外悪くなく、アレクサンドルを上機嫌にした。少ししてどこからか毛並みの良い猫

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        4/25更新【参考】推奨閲覧順リスト

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        • 掌編・短編小説
          54本
        • ④彼は如何にして迷える子猫となったか。
          3本
        • ③私はあなただった。あなたは私になるだろう。
          3本
        • ②私のかわいい子猫ちゃん
          17本
        • ①北の教会にて
          4本

        記事

          déjà-vu

           夏の日差しの強さを和らげる風に加え、庭でさえずる小鳥の鳴き声が耳に心地良く、薄暗く涼しい屋内でぼんやり夢うつつに身を任せていたアレクサンドルはふわりと体にかけられた布の感触にソファから反射的に上半身を浮かせた。  肌触りの良い薄手のブランケットが突然空気中から現れるはずがない。ブランケットをかけたポーズそのままのシャルマンは、突然体を起こしたアレクサンドルがぶつからないように少し仰け反ってぱちくりとまばたいた。起こしてしまったね、とつぶやいた声は小さい。 「少し眠るのだろう

          「私のものになって」

           止まりかけた呼吸に喘ぐように体を捻り、ずるりと落ちた布団に巻き込まれて床に着地した衝撃でアレクサンドルは目覚めた。ラグと布団のお陰で体の痛みはほとんどないものの、夢見の悪さと衝撃によって早鐘を打つ心臓が不快で、酸素の薄い頭は重たい。そのまま床で寝返りを打ち、天井を見上げ呼吸を整える。全身が嫌な汗でじっとりと湿っていた。  喉から迫り上がるような拍動を浅い呼吸で押し留め、まずは着替えようと腹や胸に張り付くTシャツをはたはたと持ち上げた。  このまま一人で朝まで眠れるだろうかと

          「私のものになって」

          Sentimental

           灯りを消していくらかの時間が経ち、司祭はとっくに暗闇に慣れた目をしばたかせた。天井は変わらずそこにあり、シーツは体温と混ざり合うように同じ温度になっている。脚を少し開けば、隣で同じく仰向けで眠る男のぬるい肌に当たった。 「シャルマン」  目を覚ましたのか、まだ眠っていなかったのか、すぐに衣擦れの音とともに寝返った揺れが伝わってくる。同時に、触れた司祭の脚は男の長い脚に絡み取られた。  最後に見たときには目をつむり緩やかに胸を上下させていたその男が薄く目を開きこちらを向く姿を

          After one night,

           決して広くはないベッドで、隣で眠る人が寝返りを打つ振動に夢の輪郭が一気にぼやけた。先程まで素肌が触れ合っていただろう半身が嫌に熱い。寝返りを打ち背中を向けた相手も同じだったようで、汗が滲む背中にはブラックだったかブラウンだったか、濃い色の髪が張り付いていた。  アレクサンドルは覚醒してもなお重たい頭と運動後の気だるく軽い体を持て余し、できるだけ静かに半身を起こし布団から体を脱出させる。汗で湿ったシーツは目覚めてしまえば肌寒い外気が恋しくなるほど居心地が悪かった。自分がいた分

          1959 シャトー・ラフィット・ロートシルト

          「なるほど、これが正解か」  つい先程まで饒舌に話していたのが落ち着き、グラスを握って鼻歌混じりにへらへらと笑うアレクサンドルを前に、かなりのスピードで空になったワインのフルボトルをテーブルの脇に寄せながらシャルマンがつぶやいた。アレクサンドルがほとんど初めて見せるこの上なく上機嫌な姿は、シャルマンの口の端を持ち上げる。その声にも表情にも気付かないままに、アレクサンドルはゆらゆらとグラスの中身を揺らした。 「さっきのもおいしかったけど、これ本当にすごくおいしい。高いやつ?」

          1959 シャトー・ラフィット・ロートシルト

          独り善がり

           腰に響く揺れに覚めた目が、タクシーの中と思われる窮屈そうな自分の足元を映した。通り過ぎた街灯が一瞬だけ薄暗い車内を照らす。右手に抱えたままの上着と荷物に寄りかかっていた体を戻すと、腕がジンとしびれを自覚した。  足元に落としたままの視線を左にずらすと、磨かれた革靴ときちりとプレスの効いたスラックスが見える。シャルマンだ、と気付くと同時に、座席に置いた左手が指先で叩かれていることに意識が及んだ。おそらく目覚める前から続けられているだろうそれは一定の、あやすようにも、急かすよう

          贅沢者

          「どこが好きなのよ」 「なにが」  どうやらこの後か明日に約束があるらしい「憧れの紳士」に電話をかけて戻ってきたアレクサンドルに、同僚のベンが半ば義務感で聞く。  先程まで飲み始めの勢いで盛り上がっていたくだらない愚痴と世間話、シモの話の空気は落ち着き、お互いにそれなりに酔いが回って「ご機嫌」そのものだった。アレクサンドルに至っては上機嫌のあまりブンブンと揺れる尻尾の幻覚が見えそうなほどにまとう空気が弾んでいる。電話から帰ってきて、尻尾の気配はより濃厚になっていた。 「あの人

          call my name

          「シャルマン」  確かに目は合っているのに呼んでも返事も動きもないことに、会話途中で気付いた司祭がシャルマンの顔の前で手を振る。 「シャルマン? 聞いてる? シャルマン」 「なんだい」  視界を遮る手を握り押さえると、シャルマンは再度司祭と視線が絡んだことに満足気にため息をこぼした。何度か手を握り直し、冷たい手のひらを指で撫でる。 「シャルマン、どうかしたのか。具合でも悪いかい」 「いや、全然」  自然と持ち上がったシャルマンの口角に、司祭が怪訝そうに眉をひそめた。次の言葉を

          ぬるま湯

           目を開けても、そこにはぼんやりと霞む天井と、自分の髪や鼻や口から立ち上る気泡しか見えない。規則正しい心音とやけに響く水の揺れる音以外はなにも聞こえない。温かく浮遊する、夢の中のような空間。それほど長くない間だが、アレクサンドルが思考に沈み込むには十分な時間があった。ぬるく柔らかい膜につつまれる、息苦しさを忘れる瞬間だった。  広いわけではない浴槽の中、揺れる視界の先に、突然赤く光る瞳が飛び込んでくる。なんのためらいもなく膜を突き破って差し入れられた冷たい手が素肌に触れて、の

          甘いのが好き

           ノックの音にすぐに開いた玄関扉の中から、いつもどおりのゆるやかで色っぽい笑顔が現れる。いつもの嫌味ではない甘い匂いも一緒に香る。 「こんにちは、子猫ちゃん」 「……やあ」  アレクサンドルが一言返事をしただけで、その色男、シャルマンの眉が訝しげにぐんと持ち上がった。  そんな顔もかっこいいのか、と、ざりざりと砂を噛むような声の主は苦笑いでその表情に応えた。 「……ひどい声だ」 「やっぱり?」 「風邪かい? 体調は?」 「酒焼けだよ。飲んで騒ぎすぎて。二日酔いも抜けてるし、喉

          甘いのが好き

          それは瞳の色に似て

          「質問しても?」  キッチンでりんごを剥くシャルマンの横で作業を観察していたアレクサンドルが控えめな声で問いかける。朝食を終え一息ついた頃合いに始まったシャルマンの余り物を利用した備蓄作りを、他にやることもないからとアレクサンドルが眺めはじめて数分。朝食でも出されたりんごが次々と剥かれカットされていく。 「どうぞ?」 「なに作ってるの?」 「ジャムにしようと思ったが、君の時間が許すなら午後にはアップルパイが焼き上がる」 「あります」 「返事が早いね」 「もう一つ質問してもいい

          それは瞳の色に似て

          le prince charmant

           アレクサンドルは久しぶりにこんな時間まで眠ったと、丸め込んで抱えた布団を退かし慣れた様子でシャルマンの部屋を出る。顔を洗いに向かった朝日のよく入る東向きのバスルームはすでに明るさのピークを超え、アレクサンドルのために用意されたであろう洗面化粧台の上のタオルが日の光に置き去りにされたかのようにぽつんと白い。  鏡を覗き込んだ先の顔色は随分とよかった。いつも以上に酒を飲んだ記憶は本人にはないが、それでもシャルマンが隣で寝ていたかどうかは覚えていない。一人で眠ったのだとしたら部屋

          le prince charmant